ジュリスト 2023年 1 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報
    アメリカの未解決殺人事件における被害者家族の権利に関する連邦法は、法律制定の背景(未解決謀殺事件が多いと市民の捜査機関への信頼が低下し、捜査協力が得られなくなり、さらに未解決事件が増える)が興味深かった。
    ブラジルの複線的な実親子関係の法的保護の件は、規定改定の契機が、多様化する親子関係の差別を禁止する憲法の規定に基づき、二重の法律上の親子関係の共存の可能性を肯定した最高裁判決というのが、印象的。

  • 会社法判例速報の表見支配人による債権譲渡が公序良俗違反により無効にされた事例は、解説で指摘のあるように、金額の大きさなどからすれば362条4項の問題はどうなったのか、が気になる事案だった。
    労働判例速報のウーバーイーツ配達パートナーの労組法上の労働者性の件は、結論はそうなるよねと思ったが、業務の依頼に応ずべき関係がないときでも、その他の状況から労働者性を認めることがあるという点が印象に残った。
    独禁法事例速報の公取委への事前届出のない公開買付で結合関係が肯定された事例は、直接関係ないが、N社がT社への公開買付を開始した正味の理由が気になった。解消措置の検討など相応の手間と費用が掛かることは予め想定可能だったはずなので。
    知財判例速報の音楽教室の生徒の演奏に関する音楽著作物の利用主体の件は、一審と原審・本判決のあてはめの結論の分かれ目についての解説が分かりやすかった。
    租税判例速報の外国子会社の合算税制の非関連者基準該当性の件は、話についていけなかったが、解説の最後の指摘にはそりゃそうだと感じた(汗)。

  • 特集は担保法改正。担保物権は苦手なままここに至るので、読む前からハードルが高い。
    冒頭の田高先生の「新たな担保法立法がもたらすもの」では、担保制度定立のための手法について、担保目的取引規律型と担保物権創設型との2つの考え方が紹介され前者を推奨されている。現状の実務との整合性から著者は前者を望ましいとしていて、なるほどと思う。後者で、「将来を見据えた一国の担保法制を設計しようというとき、現行法下で形成された実務との整合性にこだわって世界に例をみない特異な制度を作るより、将来の実務にとって使いやすい簡明な制度を考えるべき」とあって、既視感を覚えるとともに、導入時の混乱を考えない物言いは、実務サイドの賛同をえられないよなと思う。そして、脚注で当該発言の主の氏名を見て、懲りてないな、と感じた。
    集合財担保の法的構成をめぐる議論と今後の方向性の原稿は、こちらの理解不足で話についていけなかった(涙)。
    事業の担保と担保法改正のところは、事業担保が、株式会社における株式の担保とどう違うのかもよくわからない気がしたし*1、その他にも検討すべき論点が多そうな印象を受けた。
    集合財担保が担保するもの、の原稿は、Iの課題のところをよむだけだと、集合財担保なんか使われるわけないじゃないかという気がした。その後の部分では、担保権者と設定者の再交渉を軸に、制度がどのように機能するべきかというところから、バックキャストする感じで改正法の説明がなされている。こういう書き方だと、こちらのように土地勘のない人間にもとっつきやすく感じられた。ともあれ、この制度、どちらも大変そうなのは間違いないと感じた。
    銀行取引実務の観点から、の原稿は、日本の銀行の視点でみた現在の実務と改正法についてのコメントというところか。その次の原稿に比べるとポジショントーク臭は少なく感じた。
    担保法改正と金融実務、の原稿は外資系金融の視点からのコメントというところで、外資らしい率直なポジショントークと出羽守臭が「らしい」と感じた。
    特集の副題に現段階と今後の方向性、とあるように、中間報告のような内容だったけど、道は遠いという印象だし、動産譲渡担保については、実務上の問題点の方が大きくて、法律をどうこうしてどうにかなる話なのか疑義が残った。

  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識、は価格カルテル事件における損害賠償額の推定、は、ガチの計量経済の論文で、不勉強でまったくついていけなかった(汗)。滝沢教授のコメントでは、示されているのは相関関係で法的な因果関係とは距離があるとの指摘が印象的。

