ジュリスト 2022年 11 月号

一通り目を通したので、感想を箇条書きでメモ。

  • 会社法判例速報は、弥永先生から交代ということなのだろうか。三ツ星の事件の高裁決定。必要性と相当性の枠組みはわかりやすいけど。本件ではどうすれば相当性が認められたのかというところが難しい気がした。
    労働判例速報は、官庁の話ということもあり、民間企業との関係でどこまでのインパクトがある話なのかというところがよくわからなった。単にこちらが派遣法周りの勉強をしていないからなのだろうけど。
    独禁法事例速報は、免税事業者に対する委託代金について消費税相当額を差引いて支払うことの優越的地位濫用該当性についての相談事例。控除に際しての代金額の再交渉が形式化しているかどうかがポイントと感じた。
    知財の流通過程における登録商標の剥離抹消については、商標権侵害で対応するのではなく、不競法や不法行為法で対応する方という説の方が商標権侵害を認める説よりも妥当なのではないかと感じた。
    租税判例速報の実質所得者課税の原則と真実の法律関係は、利子の実質的所得者の判断基準が、結局諸般の事情を総合的に考慮するとしているのだけど、結果の妥当性は導きやすくても、予測可能性に疑義があって、それでいいのかと疑問が残ったけど、素人にはよくわからない(駄目
  • 海外法律情報の韓国のオンライン請願の法整備の話は興味深いが日本では無理そうだよなとため息。
    ウクライナ国民に対するロシア国籍の付与の方は、最近かの地ではまだ戦いが続いていることを思い出させる。最近忘れがちだったので。
  • 書評も始まった。競争法ガイドの書評は、改めて、かの本を積読山の奥から発掘すべき理由を示してくれたような気がする。もう一冊の方がこちらが知らない分野の話過ぎて、目が滑るだけに終始する感じだった(汗)。
  • 特集。民訴法改正の要点。
    座談会は立法の経緯と論点、と題されているように、今回の立法に至る経緯とこれまでに議論された論点についての鳥瞰。議論状況に疎かったので、有益と感じた。
    オンライン申立て及び周辺手続についての九大上田教授の原稿。公示送達周りにも変更が生じるのは認識していなかった。破産者マップ事件などから想起される問題点の指摘は確かにそうだろうな、と納得。
    口頭弁論期日等におけるウェブ会議の活用についての東北大今津准教授の原稿。e法廷という言葉についての指摘は納得。チャット機能の位置づけの問題はなるほどと思いながら読む。
    櫻庭先生の改正民訴法に見る情報セキュリティの問題は、問題点の概観として適切ということになるのだろうけど、原稿で前提とされている情報セキュリティの知識がこちらに不足しているようでよくわからない部分があるという印象だった。
    定塚元裁判官の原稿は、法廷審理期間訴訟手続について。訴訟の迅速化については、メリットがあるのは否定しないものの、そのメリットが享受可能となるのは当事者側の準備次第であろうと思うし、そこは担当弁護士がどうこうできる余地がどこまであるのか疑問なしではないが、その辺りが楽観的すぎるように見える。裁判所側の負担もどこまで考えているのかわからないし。現場の最前線から離れたエライ人が自分の現役時代のルサンチマンをその後の状況の推移を無視して晴らそうとしているように見えて、ある種の腐臭を感じる。環境が十分に整っていないところで、時間制限だけ貸してもラフ・ジャスティスになる危険があるし、その懸念に対する根性論以外の具体的な手当てに言及がないのは、駄目だろう。
    越山教授の原稿は被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度について。どういう事態に対応したいのかはわかるとしても、どう転ぶかは分からないところがあるような気がする。
    個人的には、改正についての概観としては興味深く読むことが出来た。今後特にmintsの運用状況についての解説が見たいと思う。
  • 実務法曹のための分析手法の基礎知識の連載は、慶応の齋藤先生の原稿は、実証分析で出来る範囲の説明が興味深かった。後藤教授の原稿は実証研究の立法過程での使われ方が興味深い(この点知らなかったので)。
  • 第208回国会の概観は、こういう立法があったのか、と思いつつ見る。
  • 経済法判例研究会の日本年金機構データプリントサービス入札談合事件の件は、いまだにこういうのあるんだと思う。この件を評釈で取り上げた意義とかは良く見えなかった。
    商事判例研究の弁護士賠償責任保険契約の保険金支払事由・免責事由該当性の件は、事案からすればこうなるだろうという話だけど、なんでこんなことになったんだろうということの方が気になった。
    商事判例研究の招集通知を欠いた株主総会決議が不存在とされた事例は、口頭で開催通知があって、株主全員出席総会だったにも拘わらずその結論というのが興味深い。事実認定が不足しているんではないかとの評釈でも批判も納得できるところと考える。
    商事判例研究の新規事業の開拓・推進と子会社への貸付け等による取締役の責任の件は、なし崩し的に事態が悪化していたようにも見えてしまうところ、評釈で、途中で手の打ちようがあったのではないかということを指摘しており、納得。
    労働判例研究のフリーランスへのハラスメントと安全配慮義務の件は、なんだかなと思う事案ではあるが、それよりも評釈でのセクハラ・パワハラ事件の訴訟における被侵害利益についての解説の方が興味深かった。
    労働判例研究の団交応諾命令に関する労働委員会の裁量の件は、誠実交渉義務の中身がわからないので、よくわからないと感じるし、その辺りについての評釈でのコメントには納得。
    租税判例研究は、相変わらず話についていけていないが、評釈の最後の批判は尤もな意見のように思われた。
    渉外判例研究の在日米軍機と労働者に対するパワハラと損害賠償請求は、地位協定に基づく民特法というのがあること自体知らなかった。評釈での批判をなるほどと思いつつ読む。
    刑事判例の件は(長いの事例名は略)、従前の議論状況をおさらいしたうえで、本決定の意義や論点の分析がなされていて、個人的には分かりやすく感じた(きちんと理解できたかどうかはさておき)。

  • 時の判例最大判の方は、立法不作為の国賠法上の違法性を認めるうえで、挙げた事情がやや意外に感じた。国会質疑にここまでの重みがあったのかというところ。
    時の判例の刑事の方は、刑訴規則の定め方の不備なのではないかという印象が強かった。

  • 実践知財法務は特許ライセンス契約。特許ライセンス契約に関わったことがないので(ここまでの勤務先では知財がやっていたため)、土地勘がないところだけど、特許権の特殊性を踏まえた部分の解説は分かりやすく感じた。

  • 特別企画の同性カップルの法的処遇については、この辺りに興味関心がないので、ふーんと言いながら読む。ドイツ・イギリスではEU裁判所の判断が立法を促した点が興味深く感じた。