ジュリスト 2022年 12 月号

例によって呟いた感想を箇条書きで貼ってみるなど。

  • 海外法律情報のうち、フランスの購買力を保護するための緊急措置は、ウクライナ情勢やそれによる物価上昇に対して政府がきちんと対応しようとしているように見え彼我の差を感じてしまう。
    英国の王位継承・首相交代と立法動向は、トラス首相が女性首相の3人目とあるのを見て、その前にメイ首相がいて、あと一人誰だったっけと、サッチャーを忘れていたのに気づく(汗)。法律の制定に君主の裁可がいまだにいること、その際かはここ300年ほど拒否されたことがないこと、に驚く。

  • 書評。商法の源流と解釈は、評釈を読んで読みたくなったけど、きっと読み通せないだろうな(謎)。解雇の金銭解決制度の研究の方も、興味深い内容にように見えた。

  • 会社法判例速報。解説の最後にあるH4最判とクローバック条項との関係の整理は確かに重要と思う。クローバックの可能性込みの報酬の決め方に包括的に同意したとか言うのだろうか。
    労働判例速報。家事使用人への労災保険法を適用を認める方が良くないかとも感じた。
    独禁法事例速報。景表法に基づく措置命令の仮の差止め。行訴法上の仮の差止めの制度の適用事例を、受験勉強以外で見るのは、はじめてかもしれない。解説Iの最後の段落の指摘は納得。
    知財判例速報。雇用関係にない者との間で職務著作が成り立つ条件で報酬の労務対価性が検討されていないのは面白いと感じた。
    租税判例速報。租税条約の正文が英文なのに、日本語の政府訳文を参照することを正当化した理屈づけが興味深かった。

  • 特集は、性に関する雇用平等と企業活動。冒頭の荒木先生の原稿は、趣旨説明だけでなく後続の各論考の要約まで含まれているが、こういうのは今まであまりなかったような気がするなど。
    富永先生の原稿は、雇用機会均等法のこれまでと現状のまとめという感じ。話が大きくなりすぎてどうしていいのかわからない感じがした。
    竹内(奥野)先生の原稿は、性的マイノリティの雇用がらみの問題についてのもの。この手の問題に、ここまでのところ勤務先でその手の問題に直面したことがなく、問題の難しさを感じる。
    所先生の原稿では、原職復帰原則を提唱されているけど、専門性が高いところとかでは簡単な話ではないように思うけど、その辺できるの?と素朴に疑問。理想論としては否定する気はないけど。島田先生の原稿は、笛吹けど踊らず、みたいなことにならないのか、よくわからない気がした。
    柿崎先生の原稿は、コーポレートガバナンスと女性活躍政策という話だけど、改革の必要性の話が最初にないので、何だか読みづらく感じた。
    この特集は、土地勘のない分野で、素人にとっては、玄人にとっては当然と思われる部分が、「飛んで」いるかのように感じる(実際にそうなのかは不明だが)ことが多かったような気がした。こちらの勉強不足ゆえのことかもしれないが。

  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識は森田先生の証券訴訟における損害算定について、マーケットモデルとかイベントスタディとかは正直さっぱりわからないが、当事者のモデル選択についての裁量を限定しようとする発想は、実体的正義より手続的正義を優先するかのようにも見えて興味深かった。その後の倉橋先生のコメントは、森田先生の論文の背後に読み取れる森田先生の「信念」と「諦念」についての読み解き方が興味深かった。

  • 判例詳解の山形大学事件は、評釈で指摘されている誠実交渉義務の中身が気になった。特に誠実交渉義務について「6」で指摘さえれている組合にとってのマイナス面が気になった。
    判例詳解の人傷一括払(以下略)のやつは、交通事故周りの実務を知らな過ぎて話についていけなかった(駄目)。

  • 新技術と法の未来は越境する技術と法・国家の役割ということで、国際経済法などの見地から昨今の諸々についての議論の紹介。広範な話過ぎて、話についていききれず、難しい話だなとため息をつくだけで終わる。

  • 実践知財法務は共同研究開発契約。大学相手の場合の留意点はなるほどと思いながら読む。 

  • 特別企画の同性カップルの法的処遇(2)。
    台湾での状況の記事は、その国での特有の事情との折り合いのつけ方が興味深かった。
    日本に関する整理は、法改正などの試みなどがなされていることも知らなかったので、有益と感じた。
    同性カップルの法的処遇に関する論点整理は、現行法の下でそれぞれの問題にどこまでの対応ができるかという分析を見ると、やはり何らかの立法で解決すべき問題が多いことが良くわかる気がした。
    論点整理へのコメントとそれへの応答は、論点整理の限界の指摘とそれへの応答が興味深かった。採用する立場を明確にしないと議論が収斂しづらいという指摘に納得。

  • 時の判例。婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合における婚姻費用分担請求権の帰すう。消滅説、転化説、存続説と学説があるのは知らなかった。存続説のような感じで考えていたので、解説の説明にも納得。
    ろくでなし子事件の最高裁判決に対するものは、正当行為として違法性が阻却されるか否かの検討の際に、構成要件該当行為の目的が、行為実行により実現される利益・価値でなければならないという解説での説明は、そこまで狭く考えないといけないのかは疑問が残った。

  • 判例研究。商事の自動車共済の運転者限定特約における「別居の未婚の子」の件は、判旨の事実認定が謎だなと思ったあたりが評釈で批判されていてなるほど思いつつ読む。
    会社法監査役が一名である場合の報酬額の決定は、監査役の地位の特殊性を踏まえた決定の仕方についての解説が面白い。監査役1名の時どうするかなんて考えたことがなかった。
    購買者の優越的地位濫用規制と準拠法指定との関係は、評釈末尾で指摘されているように、中間判決で準拠法選択判断をして、当該準拠法に基づく立証を準備する期間を与える必要があったのではないかという指摘に納得。
    労働判例の大学の非常勤講師に対する無期転換の特例適用の有無の件は、科技リノベ法とか任期法とか知らなかったけど、大学の講師についての位置づけに関する判旨と解説が興味深かった。
    劇団人の労働者性の件は、判旨で業務ごとに労働者性が認められるかどうかの検討をしているのが興味深かった。全体で見るべきという気がしたが。
    租税判例研究の時効消滅した租税債権に配当した配当処分の争訟方法の件は、不明確と思われる点の分析の仕方が興味深かった。内容にはついていけなかったにしても(汗)。
    渉外判例研究の北朝鮮帰国事業をめぐる件(詳細略)は、管轄の考え方についての評釈の批判には納得するところだが、慰謝料などの執行が困難で、訴訟自体が政治的意義のためにある感じがして、何だか微妙な気がした。