ジュリスト 2023年 06 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 海外法律情報。
    フランスの年金支給開始年齢を64歳に引き上げる法律は、これでストが起きるのかという気もするが、他方でそのくらいのほうが健全なのではないかと気もした。立法過程における「非民主的」部分は制度上の「バグ」のようにも見えたがどうなのだろうか。
    英国のスナク政権の発足と立法政策については、ジョンソン首相辞任後の展開を自分がすっかり忘れていたことにに驚いた。
  • 判例速報。
    会社法の株主の破産と新株発行無効の訴えの原告適格については、株主である破産会社の管財人の原告適格を否定した判旨への評釈での批判に賛成。
    労働判例速報の労働に伴う経費の負担と賃金からの控除については、判旨の議論の順番がおかしい旨、及び、賃金からの控除の可否の前に労働者の費用負担の是非を論じるべきという解説での批判に賛成。
    独禁法事例速報の排除がいた私的独占の成否につき正当化事由の有無も含め判断された事例は、私的独占の事例自体が少ないので、それだけで、おおっと思ってしまう。正当化事由が認められて私的独占が否定されるってどういうものなのか、気になった。
    知財判例速報のグループ名に係るパブリシティ権とその譲渡の可否は、パブリシティ権が純粋な人格権とは異なることがあるという解説での指摘が印象に残った。なんとなく同じようなものなのではないかと考えていたので。
    租税判例速報の外国子会社合算税制のキャプティブへの適用は、保険実務も税務も分かってないので話についていけなかった(汗
  • 書評については2つの記事とも、専門性が高い書籍が取り上げられており、これらについても話についていけない感じがした。
  • 判例研究。
    経済法のプリンターのトナーの件(長いので略する)は、評釈について、プリンターメーカーの利益をどこまで考慮できているのかなと感じた。
    商事判例研究の犯罪利用預金口座に該当しないとされた事例については、そもそも救済法の仕組み自体知らなかった(汗)。判旨も評釈もなるほどと思いつつ読んだ。
    商事判例研究の社員が2名の合同会社における社員の除名の件は、評釈での解散判決の方がよかったのではないかという指摘に納得。目的不達成だろうし。
    商事判例研究の株主総会決議がない場合の取締役の退職慰労金相当額の請求は、退職金議案を総会に付議しないことを会社の対する任務懈怠と評価する理由が不明確という批判はなるほどと思う。
    労働判例研究の賞与の法的性格と支給日在籍要件の効力は、裁判例の分析を踏まえた本判決の位置づけの指摘と本判決の理論的な問題点の指摘がさすが、という感じだった(小並)。支給日在籍要件の効力を否定するのに公序良俗違反までいう必要はなかったのではないかという指摘に納得。
    労働判例研究の私傷病休職からの復職判断において基準となる職務と程度の件は、片山組事件とそれ以後の裁判例を比較したうえでの分析が興味深く感じた。評釈最後で指摘されている適切なコミュケーションを図ることができるか否かという点の重要性については納得。
    租税判例研究のCFC税制における課税標準外所得金額の意義等が争われた事例は、本題にはついていけなかったが、評釈で出てきた「公法抵触法」という表現が印象に残った。
    渉外判例研究のオンラインゲームによる著作権侵害の国際裁判管轄と特別の事情は、判旨における管轄原因についての議論の不十分さの指摘に納得。
    刑事判例研究の207条周りの話(最決R2.9.30 刑集74.6.669)はこの決定からどこまでのことが言えて、未解決の問題がどこかという分析が興味深かったけど、そういう論点が出てくる事件にはかかわりたくないと思った。
  • 海外進出する企業のための法務はM&Aについて。前半の情報の非対称性とその解消法についての部分は海外進出でなくても生じうる話なのではないかと感じた。Post-ClosingのDDの重要性には強く納得(過去にそのあたりで痛い目を見たことが有るので(汗))。
  • 人権尊重ガイドラインを読む、については、意識が高すぎてめまいがして、見なかったことにしたいと感じた。
  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識は、まとめの座談会。この種の話題の呼び水になればという趣旨の記載があったが、内容が「高度」過ぎてそっ閉じした読者の方も多く、意図通りに呼び水にならなかったのではないかと思うがどうだろうか。
  • 実践知財法務は、営業秘密の重要論点として、秘密管理性と営業秘密の使用についての解説。使用の立証のためにトラップを仕込むというのは、やってみたい気はするけど、そういう機会にはなかなか恵まれない気がする。知財を別部隊で管轄していると特に。
  • 判例詳解の賃借人の連帯保証人に無催告解除権と明渡しを擬制する権限を与える条項の消費者契約法10条該当性の件は、判旨のところに判決の結論部分が明示されていないのが何だか不親切な気がしたのと、評釈の最後に全体のまとめみたいなものがないのには尻切れトンボな印象が残った。
  • 判例詳解の労災保険給付支給処分取消訴訟における事業主の原告適格は、評釈での検討の議論は正直十分ついていけなかったが、メリット制の下で特定事業主がメリット収支率算定基礎対象となる労災支給処分の支給要件該当性をどこで争うべきかという制度設計の問題なのではないかと感じた。その限度では評者の批判にも一理あるのかもしれないが、個人的には、その種の事柄を通達で決めるのが適切かという点については、疑問が残った。争う側にとって分かりづらくないかと思う。

  • 時の判例
    最大判衆議院選挙区の区割りの件は曲がりなりにも格差是正が進んでいることを積極的に評価して、違憲ではないとしたのは理解できなくはないが、そもそも2倍までOKというのが適切かという議論がありそうな気が。いつまでそこに留まっているのかという議論は別途あり得るのではなかろうか。
    Twitterの件は、運営側がそれなりに対応可能な状況であれば、この事案の場合は、明らか要件までは不要だろうなと感じた。事案次第ではあるのだろうが。
    強制採尿令状の発付に違法が合った件は、強制採尿前に任意採尿を促したという事実が違法重大性を消極に解する方向に解しうるのはあまり認識していなかった。ただ、令状だけ取った後にアリバイ作り的にそういうことをする、みたいな危険はないのか気になった。
  • 特集
    宮下論文は、日本の民法理論から、特に寄付について新法を検討したという感じ。確かに文中で指摘のあるとおり、被害者本人が使いうる救済策は、手続き的に煩瑣であり、実効性がどこまであるのかは読みづらい気がした。
    菅論文はイギリス法からの「つけ込み」行為の制御と意思決定の自律性の確保について示唆を得ようとするものという感じ。イギリス契約法で中立かつ適切な助言を受けていることを重要視しているという指摘は、過去のイギリス法ベースの契約でもその種の文言が入っていたのを思い出した。末尾で指摘されている内容には、特に今回問題になったような事案との関係では、賛成する。
    井上論文は、憲法の観点からの宗教団体規制の現況と課題。破防法や団体規制法の問題点の指摘には納得。両方とも確かに見直しが必要なのだろう。
    最後に消費者庁の新法の解説。順番的に最初にあったほうが良くないだろうか。問題はあってもまずは啓蒙頑張れ、という気がする。
    特集については、被害者側の代理人をされている実務家の方々の意見もうかがってみたかったが、それは難しかったということだろうか。