ジュリスト 2023年 2 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 会社法判例速報のデッドロック状態にある株式会社の解散請求が認められた事例は、こうなると確かに認めるのが妥当だろうという事案に見えた。当該判決の判示の一般論の、従来の裁判例と学説との差異についての解説での指摘も興味深い。
    労働判例速報の、更新上限制・不更新条項と労契法19条については、解説で指摘されているように、5年の上限が長すぎると感じた。
    独禁法事例速報の入札に係る仕様の関与について確約計画が認定された事例は、仕様への関与というと短絡的にパラマウントベッド事件を想起するが、あの事件とは異なる判断をされた理由について解説で分析していて、その内容になるほどと思った。
    知財判例速報の特許権侵害と属地主義の原則の件は、解説で指摘されているように、挙げられている考慮要素の一部を充足しない場合の扱いなど射程が良くわからないと感じた。
    租税判例速報の固定資産税に係るゴルフ場用地の評価と国家賠償法上の違法性の件は、文理解釈を最高裁が求めているという指摘は、なるほどと思う。
  • 海外法律情報
    スウェーデンの住宅供給の責任をめぐる動きについては、スウェーデンの諸制度についての基礎的な知識がないためか、内容がよくわからなかった。
    タイの性犯罪再犯防止法の制定については、監視措置として定めることが出来る中に、医学的措置の使用とか監視用追跡電子装置の使用が含まれているのが印象に残る。
  • 書評
    民事訴訟における後訴遮断理論の再構成」の書評は、そもそも本書の対象とする理論的課題の存在すら知らない話だったが、理論的には面白そうな議論に見える。議論についていける気はしないが。
    「サンマデモクラシー」の書評は日米の遡及効に対する考え方の差異についてのコメントが興味深く感じられた。
  • 新法の要点は、集団的被害者被害回復の実効化に向けた改正と残された課題。東京医科大学順天堂大学昭和大学での不正入試の被害回復状況は知らなかったので、興味深かった。実際の事件例から改善点を見出して改正するというのは適切な対応なのだろう。
    資金決済法の改正は、前提とされているものと推定される知識をこちらが欠いているため、話についていけなかった。このあたりも、その業界の人でない人向けの解説本とかで良いものがないのかなと思ったりする。
  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識は企業結合審査と経済分析。こちらも記事の前提となっている部分がわかっていないせいか、話についていけなかった。この内容で「基礎知識」なの?とも思ったのだった。
  • 実践知財法務は職務発明をめぐる諸問題。派遣労働者等の扱いが興味深いが、ここでいう「等」って何?と思った。構内請負とかだろうか。その辺りが気になった。
  • 時論の中小企業における私的整理の活用。うまくいけば「ハマる」のだろうけど、それがどの程度あるか、逆に上手く行かなくなるとどうなるのか、が想像しきれなかった。とりあえず入れてみて、様子をみるというのが良いのだろう。
  • 判例詳解の音楽教室事件は、過去の判例法理との関係の整理が分かりやすく感じた。予測可能性という点での難点がある旨の指摘には同意。
  • 時の判例
    最判R3.3.11は、歯が立ちませんでした。目が滑るだけでした。税法の話は苦手意識が強くて、頭に話が入ってこない。
    大阪市ヘイトスピーチ条例の件は、表現内容規制の合憲性審査の枠組みの解説がなるほど、という感じだった。もともと理解が出来ていなかったことを実感する(汗
    山形大学不当労働行為救済命令取消請求事件は、考え方についての説明が個人的にはわかりやすく感じた。
    刑事の捜査機関への申告内容に虚偽が含まれていた事実につき刑法42条1項の自首が成立しないとされた事例は、虚偽がどこまで入ると自首が成立しなくなるのかが気になった。
    傷害罪の成立を認めた第1審判決に判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとした原判決に、刑訴法382条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例は、刑訴法382条の事実誤認の解説が分かりやすかった。
  • 判例研究。
    経済法のインターネット宿泊予約サイトが実施したいわゆる同等性条件に関わる確約計画の認定の件は、こちらの事案理解が不十分であるが故なのか、全体的にぼやっとした印象があった。確約計画という時点での話だからという要素もあるのかもしれないが。
    特別支配株主になるための議決権保有要件と新株発行不存在については、新株発行不存在について法的不存在説に立つべきとの評釈での批判に賛成。法的評価を含めての法的不存在だと思うので。
    株式の準共有者による売買価格決定の申立てについては、申立て却下の決定に反対する評者の批判に納得。保存行為性を否定するのはさすがに違うと思うし。
    生命保険の災害関係特約における免責事由としての重大な過失、については、評釈で出てくるほかの事例との比較では、過失はあれども重過失とまでは言えないという結論になるのも納得というところ。
    部署閉鎖に伴う解雇の有効性と解雇権濫用判断における検討単位、については、判旨を見ると、検討単位との関係で、組織再編が雇用者側に有利に働いた印象があり、その辺りを争う手段が労働者側にどこまであったのかが気になった。
    リバースモーゲージ制度の利用拒否を理由とする保護停止の適法性については、判旨評釈ともなるほどと思うものの、老齢の原告に対して、原告の状況に即して、制度説明が適切になされたのか、気になった。
    複数議決権株式発行会社が外国子会社に当たらないとした事例は、文理解釈がゴリゴリされていて面白いけど、評釈にあるように争点となった論点は立法による解決が筋なんだろうと感じた。
    医師法17条にいう「医業」の内容となる医行為の意義と判断方法、およびタトゥー施術行為の医行為該当性については、注目されていた事件だったけど、最高裁の判断の内容は知らなかった。こうやって評釈を読むと、それなりに妥当な感じの判断だなと感じた。最後の評者の指摘にも納得*1
  • 最後に残った特集については、意識高すぎてついていけなかった、とだけ。

*1:専門分野の先生方から見れば異なる意見があるのでしょうけど、その分野の素人から見れば、ということなので(汗)。