私家版メーカー法務への誘い

年末恒例#legalACの一環としてのエントリです。エラそうな表題で、すいませんすいません(汗)。

※up直後から抜け漏れがあったので、一部追記した。今後も気づいた範囲で適宜記載を追記する可能性がある点、ご容赦ください。

 

こちらの見る限り、メーカー法務は、キラキラ系*1にはなりにくいこともあるのか、あまり情報発信がないような気もする(気がするだけかもしれないが)。そこで、僭越ながら、メーカー法務が通算4社目で、気が付くと法務部門の責任者を拝命している者*2の独断と偏見に基づき、メーカー法務*3について書いてみようと思い立った(滝汗)。大きく分けて3つくらいの話題について書かせてもらおうかと思う。誘いというほど積極的にお誘いする内容になっていないが、殊更に誘うようなものではないと思うので(謎)、これはこれで良いと考える。


以下については、こちらの過去のエントリ・呟きの焼き直しの部分もあるけど*4、その点はご容赦いただければ幸甚です。もちろん、個人の経験に基づく部分が大きいので、異論がありうることはいうまでもない*5

 

その1:メーカー法務の特色は?

メーカー法務が、IT系(比較対象としてわかり易そうなので、比較の対象としただけで、それ以上の意味はない。以下同じ。)とどこが違うのか、つらつら考えると、少なくとも次の諸点は特色と言えるのではないかと思うのでありました*6*7

  1. 特定の場所で形のあるモノを作ること
  2. サプライチェーンが長いこと
  3. 自社の製品の製造過程や製品の使用に際して、人命が失われる直接の危険があることがあること

一つ目は、当然のことかもしれないが、この中にはさらに二つのことを含んでいるという気がしている。

(1)時間と距離の制約に服するということ。形のあるモノを作るには、時間がかかる。人間がいくら頑張っても物理法則を超えることはできない。そして出来上がったモノは地球上の特定の一か所に確定的に存在するだけでしかない。出来上がったモノを売るために移動させるにも時間がかかる。そのような時間と距離の制約からモノ作りのプロセスが完全に自由になることはあまり考えにくく、費用やマンパワー、マシンパワーをいくらつぎ込んでも克服できない制約を意識せざるを得ない。裏を返せば、そうした制約を前提にして商売を考える必要がある。モノを作る拠点を作るとなると年単位の時間が平気でかかる*8。メーカー全体としてそういう制約を踏まえた商売の仕方をしているし、法務の業務もそういう前提を踏まえた仕事になる。
昨今の状況を踏まえた一例をあげると、製造現場でのリモートワークというのは想定しづらい。むしろ一時帰休とかの方があり得るかもしれない。この辺りが労務周りの法務に影響することは言うまでもない。

さらに、製造拠点という特定の場所を設けることとの関係では、工場誘致関連の法律も絡んでくるし、製造拠点が土地代とかの関係で、都会から距離を置いた地方に設けることになると、人間関係が閉鎖的になりがちなところでの労務周りの問題等も重要になってくる。閉鎖性故の対応の難しさがあることも留意が必要と考える。

(2)もう一つは、これも形のあるモノを作るという営為から必然的に導かれるもの、ことだが、特定の場所での生産活動に起因する環境との関係が問題となるということ。
当節流行りのSDGsとの関係でも重要になる。製品の使用及び製造過程における二酸化炭素削減というのは商品企画の上でも重要になることもあるだろう。それを抜きにしても、環境周りの法規制との関係(後述)は無視できない。

 

3つのうちの二つめは、一つのモノを作るには、多数の材料などを使うし、一つの最終製品を作るまでに複数の業者がそれぞれの製品を作り、それを自社の顧客に納入するというプロセスが繰り返され、そうした連鎖が長いサプライチェーンを作ることになる。昨今の状況を見ていてもわかるとおり、輸送も含めた長いチェーンのどこかで何かが起きると、生産はあっさり止まる。また、長いサプライチェーンの中で、最終製品を作るメーカー以外は、自社のサプライヤーと顧客との間の板挟みになることになる*9。納入先との契約におけるリスクをサプライチェーンに乗せてサプライヤーに転化できればと思うが、そううまく行くとは限らない。多種多様なモノを作るメーカー同士では、一方があるときには買い手になっても、別の時には他方が買い手になることも想定されるので、あまりご無体な契約内容を取り決めると、攻守交替したときにはブーメランのように跳ね返るリスクがある。それと、製品採用の検討時には、製品についての詳細な情報の入手が必要で、そうした情報はその企業にとっては秘密情報であることも多く、情報の受け渡しの際にはNDAが取り交わされるのが通常となる。当然ながら、そういう際のNDAが「セレモニー」的なものであるはずもない。そのため、NDA締結段階から揉めることも珍しくなく、かつ、そういうものが大量に発生するということが多い。

