ジュリスト 2022年 07 月号

例によって、呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    ドイツのものはコロナ対応の規制緩和と妊娠中絶関連の法令の改正の議論について。後者についてはアメリカの某判決との時期的な符合のようなものを感じてしまう。
    アメリカのウクライナ支援のための武器貸与法の成立の件は、アメリカの立ち位置を示すものとして興味深く感じた。
  • 判例速報。
    会社法清算人の権限と債務の承認については、清算人には債務の承認権限も当然あると思っていたけど、そうとは言い難いという点について、解説での指摘が興味深かった。あと、争点がどこなのかは事実のところではわからず判旨を読まないとわからないのはこの種の記事の書き方として適切か疑問が残った。
    業務外の原因により発病した精神障害の悪化と業務起因性の件は、判旨を見ると判断が融通無碍すぎる気がしたが、解説での判断基準の適用の仕方についての解釈の仕方については、そうなの?と疑問。
    同等性条件に関する被疑行為について確約計画が認定された事例については、同様のことをしている複数の業者間で、対応に差異が生じているがゆえに協議期間の長さなどが異なるのが、ある意味で当然のこととはいえども興味深い。
    共同出願違反を理由とする特許権持分移転登録請求の件は、弁護士費用のみを損害とする損害賠償請求を認めなかったのが興味深い。解説で指摘されている精神的損害に対する慰謝料請求と合わせて請求するという手段は確かにあり得るだろうが、いちいちそれをしないといけないというのも妥当性に疑問が残る。
    ゴルフ場用地に係る固定資産税の評価方法、の件は、評価の実務がわかっていないせいか、どういうインパクトが実務上生じるのか、想像が及ばず、この判決の重要度が見えないと感じた。
  • サステナの杜。いかにもなコンサルのいかにもな説明。気が付くと結局金の話になっていて、ESGが放り出されていそうに見えるのは気のせいだろうか。
  • 判例研究。
    経済法の、遊技機販売業者により構成される事業者壇台による構成員に対する取引拒絶の勧奨の件は、正当理由の有無についての評釈での批判が興味深かった。
    議決権行使に関する意思表示の錯誤と議長の職責の件は、要するに関西スーパー事件の高裁決定についてのもの。議長の職責の在り方から決定の理由付けに対する疑義を示されている点はなるほど一理あるなと思って読む。
    再生品の製造販売に対する特許権の行使が権利濫用とされた事例については、判旨が独禁法の議論を介した点についての評釈での批判が興味深い。独禁法の議論を借りることが思いつきやすい事案だったとはいえ、評釈で指摘されている点からすれば、独禁法の議論を借りるまでもないというのは理解できる。
    双方過失による船舶衝突事故における責任及び損害の認定については、船舶の挙動や海難事故に関する実務について知識がないので、そういうものなの?と思いながら読む。
    業務上の事故から約2年経過したのちに発症した労働者の精神疾患の業務起因性については、評釈で指摘されている認定基準をどう理解しているのかの不明確さへの批判や、不明確さをどう理解すべきかという解釈の提示が説得的だった。
    過労死賠償事件における特別支給金と慰謝料算定等、については、いくつかの意味で使用者側の実務家の先生の評釈らしいな、と感じた。
    三者に対する犯則調査と加算税賦課に係る「更正の予知」については、争点3についての評釈での批判はなるほどと思った。
    上告裁判所が原判決を破棄するに当たり、口頭弁論を経ることを要しないとされた事例については、他の評釈では評釈冒頭に判旨に対する意見の結論が書かれているが、それがないので、評者がどう評価しているのか必ずしも明瞭ではない(反対ではないようだけど)ように見える。
  • 時の判例
    最判R3.6.29(民集75.7.3340)の宅建業の名義貸しに関する件は、判旨をみても、そりゃそうなるだろう、としか思わず、何故これが取り上げられたのかと疑問だったが、末尾の記載で、行政法規違反の合意を公序良俗違反で無効ということを最高裁として判断したのが初とあって納得。
    最判R.3.9.7(刑集75.8..1074)については、事実の取り調べを要する範囲の外延がどこなのか、というところが気になったが、そこは、直ちに明らかになるはずもなく、引き続き事例の積み重ねを要するのだろう。
