ジュリスト 2023年 11 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • Information Loungeについては、見開き2pの記事でエクゼクティブサマリーが必要?というところが引っ掛かった*1
  • 書評。
    建設工事契約法については、面白そうに感じる紹介だった。最後の指摘は後日の対応を期待したいところ。
    航空経済紛争と国際法については、何がこの分野で問題となるかについての評者の説明が分かり易くてよかった。昨今の情勢からすれば確かに重要な問題という気もする。
  • 海外法律情報の、韓国の「消えた赤ちゃん」問題と出生に係る法改正は、どこの国でも問題状況は似ているのかもしれないと感じた。問題への対応は異なるとしても。
  • 特集1は2023年知財法改正。
    改正全体の概観を見開きで要領よくまとめた記事の後は、氏名商標の登録要件の緩和について。改正で何をしたかったのかの解説は分かりやすく感じたが、弊害とかないのか気になった。
    次いでコンセント制度の導入。アサインバックの煩雑さを、考えると導入は当然という気もした。
    新規性喪失の例外適用手続に関する意匠制度の見直し、はなるほどと思う。ただ、こちらの意匠周りの知見がないからそう思うだけかもしれないと感じる(他の分野の知見が深いわけでもないが)。
    営業秘密関連訴訟の国際裁判管轄・準拠法は国際私法や民訴法の議論も出てきて、難しかった。前例のない立法のようなので今後の運用の推移を見守りたいところ。
    デジタル空間における携帯模倣行為の防止は、不競法2条1項3号の趣旨がデザインそのものの保護でなく商品化コストを前提とした市場選考の利益保護にあるという指摘に納得。不競法以外での保護は難しいのかなとも感じた。
    外国公務員贈賄に対する罰則の強化・拡充については、外国人国外犯への処罰範囲の拡大は、そこが抜けてるよなと思っていたので、納得。また、子会社の現地法人の従業員とかは現地法での制裁しかないのかというと、両罰規定の「代理人」に該当したりする可能性があるのかというあたりは気になった。
    損害賠償額の算定方法の見直し、は詳細な脚注がリサーチには有用かも。状況変化の描写としては有用だろうけど、変化の背後に何があるのかみたいな話が知りたい気がした。
    特集は、こちらの勉強不足でよく分からないところはあったものの、この分野の状況のアップデートとしては良かったのではないか。
  • 特集2は仲裁・ADRの強化と民事手続のIT化。
    民事執行・保全・倒産に関する手続のIT化は、こちらも進展を知らなかった。実務をしないから疎くなるのはやむを得ないのだろうが。末尾のコメントには、某事件を想起すると納得するところ。
    仲裁法・ADR法の改正、は、インハウスになって現職で紛争が少ないことなどから、状況が把握できていなかったのでなるほどと思いつつ読む。暫定保全措置命令が出せるようになったのは、良い方向の改正ではないかと感じた。
    非訟事件(中略)に関する手続のIT化については、こちらも状況の進展をフォローできてなかったので、なるほどと思いつつ読む。
    こちらの特集も現状の概観としては良いのではないだろうか。個人的には業務でteamsを使っている限りでは、カメラオンでも相手の表情とかは読めないように感じるので、その種の対応を必要な話とかがどこまで実効的にできるのかが気になった。
  • 海外進出する企業のための法務は労務、特に危機の際の対応。特定の法域に紐付かない形で解説するとこうならざるを得ないのかなという印象。
  • 新法の要点は、原子力発電の扱い方に不安。
  • 企業買収における行動指針は、こういう内容をソフトローで作るのが適切か疑問というか違和感。
  • 時の判例
    法例の一部を改正する法律(平成元年法律第27号)の施行前における嫡出でない子の母との間の分娩による親子関係の成立の準拠法、の件は、法の適用に関する通則法附則2条の趣旨の解釈の仕方が何だか腑に落ちない気がした。
    父母以外の第三者で事実上子を監護してきたものが子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることの許否は、別の手段があるから申立てを認めなくてもいいという発想は理解不能ではないが、その別の手段が煩雑で、凄く使いづらく、結果的に実効性を欠いていないか気になった。
    墓地、埋葬等に関する法律10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営等に係る許可の取消訴訟と納骨堂の周辺住民の原告適格は、実に原告適格の問題らしいと感じた。H12年最判との関係の整理も興味深く感じた。
    捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用として許されないとされた事例は、結論は納得としても、理由付けで権利濫用の禁止の法理を使うのは、法律関係を不安定にする危険があるとの指摘のとおりで、結局立法による対応がなされたようで、その限りでは良い対応だったのではないか。
  • 判例速報
    会社法の引受人確定後の募集株式の発行等の取りやめは、何故そういう事態になったか理由が不明だが、別の買い手提示のより良い条件に乗り換えたということなのかもしれないと感じた。取りやめによる損害は損害賠償で対応するというのは会社のせり売りのような状況下ではやむを得ないのだろう。
    労働判例速報の公立学校教員の酒気帯び運転を理由とする退職手当全額不支給処分の適否は、退職手当管理機関と退職手当の性格との関係についての解説での指摘は興味深かった。
    独禁法事例速報のカートリッジの件(詳細略)は、解説での判断を示していない個所の指摘と正当理由についてのコメントが興味深く感じた。
    知財判例速報の職務発明の件(詳細略)は就業規則職務発明に関する規程を設けることと不利益変更との関係についての指摘をなるほどと思いつつ読む。
    租税判例速報のみなし配当課税の件(詳細略)は、なるほどという程度(汗。
  • 経済法判例研究は、フランスベッドの件を想起したのがこちらだけでないようで安心した。手段の不正さの分析には納得。
    商事判例研究の外貨建て変額保険の件(詳細略)は、そういうものか、と思う程度(汗。
    商事判例研究の新株発行差し止めの件(詳細略)は、会社法の公示と金商法の開示の足並みの揃わなさをどう理解するのが良いのか気になった。
    商事判例研究の監査法人の件(詳細略)は、監査法人の商人性についての検討が興味深かった。評釈の最後の指摘は、弁論主義を前提にすると仕方がなかったのではなかろうか。
    労働判例研究の健康組合による被扶養者認定は、評釈での訴訟経過概要の表が分かり易かった。紹介されている限りでは宇賀裁判官反対意見の方が妥当に見えた。
    労働判例研究の労働者の過失による作業の遅れと賃金請求権は、こういう賃金控除があるのにまず驚いた。評釈の最後での指摘には納得。
    租税判例研究の訴訟上の和解の国税通則法23条2項1号の該当性は、評釈での目的論的解釈への疑問の呈し方になるほどと思った。
    渉外判例研究の国際的な子奪取事案にける乳児の「常居所」は、ハーグ条約の出てくる話に接したことがあまりないので、こういう議論の仕方になるのかと思いながら読む。
    刑事判例研究の自首の件(詳細略)は、評釈での、過去の先例を分類したうえで、それらとの整合性を考えつつ、本件をどう位置付けるか分析されているのをなるほどと思いながら読む。

*1:それ以外の点は特にコメントしない。