 

3つ目は、製造現場での労災事故(プラントが爆発するとか、製造に使う機械の誤作動に巻き込まれるとか)があったり、製品の誤作動(一酸化炭素中毒を引き起こすとか、食中毒を起こすとかも含む)により、従業員等の過重労働・ハラスメント等(これらは他でもあり得るだろう)以外で、人命が失われ、そのことから法的問題が生じうるというところ。個人的にはその種の事態に関わったことはこれまでのところないが*10、実際に立ち会ったら洒落にならないプレッシャーがあるだろうなとは感じるところ。なかなか大変な話になるため、メーカーによっては、この種の事態に備えた訓練があるという話も聞く*11

 

その2:メーカー法務の概観を試みる

以上のような特色を踏まえ、もう少し具体的な概観をしてみるのがこのエントリの趣旨?に沿うと思うので、以前エントリにして、途中で挫折した試論/私論に加筆などしてみる。こちらの経験値も多少は上がっているはずなので、内容も多少は向上していると思うことにする(汗)。多少冗長な部分もあるが、その辺はご容赦あれ。こちらの能力の限界故に抜け漏れや誤りがあるだろうが、それについては適宜の手段でご教示いただければありがたい。

 

日系メーカーの仕事を、直感に従っておおざっぱに分けると、大きなくくりとしては次のような感じになろうか。

  • 共通 
  • 製造 
  • 研究開発 
  • 営業 
  • 海外 
  • 管理 

パンデクテン風?に共通する部分はとりあえずくくりだしてみた、が、その内容については、そこから後でも適宜言及してみたい。


0.共通
(1)やり取りする相手方の素性に関する話
反社関連(暴力団排除や、アメリカの対応する関連法規も含め)や、当節では奴隷労働とか人権系のお話もさることながら、国境をまたぐ話が絡むとビザとか輸出管理系のお話(外為法とか、米系の会社ではアメリカの再輸出規制も)とかも出てくるだろう。この辺を軽んじると「ちゃぶ台返し」が生じる可能性があるので、定型的な処理にはなろうが、一定程度の対応は重要ということになろうか。
なお、輸出管理系のお話は、人・モノ・金すべてに絡むし、モノについては、有体物だけに限らないので、注意が必要。それと、この辺は当然のことながら、与信とかにも関係するだろう。 
さらに、特に社会主義国では、相手先が公務員か、国営企業なのか、というような話も、FCPA、UKのBribery Act、日本の不競法の海外公務員贈賄禁止の話とかの関係で別途注意が必要なのだろう。
(2)情報のやり取りに関する話
とりあえずNDA、ではないけど、NDAは何かにつけて重要なのは言うまでもない。NDAだけで秘密が守られるわけではないので、営業秘密としての保護をきちんと保てるよう管理の実態への目配り、NDAに書いてあることと管理実態との間での整合性が重要になることはいうまでもない。  
個人情報についても状況に応じた対応が必要なのは言うまでもない。
(3)働く人と企業との関係
従業員との関係での労務管理、だけではなく*12、派遣とか構内請負で仕事をされる方々との関係も含めての話。労働法、下請法、に限らず、最近聞かないけど、偽装請負の話も出てくることもあるだろう。  
(4)書面の取り交わし等に関する話
当節流行りの電子契約周りもさることながら、紙の文書については印紙税(日本のそれのみならず、海外における同種のものも含む)や、特定の業界における書面の取り交わしの要請(建設業法が脳裏をよぎるがそれに限らず最近は電帳法もそうだろう)も視野に入れておく必要がある。
また、取り交わした書面のその後という意味では、書面の保管についても、税務調査との関係だけではなく、訴訟対応*13も視野に入れておく必要があるだろう。
(5)税務
企業活動として、費用をかけて売り上げをあげて、利益を出して、という一連の流れの中で、税務は常に意識しておくべきなのだろう。経験的に、「ちゃぶ台返し」になる確率が高いのは税務。最近だと収益認識基準や電帳法との関係でこの辺りを意識する機会も増えたのではなかろうか。
(6)許認可
事業そのものに許認可がいる業種に限らず、あちこちで、許認可は必要になるので、これも重要。新しいことを始めようとする際に、実は許認可がいるのに気付いてなくて、みたいなことになると大変。内容によっては、取るのに手間とか時間がかかる(有資格者を社内に抱えないといけないケースでは、社員を有資格者にするか、有資格者を雇うかしないといけないし)ケースもあるので。
関連して、最近ではISO関連等も重要(取ってないとそもそも契約交渉の土俵に上がれないこともままあるので)。製造業だと14001と9001がまず押さえるべきところになろうか。