  • 書評。牧原先生の方はみっちり詰まった感じ。統治機構の動態という視点からの3点の指摘が個人的には興味深い。藤野先生の方は、対象書(こちらでは積読山に埋もれているが)の要諦を分かりやすく伝えている。読まないと...。

  • 新技術と法の未来は、IT化のお話で、こちらのように意識低い人間からすれば、意識高い方々がポジショントークをなさっているだけという印象しか受けなかった。意識高そうな方々が言いそうなことしか書いてない感じがした。

  • 実践知財法務はスタートアップについて、協業する相手の事業会社の立場からの検討。オープンクローズ戦略の有用性が説かれているけど、説かれている「毒饅頭モデル」が正味どこまで機能するのか、見た目よりも難しいのではないかと疑問に感じた。オープン化しても他が使うような誘因がないといけないけどその辺をどうやって確保するのか、それと、コアとして触らせない領域の確保との両立はどうやるのか、というあたりが技術に疎いせいか良く見えない気がした。

  • 霞が関インフォ CGCガイドライン改訂。無責任な役所が好き勝手弄ってないかという感慨を抱く。

  • 判例詳解の福島第一原発訴訟の件、行政への負のインセンティブの指摘に納得。
    もう一つの判例詳解ツイッターの件(表題長すぎるので略)については、H29決定の関係の分析が面白かったし、最後に指摘されている、問題となる事実の性質によって判断が分かれる可能性は興味深かった。

  • 時論。拘禁刑の創設について。刑事政策的な事項はまったく学んだことがなく、こういう議論があったのか、と思いつつ読む。
    時論の2つ目はUSの中絶判例の変更。「席史上初めて」「個人の権利を全体として廃止し、それを州に与える」と反対意見で書かれているのは、連邦最高裁としての責任放棄と言えるだろうし、そうであれば、指摘されている信頼の低下は当然のことなのだろう。強い言葉で過去の判例を批判しているのは、弱さの裏返しにも見える。次の大統領選挙結果次第では覆される可能性のある判決と見るべきなのではないかと感じた。
    時論の3つ目は銃規制違憲判決に見る法の支配の危機。中絶の件も併せ読むと、引用部分に見る連邦最高裁の多数意見については、結論ありきで書かれている印象が残る。解説で指摘されている上院の員数の問題も含め、深刻な問題と感じる。

  • 時の判例
    あん摩マッサージ指圧師(以下略)の件。22条1項適合性の判断枠組みの説明は、分かりやすく感じたけど、自分であてはめが出来る気はあまりしない。
    金商法167条1項6号の「その者の職務に関し知ったとき」に当たるとされた事例は、事実関係からすれば、該当という判断になるのは納得だけど、射程の及ぶ範囲には注意が必要な気がした。
  • 商事判例研究。仮想通貨利用契約に基づくサービスの利用の停止と債務不履行、の原稿は仮想通貨の話が分からず評釈もよくわからなかった(汗)。業界の標準的な実務とか相場観がわからないので、何とも、という感じだった。
    商事判例研究の保険契約の重大事由解除と故意・重過失免責の件は、重過失についての解説が印象に残った。
    商事判例研究の株主による勧告的決議を目的とした株主総会招集許可申立の件は、買収防衛策の特殊性を捉え、例外的に株主による勧告的決議を目的とする株主総会の招集を認める余地があったのではないかとの評釈での指摘に賛成。
    労働判例研究の試用期間満了の2カ月後を効力発生日とする本採用拒否の有効性の件は、判旨を読んで、なんか変だなと思ったところについての評釈での批判のされ方が興味深かった。
    労働判例研究の退職理由証明書と追加主張については、評釈での追加主張の可否を行政法分野の議論を参照して行っているのは興味深かった。
    租税判例研究の、譲り受けた債権の取得価額と回収額の差額の所得区分の件は、評釈での一時所得該当性の要件の整理が分かりやすく感じた。
    刑事判例研究の殺意の認定と刑訴法382条は、特殊な行為による殺人の場合の殺意の認定の仕方や未必の殺意の認定の仕方についての解説が分かりやすく感じた。

*1:TL上でご指摘をいただいたので補足すると、特に単一の事業しか営んでいない場合を考えるとそういう印象を受けた。