ジュリスト 2023年 03 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 海外法律情報。
    中国のジェンダー平等の推進については、法令にこう書いてあるという紹介はそれ自体有用性はあるが、法令と実態との間に乖離がある国の場合は、運用実態の紹介とセットでないと有用性は落ちるのではないかと感じた。
    イタリアの子の二重氏の原則化の件は、子のアイデンティティを特徴づけ第一の要素だからこそ両親の平等と対等な尊厳を反映させるべきというのはなるほどと思うが、兄弟姉妹間の氏の統一とかの問題がどうなるのかという点が気になった。
  • 書評。
    「名宛人なき行政行為の法的構造」の書評は、書籍のスケールの大きな内容の要領の良い紹介という感じ。おそらくこちらでは歯が立たたないだろうけど。
    「社会的営利会社の立法とガバナンス」については、そもそも社会的営利会社なる物自体を知らなかったので(汗)、その意義や登場の背景を、内容紹介と併せて説明してくれていて、個人的にはなるほどと思って読んだ。
  • 判例速報。
    会社法の、弁護士である取締役による他社の買収・管理に関する社会的責任については、弁護士である取締役に高度な義務を認めているのは初めて見た気がする。被告の過失相殺の主張を排斥した理屈が不明瞭という解説での指摘にも納得。
    労働法の、複数事業者のもとでの長時間連続勤務による精神障害発症に対する法的責任の件は、複数事業者の下で就労していることが、事業者間の契約関係に基づき把握可能だったことが重要なウエイトを占めているようだが、どの程度の関係があれは、把握義務が生じるのかというあたりが気になった。
    独禁法事例速報のプラットフォームのアルゴリズム変更が優越的地位の濫用とされた事例は、解説での、事前通知を問題とした意味についての指摘や正当化理由の扱われ方についての指摘には納得。
    知財判例速報の特許権侵害の告知による信用棄損は、判旨からすれば、まあそうなってもおかしくなのだろうと感じた。どうでもいいが、不競法2条1項21号は営業誹謗行為として理解していたが、信用棄損行為という言い方もするという点が印象に残った。
    租税判例速報の企業間ポイント交換で収受される金銭の役務提供の対価性については、解説で指摘されている、本件金員に対応する個別具体的な役務提供の不存在を理由とするという考え方の方が分かりやすいのではないかと思ったけど、どうなんだろう。
  • 特集、電力市場の法的問題。冒頭の電力システム改革の進展と競争政策上の課題は、電力システム改革の現状と競争上の問題の概観、らしい。一定枠内での競争の導入というのが難しそうということがなんとなく感じ取れる。BL市場というと、別の何かが脳裏をよぎるのは仕方がないのだろう(汗
    卸電力取引分野における法的課題は、卸電力市場が適正に機能するための法的規制の構築についてというあたり。構造が固定化していたのを、一定の枠内で自由化しようとする難しさのようなものが感じ取れる。
    小売電力会社と需要者をめぐる諸問題は、自由化はしてみたものの...という部分が感じられる。需要家にとっても問題が大きいことが分かる。
    脱炭素と独禁法緩和は、電力市場の話とは遠い話で、唐突感が拭い去れない。関係が全くないわけではないのも理解できなくはないのだが。
    電力市場の今後は、今後の展望というところだろうか。改めて競争法上の課題が色々あることが分かるが、制約条件が多いので、どこまで競争的環境ができるのか、素人目にはよくわからないという印象が残った。
    特集は、競争のなかったところに、一定の枠内でどうやって競争環境を整えるかという問題への対処の難しさが印象が残った。競争法の研究者の方々の関心が集まるのも当然なのだろう。
  • 新連載の人権尊重ガイドラインを読み解く。書いているのがNAの先生方というあたりで、この辺りがそういう事務所の儲けどころになってるのかと納得。外部ステークホルダーの関与とかが出てくると、こういうところから外部コンサルが関与してきて金が出てゆく話になるんだろうなと感じる。