【(7)(8)は某メーカーの法務部長の方からのご指摘を受けて追記。】

(7)コンプライアンス

既に挙げた項目、税務、許認可等と重なる部分もあるが、重ならないところもあると思うので挙げておく。ソフトローの部分まで(昨今のSDGsとか*14も含む)含めると、無視できない重要性があることは間違いないだろう。

(8)知財

メインが特許になりがちだけど、それ以外にも商標とか意匠などブランドに関するもの(不競法でカバーするものも含む)も、相手にするモノ次第でははいってくる。ただ、法務とは別に知財部署があることも多く、そちらとの切り分けも問題となる。特許・実用新案以外は法務というケースもあり得る。

1.製造
各論?の最初は製造現場。どこからどこまで現場とみるのかよくわからないところがあるが、まあそれはそれとして(謎)。
(1)環境
メーカーで製造拠点込のM&Aの時にDDで一番気を付けるべきは環境、と言われたことがあるが、納得するところ。理由は簡単で、一番リスクが見えにくいし、意識しにくいから。操業年数の長いところでは、昔はこの辺りに注意が今ほど払われていなかったこともあり、管理が今ほど徹底していなかったことも考えられる。敷地の隅に廃液を捨てていたとかあり得る。そういう次第でまず最初に挙げておくべき内容だろう。どういう製造工程で何を使って、何を作っているかで異なると思うが、思いつく範囲では次のようなところは時として対応が必要になる。この辺で何か起きたときに、規制当局・近隣等への対応のサポートも求められることが想定可能。

  • 騒音・振動・悪臭
  • 大気汚染(大防法等)
  • 水質汚染(水道法、水濁法等)
  • 土壌汚染(土対法等)
  • 消防法
  • 廃棄物処理(廃掃法のみならず、当節ではアスベストとかPCBとかが厄介か。アスベストとかになると除却債務の問題も出ることもあろうか。)
  • 個別の化学物質ごとの規制(化審法とか労働安全衛生法とか出てくる)
まあ、操業に直接絡む話は、現場のことを知らないでうかつなことも言うと事態が無駄にややこしくなるから、法務にいるような人間がどこまで力になれるのかというと、正直疑義がある。実際には製造現場側で現場の諸々を熟知している方々が上記法令を理解して運用をする中で求めに応じてサポート(法解釈とかの面を)することになろうか。
(2)有形固定資産の管理
土地とか建物もそうだけど、設備もある。債権保全との関係で問題になる(譲渡担保とか)こともあるだろうけど、工場の敷地が広く、歴史が長いと、土地境界で近隣ともめるとかもあり得るだろう*15。権利関係については、事実を証拠書類と現物とで照合しておかないと、処分のときにハマることになる。固定資産の管理という意味では総務が担当するのを支援する形になるのだろう。
(3)調達とか購買
 モノやサービス(IT系のサービスなども含まれる。)の調達、という意味では、下請法、独禁法(ここではヨコ(同業者間)もそうだけど、調達先との関係ではタテも重要になる。)というあたりがまず関係するけど、サプライヤーが倒産等した場合には、債権保全の問題が出たり、次の調達先をどうするんだというあたりの議論も出てくる。サプライやーとの間でトラブルがあった時の対応のサポートが要るのはいうまでもない(このあたりは前に書いたこちらのあたりを合わせて参照されたし)。
サプライヤーとの関係では、反社対応とか、ESGとか、グリーン調達とか、反奴隷労働とか、ISOもからむし、扱うものによっては、紛争鉱物の問題も出てくることもある(自社の顧客からサプライチェーンの流れにそって話が下りてくるわけで…)。
あと、東日本大震災の直後にはBCPとの関係で自社のサプライヤーについての情報開示を求められた場合にどうするか、なんて話も出てきた。どこから何を調達しているのか、がノウハウということもありうるので扱いが実は面倒だったが...。
(4)製造プロセス内 
プロセスという書き方をしたが、プラントということもあるだろう。要はメーカーの肝とも言うべき(ファブレスいうのもあるけど…)、製造工程それ自体である。
いわゆる構内請負とかがあると、偽装請負とかの関係をどうするか、という話も出てくる。作業している人との関係では労働法(労働環境に関わるものも含めて)が関わってくるのは言うまでもない。また、改善活動などの中から出てきたアイデアを権利化するという議論が出てくると知財の話が出てくるかもしれない。
あと、製造それ自体という意味では、製造したモノの品質との関係では、PL法や品質保証との関係が出ることがあるかもしれない。不具合が問題になった場合には製造工程それ自体についての議論は必須だろうから。
(5)技術導入・技術移転
要するにライセンスイン、ライセンスアウトみたいな話なので、知財マターになることも多い。製造拠点の海外移管との関連では、営業秘密の保護とか先端技術の移転との関係で輸出入規制などの他の法規が絡むこともあるのかもしれない。ついでにいうと、この関連で知財権侵害とかのクレームが来る可能性も考えられるように思う。