  • 時論。
    最判R4.2.15の大阪市ヘイトスピーチ条例に関する件についてのものは、ポイントを絞った評釈という感じがした。住民訴訟の形で違憲審査を行う手法についての分析が個人的には興味深かった。
    罰則によるサイバー犯罪対策の課題、は、IIIの立法論及び技術と法律の適切なコミュニケーションのところが印象的。技術オリエンテッドになり過ぎない姿勢に説得力を感じた。
  • 実践知財法務は、プロ責法に関して。海賊版閲覧サイトへの対応の解説。この法律自体の知識がない(汗)こともあり、とても面倒ということがわかっただけだった。
  • 新技術と法の未来はサイバーセキュリティ。この分野は色々な意味で、好むと好まざるとに関わらず一定程度の情報を集めておくべき分野だろうから、こういう形で直近の状況について専門家の方々からブリーフィングを受けるような形で記事が掲載されるのは有用ではないかと感じた。個人的には、国際法の観点からの説明が、普段縁遠い分野である分、興味深かった。
  • 特集。座談会から。弁護士やPFの方、マスコミの方も交えてのもので、様々な視点からの議論が興味深かった。敢えて言うなら、刑法の学者の方にも入ってほしかった気がした(お名前の挙がっていた某F先生とかだろうか)。読んでいて、個人的には、とっかかりとなった事件のような事案への対処として侮辱罪改正というのは筋が良くないと思っていたが、清水先生が指摘するメリットについては、認識できていなかったので、なるほどと思った。個人的には侮辱罪とは別の罪を設定した方がいいと思っていたが、趙先生が指摘する、新しい犯罪類型を設定する際に慎重であるべきという点はなるほどと思って読んだ。読みごたえを感じる座談会だった。
    巻先生の原稿は、自尊の憲法的保護という議論の仕方は、個人的には説得力を感じたものの、実際に刑事法制の中でどう条文にするかというところにたどり着くまでにはかなり道が遠いのではないかと感じた。
    今井先生の原稿は、今回の侮辱罪の法定刑の改正を評価する立場からの検討だけど、司法制度について楽観的すぎないか、という気がした。
    建部先生の原稿は、「これまでの判例・裁判例に現れた虚偽の事実からの保護の軽視という態度を踏まえると、侮辱からの保護を直ちに強化することには問題がある」という主張で、説かれている内容には説得力を感じた。冒頭「本稿は、責任加重を肯定する動き(特に侮辱罪に関するように、十分な議論を経た形跡を残すことのないもの)に抵抗すべきことを主張する」という記載の( )書き部分も印象的。また、脚注で岡口マニュアルでの民事不法行為法における名誉棄損の概念についての記載に言及しているのも興味深い。実務家における理解のありようを示すものとして言及したのだろうけど。
    仮屋先生の原稿は、インターネット上の侮辱について。事後的な救済方法について、削除が可能としているけど、書き込みをした人間以外が魚拓を取ってそれが拡散される可能性にはどう対応することになるのかという点で疑問が残った。
    特集は、拙速な感のある今回の改正法についての検討で、今回の対応にも一定の利点があるものの、危険をはらんでいる点があると感じた。今後の運用、特に政治的表現に対してのものにちては、注意している必要があると感じた。
  • 新・改正会社法セミナー。
    前半の株式買取請求のうちIについては、改正法ともともとの判例の関係についての分析が興味深い。IIについては、買取請求をいつの時点まで認めるかという点について、組織再編のバリエーションに即して考える必要性があるということが良くわかり、いざという時には判断に迷うこともあるかもしれないと感じた。III、Ⅳについては手続的な話とは言え、なんだかものすごく面倒な気がした。
    後半の組織再編の差止請求のうち、Iについては、組織再編手続における開示義務違反といっても、違反の程度や性質に差異がある以上、一律に差止というのはやりすぎで副作用も想定されるので、議論の中での整理の仕方は妥当と感じた。IIについては総会決議前の差止仮処分の可否が特に興味深かった。IIIについては、アメリカとの議論のありようの差異が興味深く、個人的にはアメリカ的な議論もありなのではないかと感じた。Ⅳについては、差止と無効との関係についての田中教授の指摘に納得。