ジュリスト 2024年 04 月号

例によって目を通した範囲で、呟いたことを基に感想をメモ。

  • 海外法律情報のドイツのクレジットスコアリングの制限の件(詳細略)は、GDPRとの関係での問題になる態様が興味深く感じた。同様の問題が本邦でも生じるのかが気になるところ。
  • 書評。
    山口元最高裁判事の書籍への書評については、こちらが不勉強で内容がよくわからなかったが、体系を「美しく」示すという表現は、理解しづらいものを感じた。
    もう一冊の方は、同じ分析手法を構想したが挫折したという実務家の方が、当該手法の意義と実現の困難さを述べているのが興味深く感じた。
  • 判例速報。
    会社法のものは、法律上保護に値する利益であるとの認定が緩やかであるという解説での指摘が興味深い。事実関係からすればそう判断しないといけないだろうけど。
    労働判例速報は、違法行為の命令・強要がパワハラに当たるという裁判例が出たのは社内研修とかのネタに良さそう(汗)。解説の最後での指摘も重要そう。
    独禁法の、民事訴訟において押し紙を理由とする不法行為の成立を否定した事例は、押し紙とかまだあるんだというのが正直な感想。紙の新聞の定期購読をしていないからそう思うのかもしれないが。
    知財判例速報のドクターマーチン事件控訴審は、解説での類似事件との比較が興味深い。
    税務判例速報の相続による債務の承継と債務免除益課税は、相続の額が多いと諸々大変そうと感じた。そういう世界と無縁でよかった(汗)。
  • 特集1は労働時間規制に関する働き方改革
    最初に公労使それぞれのそれなりのクラスの方々による座談会。理論というよりは現場でどうなっているかを見通す感じで面白く読めた。思ったよりは改革はなされている(足らない点はあるとしても)という印象。
    大内先生の原稿では、バックキャスティングの手法の必要性の議論は興味深く感じた。他方でデジタル技術による個人の労働時間規制については、記載よりもさらに慎重な対応が必要ではないかという気がした。
    黒田先生の原稿は産業医の立場からの労働時間規制と健康確保措置の現状と課題の解説。労働の健康への影響についての解説は興味深く感じた。
    有田先生の原稿は労働力不足に対する労働市場の法整備について、政策提言も含めて論じられている。最後の指摘にはなるほどと思う。
    特集は現状こういう状況なのか、というのが見える感じがした。自分の働いているあたりしか認識できていないので。

  • 特集2は性同一障害特例法意見大法廷決定。
    駒村先生の憲法学からの考察。特例法に関する最高裁先例の展開も興味深く感じたけど、身体のインテグリティと精神のインテグリティの対比の方がより印象に残った。それと同性婚訴訟との関連での事実認定のあり方についての指摘もなるほどと思ったところ。
    マシャド・ダニエル先生の原稿は民法からの考察。立法府側の対応の問題点の指摘になるほどと思う。
    野中Jの原稿は担当調査官による解説。特集の最初にこの原稿が来ない点が興味深い。
    龔敏先生の原稿はいわゆる「LGBT理解増進法」の問題点などの指摘。政治過程での諸々の妥協の結果生じた問題点の指摘が鋭い。「終わりに」のところで、積極面の評価や今後の展望があるのもよい。
    この特集は、この決定のある種公式な解説と研究者視点での論評、関連する法令の検討、という内容でこの決定の位置づけの理解が進んだ気がした(気がしただけかもしれないが)。
  • SDGsと経済法は、日本法でのSDGsと競争法の正当化、適用除外についてというあたり。相談制度の活用は確かにあり得るのだろう。
  • 海外進出する企業のための法務は日本との比較を踏まえた米国特許訴訟の特徴・留意点。ITCの話がなかったりするのはどうなんだとか、ディスカバリー費用の資料がちょっと古すぎないか(AIの活用で費用が減ったのかは知りたいところ)とか思ったが、全体としては穏当な内容なのではないか。
  • 時論は東芝の非上場化とガバナンスについて。ファンド悪者論への批判は理解不可能ではないものの、ファンド関係者の動きに疑義があるものがあったのも事実だったのではなかろうか。
  • 時の判例
    公職選挙法の件(詳細略)は、これまでの判例の流れとか判断枠組みの整理は秀逸だけど、この調子でやってると違憲無効判決とかでなさそうだけど、それでいいのかという気もしてきた。
    法定受託事務の件(詳細略)は、論理的にはそうなるのかもしれないなとは思った程度。
    他人の物の非占有者の件(詳細略)は、考えたこともなかった論点だけど、なるほど、と思って読んだ。
  • 判例研究。
    経済法の優越的地位濫用の件(詳細略)は、相対的優越の判断における時間軸に依拠した整理の仕方への批判はなるほどと思う。
    総数引受契約の件(詳細略)は、評釈最後に指摘のある再生計画との関係での問題の指摘になるほどと思う。
    裁量信託の件(詳細略)は、そもそも裁量信託という制度自体初めて目にした。判断枠組みの背後にある考慮の分析が興味深かった。
    平面的な絵柄に関する著作物性の判断、は、評釈IVでの批判はなるほどと思う。いずれにしても応用美術のところは判断が難しいと感じる。
    有期労働契約の更新上限の件(詳細略)は、評釈での更新期待に関する判旨批判に同意。
    労災保険制度における海外派遣者の特別加入の件は、評釈最後で書かれている議論の結果が気になった。
    雑所得の資産損失に係る業務供用資産及び雑所得起因資産の該当性は、話についていけない感じだった。
    刑事判例研究は、時の判例と同じ事件の評釈。本判決の意義と影響の検討が分かりやすく感じた。