2.:研究開発
*正直この辺は(も?)、こちらの場数が少ないので言えることが少ない…(汗)
(1)製造?
研究施設がある場合で、特に試製造とかする場合には、製造のところの話(固定資産の管理とか、環境回りとか)は重なる部分があるだろうと思う。環境回りは、製造よりも試行錯誤の過程で、少量とはいえ、よりいろいろなものを扱う可能性があるので、環境回りでの問題での注意が必要かもしれない。
(2)知財周り(広い意味で)
開発系という意味では、上記のほかに、当然のことながら、知財関係のお話はいろいろあるだろう。権利化、ライセンスイン・アウト、共同研究、侵害対応というところに絡む話が出てくる。それとは別に、研究者の方々に対する褒章の話も出てくるだろう。研究者の流動性を考えると情報漏洩の防止や情報のコンタミ防止も重要になる。
研究開発と施設の接点という意味では研究施設のセキュリティも重要になってくるかもしれない。
また、大きなプロジェクトとかになってくると、時として機関法務マターになったり、開示とかの話になるのは言うまでもない。

 

3.営業
(1)商品開発
商品開発とかの場合は、研究開発で出てきた話が形を変えて出てくる可能性があることに加えて、上記に加えて、商標の話も出てくるだろうと思う。
(2)商品宣伝
宣伝資料との関係では、B2Cほどではないとしても、景表法の不実証広告とかの議論も時として出てくる。また、商品のパッケージとかについての規制が出てくることもある。
(3)販売行為
直販の場合は、独禁法の規制は同業者間の話(ヨコ)を気にすることになるだろう。販売する際に、負担可能な範囲を超えた義務を負わないよう契約を管理する必要があるのは言うまでもない。
商社などの代理店を使う場合は、代理店との関係では独禁法の再販売価格禁止などの規制を気にすることが多いのではなかろうか。

【追記:最近のwebを使った販促手段との関係では、利用規約の話が出てきたり、特定電子メール法を意識しないといけないこともあるだろう。個人情報保護法及び海外の同等の法令を意識すべきこともあるだろう。】

 