  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識は合併シュミレーション。久保先生の論文で合併シュミレーションが理解できる層がジュリストの読者層にどの程度いるんだろうかと感じた。想定読者層と説明の仕方の適切性とかどこかで検討されないものなのだろうか。分析手法の基礎知識と題していて、その題名に対してこの内容でいいのかは疑問というだけのことだが。
  • 実践知財法務は特許権後発医薬品。医薬品の特許に関する制度及び運用については知らなかった。先発品メーカーとジェネリックメーカーとの間ではいろいろな駆け引きがありそうに見えた。
  • 時論
    民事執行・民事保全・倒産及び家事事件などに関する手続のIT化の記事は、状況を把握してなかったのでなるほどと思いつつ読むも、最後にセキュリティが課題とあって、そこの見通しがついているのか不明なままで話を進めて大丈夫なのか懸念を覚えた。人事事件とかの事件記録とか漏洩懸念にどう対応するのか。セキュリティについて、今後も予算確保できる見込みがあって対策検討してるんだろうか。その辺りで不安があるとそもそも手続を利用しづらくならないかと心配になる。
    2021年ドイツ組合法の改正については、日本の団体法などになじみが薄いので話についていけない感じだったが、組合財産の公示の必要性・重要性の指摘はなるほどと思った。
  • 時の判例
    最三小判R4.3.22(民集76.3.301)については、文言上複数の解釈があり得て、双方に相応の理由があり得るのに、いずれか片方に解釈を固定したければ、むしろ地方税法の文言を修正する方が素直なのではないかと感じた。
    人傷一括払いの件は、やはりよくわからなかった。保険実務を知らないからなのかもしれない(と思うことにする)。
    最判R4.4.19(民集76.4.411)については、評価通達に基づくかどうかの判断基準がぼやっとしているように見えて、その辺りの予測可能性とかは考えなくていいのかという気がした。
    最判R4.4.21(民集76.4.480)は組織再編取引等における金銭の借り入れをめぐるもので、経済合理性が重要視されるのは当然に見えるけれど具体的にどうそれを判断するかについての判断枠組みの設定の仕方は興味深かった。
  • 判例研究
    アマゾンジャパン優越的地位濫用(協力金)事件は、個人的にはアマゾンはやり口がひどいなという印象しかないが、評釈の中で、他の確約計画認定事件との比較で公取の判断について批判をしているところがなるほどと思った。
    過当取引の違法性の判断要素と顧客に対する指導助言義務は、評釈における、過当取引の定義が金商法にない理由の分析や過失相殺の必要性に関する指摘になるほどと思いつつ読んだ。
    議決権行使書面の行使期限違反等の瑕疵と決議取消しの可否については、追加主張の可否の問題に対する判旨についての評釈での批判に賛成。当事者に知りえない事実は当事者は主張しえないので。
    暗号資産交換業者に対する取扱対象外通貨等の送付の件は、暗号資産通貨とかの専門用語に幻惑されるかと思ったら、その辺りの説明も付されているし、伝統的な理解を前提に議論が組み立てられていて、わかりやすく感じた。
    若年期から受信歴のある労働者の自殺の業務起因性の件は、判旨における個体側要因の扱い方についての批判に賛成。
    情報漏洩などを理由とする懲戒解雇と追加的な普通解雇の可否の件は、追加的な普通解雇の可否について実体的な議論と手続法的議論とにわけて検討している部分が興味深く感じた。
    租税条約の解釈と会社分割にともなうみなし配当の株式保有要件については、文言解釈の部分は面白く感じた。
    情報漏洩などを理由とする懲戒解雇と追加的な普通解雇の可否の件は、追加的な普通解雇の可否について実体的な議論と手続法的議論とにわけて検討している部分が興味深く感じた。租税条約の解釈と会社分割にともなうみなし配当の株式保有要件については、文言解釈の部分は面白く感じた。