4.海外
海外なんておおざっぱな括りが役に立つのかというと疑問は尽きないが、一応いくつか特徴的と思われる点についてのメモを。海外なので、現地の公務員が絡むと海外公務員贈賄規制とかを視野に入れておく必要があるのは言うまでもない。
(1)進出・撤退それ自体
ここはある意味わかりやすいのかもしれない。投資規制とか外資規制がある場合の対応等が含まれる。税制面での優遇措置等を踏まえる必要がある場合もあるだろう。おそらく留意すべきは、進出の時にどうやって撤退するかまで視野に入れておかないといけないということ。撤退しづらい形にしてしまうと困るということになろう。
(2)カネの動き
その国に日本から送金するとき、その国から日本に送金するとき、双方について規制があるかもしれないので、注意が必要。マネロン規制とかが主かもしれないが、それだけではないだろう。中国の子会社からの送金時に当局に送金にかかる契約書の登録が必要でその際には中国語優先の内容でないといけないという話をされたことがあるが、この辺りに関係する話になろう。
また、現地でカネを稼ぐ際に税制面で注意すべき点があれば、それも含まれるだろう。
さらにいうと、為替レートの問題で、どの通貨でカネを動かすか(代金としてもらう通貨等)も重要で、そこのリスクへの対応も時に重要になる。為替予約の類でカバーできる話とそうでない話があるようなので。
(3)人の動き
日本から人を送り込む際のビザとか、送り込んだ後の危機管理(治安の悪いところでhは重要)の話もそうだし、現地で現地の人を雇う時の規制も考える必要がある。撤退を考えるのであれば解雇しやすい方法で雇うことも考える(実現できない可能性も高いが)必要があるだろう。労働法周りは、労働組合対策も含めて面倒な話が多いと思われる。
(4)モノの動き
シンプルにモノの移動自体に伴うリスクについての保険の付保は必須だろうし、輸出入管理の問題もあるし、モノの受け入れの際にトラブルになることもあり、対役所では海外公務員贈賄禁止の問題も出る。中国における来料加工などのように税金面の計算も踏まえての動きを検討しないといけないときもあるだろう。
(5)情報の動き
GDPRをはじめとするあのあたりの話。正直エラそうなことが言えるほどの知見はない。国ごとの規制の差異をどう踏まえるかは重要であることは間違いない。
(6)地域特有の規制
ざっくりしているが、これはこれで重要。都度確認するしかない。
日本で意識しないけれど、地域によっては注意が必要ということになっている一例として、代理店保護規制が思いつくが、個人的に注意が必要な地域の話を担当したことがないので、正直よくわかっていない。

 

5.管理系
メーカーの管理系特有の何かは正直思いつかないので、メーカー法務をしていて、他の管理系の部署との接点のありようについて、若干のメモをしてみる。

  • 税務所管部署:なにはともあれ税金周りは重要。営利企業で利益を出すべき宿命である以上やむを得ないし、何より、蚊帳の外においておいて、ちゃぶ台返しを一番くらい易いのは税務と感じる。その意味でもっとも「巻き込んでおく」価値は高い。
  • 財務会計系の部署:税金所管部署と別の場合、こちらについても巻き込んでおかないと、これまたややこしい話になりかねない。契約を纏める際に、社内の定型的な支払型と異なる対応を依頼するときとかは特に。
  • 内部監査:いろいろなところで接点があるが、共闘すべきとき*16に共闘できるようにするのが重要という気がする。
  • IR・開示・広報・機関法務まわり。この辺は、大きな話や不祥事になると必要になる。この辺をしくじるとダメージがでかい。スケジュール的な部分でも、取締役会決議とかを要するときは、特に重要
  • 知財知財権の絡む話の場合は知財との関係が重要なのは間違いない。
  • 輸出管理:ハマるときは厄介なことになるので、適宜連携が必要になる。モノが小さいとハンドキャリーとかの問題が出るので、注意が必要だろう。
  • 総務:いろいろなところで接点はあるので、密に連携を取るべきところの一つ。総会の事務での接点があったり、稟議周りで接点があったりとか、企業ごとの業務分掌のあり様次第。
  • 人事:人の手当を要する案件については当然そうなる(自部署におけるものも含む。)。また、不祥事との関係では調査や懲戒の場面で接点が出ることもある。
  • 秘書:実態的な話というよりは、スケジュール管理的な意味で、役員説明とかとの関係で、視野に入れておかないとこれまたハマる羽目になる。
  • IT:(抜けていたので追記)IT周りのサービスの調達契約などで関係するだけではなく、データの管理という意味で接点が出ることもある。一例をあげると、個人的には、過去に、米国での訴訟との関係でlitigaiton holdを掛けるときにITと協議をしたことがあった。最近では個人情報保護法制との関係で接点があることもあるだろう。

こちらの気力の関係で、深堀がしきれなかったけれど、何かの参考になると嬉しい限り。

 

その3:極私的メーカー法務向けブックガイド

とりあえず話題は3つにしろということで(謎)、最後は、故BLJを偲びつつ、メーカー法務向けブックガイドをやってみようかと。恒例のブックガイドのあった12月なので。網羅的に紹介できるほど詳しくないので、メーカー特有の要素のありそうなところに重点を置いて、こちらの手元にあるものを中心に若干のご紹介を。読み終えて感想をエントリにしたものは適宜当該エントリにもリンクをしておく。

 

まず手始めには、再三こちらで推しているこの2冊から。JILA本の後で島田事務所本という流れがスムーズだろう。この2冊でメーカー法務の概観をするのが良いと思う。

dtk1970.hatenablog.com

dtk1970.hatenablog.com

 

契約法務という意味では、広範な範囲をカバーする定番阿部井窪片山本は外せない。個別の契約分野については、その他については、こちらが見た範囲では、取引基本契約は滝川氏の本NDAは出澤事務所の本、業務委託については、渕邊先生たちの本というあたりだろうか*17

 

M&A関係では、大手事務所の鈍器系の本はさておき、契約は、NOT本株主間契約のものも含め)だろうし、DDについては、チェックリストや、NOT本と、業種別という意味ではTMI本も良いと思われる*18M&A全体では、AMT本柴田先生の本*19などは手元にあると良いと思われる。

 

債権回収・債権保全では、業種別の担保活用の本が興味深い。

 

下請法は、毎年11月に更新される公取のテキストと、長澤先生の単著と、編著、双方があると良いと考える。後者では、メーカーの中でも作っているものの差異も踏まえた解説がなされているので、特に興味深かった。

 

PL法は何が良い本なのかわからないので略。消費者向け最終製品のメーカーにいたことがないから正直わからないというところ。

 

取締法規系では、環境周りは、網羅性でISO環境法あたりがあると便利。輸出管理などについては、中崎先生本がよさそう。

 

…というわけで長々と書いた本エントリはここまでとしたく。#legalACの次はせこさんです。宜しくお願い致します。

*1:その意味はさておき。

*2:こちらの経歴は、書ける範囲では次のとおり。こちらのこれまでの経歴は、書ける範囲で書くとこんな感じ。1社目。新卒で入ってまず関西で勤務、5年目から本社法務部門→4.5年国内法務をしたあと海外法務に留学含みで異動→2年東京で海外法務と並行して留学準備(この過程でblogを始めた)→サマースクール込みで1年間ボストン。LLM@Boston U.修了→シンガポールで海外法務を1年して転職→2社目。東京で日系メーカーで法務2.5年、この間にNYBarに合格してNY州弁護士登録→3社目。東京の日系メーカーで法務2年→4社目。東京で米系メーカーで法務5年9か月。働きながら司法試験に合格までこぎつける→退職して司法修習→2019年から東京エリアの弁護士事務所(主に企業法務系の事務所)でイソ弁を2年→2021年4月から日系メーカーの法務部門の責任者(インハウス)

*3:とはいえ、こちらの経験がB2Bメーカーに限られているのでB2Cメーカーや、所謂ファブレスのメーカーについては、当てはまらない部分や足りない部分があるかもしれないことについては、ご留意をいただければと思う。

*4:それなりの年数に渡ってblogでエントリを垂れ流しているとそういうことも生じるわけで...。

*5:ついでにいうと、偉そうに書いていることについて、現在過去未来において僕がどこまで実践できているかもいったん棚上げしている。そうでもしないとこの種のエントリはとても書けたものではない。

*6:先に忘れそうなので注記しておくと、メーカー法務向きかどうか、というよりも、メーカー向きかどうかは、おそらく単純な問いでわかると思う。製造現場を見てワクワクできるか、これに尽きる気がしている。

*7:以下については、数名のメーカー法務の先達の方々からご示唆をいただいた。心より感謝するとともに、それでも文責がこちらにあることを付言しておく。

*8:撤退だって時間がかかる。

*9:最終製品を作るメーカーは、サプライヤーと小売業者との間に入るのでそこにどこまでの差があるかは別途検討の余地はあるだろうが。質的に完全に同じとは言えないような気がする。

*10:過労死の事例とかには接したことが有る...。

*11:訓練の実例については、「危機管理役員手控帖」に記載がある。同書の著者がかつておられた企業での実例がベースになっているものと思われる

*12:ここだけでも相当色々な問題を含んでいることは言うまでもない。

*13:アメリカに限定して考えると書面は残さないほうがいいという考え方もあり得ると考えるが、日本でのビジネスを考えると反対の考え方に傾くことが多いと思われる。

*14:現代の免罪符ビジネスという指摘に接して納得した。

*15:購入したけど使用していなかった土地があって、それを処分しようとしたら近隣と境界でもめたという事例に巻き込まれたことがある。

*16:不祥事対応とかが多いか。

*17:英文契約やアメリカ法系については既に書いたこちらをご参照あれ。このエントリ自体が大概長いので、再掲はしない。

*18:ビジネス法務誌連載時に途中まで目を通してはいたのだが、本にまとまってからは読めていない。

*19:事業承継系の話はメーカーでは良くある話なので、特に有用と思われる。