ジュリスト 2023年 08 月号

例によって呟いたことを基に感想をメモ。

 

  • 海外法律情報のタイの過剰な刑罰化の是正に向けた過料制度の新設は、貧困などの理由で法規違反が生じた場合の代替措置についての規定があるのが興味深く感じた。
  • 特集は景表法改正。B2Bの企業しか経験しておらず景表法自体に馴染みがないので話について行けるか不安。
    まずは豪華なメンバーでの座談会。当局の方と当局経験者の実務家の染谷先生、それと学者の方がお三方。景表法が以前は公取所管だったこともあってか、白石先生も加わっておられる。
    座談会の最初は主要な改正事項の議論。確約手続の導入について、神戸の中川先生の正式な和解手続と考えている旨のコメントや白石先生が確約認定による返金の可能性につき独禁法と景表法とで差異が生じる可能性を指摘されている点、染谷先生が確約か指導かの交渉について言及されている点が目を引いた。
    次に課徴金の改善について。売上額の推定規定についての当局側の想定や自主返金を行う際の実務的なポイントについての染谷先生のコメントが興味深く感じた。
    刑事罰の導入については、共犯の処罰に関する議論が目を引いた。適格消費者団体による資料開示要請の導入については、中川先生の行政指導の民事法バージョンという表現は面白く感じた。
    域外適用を見据えた規定の導入についてはGDPRの影響の指摘がなるほどと感じた。また、執行についての3つのアプローチの紹介、特に3つ目の注意喚起での対応は、法目的に照らせばそうなるんだろうなと思った。
    景表法運用の改善事項は、こういう点が議論される状況にあるのか、と思って読んだ。景表法とwebマーケティングは、EC系とSNS系とでプラットフォーム事業者の対応の差異が興味深かった。
    最後の中長期的課題は、こういう議論をしているのか、と思って読んだ。
    総じてまったく話についていけないということはなかった。普段意識しない分野の話なので、他人事的に感じてしまうのは仕方がないのだろう。

    ついで長澤先生の景表法における確約手続の導入の論文。事業者サイドからすれば、どういう影響があるかの分析がわかりやすく感じた。
    西上先生の原稿は不実証広告規制に係る行政法上の諸問題。個別法における行政法の具体的な適用の例としてなるほどと思いつつ読む。それとは別に刑事訴訟における審理について検討も興味深かった。
    伊永先生の原稿は課徴金制度における理論と課題について。関係法令における同様の制度との比較やバランスの評価の仕方が興味深く感じた。
    板倉先生の原稿はデジタル広告規制の現状と課題というあたりで、こちらの不勉強で知らない話も多く、何だか圧を感じる原稿だった。最後に書かれた残る課題についての指摘が印象に残った。
    早川先生の原稿は米国法との比較というところ。板倉先生の原稿の最後で指摘の出ている点についての米国での対応についても言及があった。プラットフォームに対する景表法の積極的活用についての指摘はなるほどと思う。
    カライニコス先生の原稿はEU法との比較というところ。包括性の強化の必要性などについてのご指摘はなるほどと感じた。EUでの加盟国間の連携強化の話から日本での国と都道府県との連携について議論をされているのは、ちょっと難しくないかと思ったけど。
    特集は、普段あまり接点のない分野の話ではあったが、現状がこういう感じなのかというところが、なんとなくわかったような気がして、読んでよかったと思う。

  • 人権尊重ガイドラインの連載最終回は救済について。これまでの流れからすればそうなるんだろうなという内容。いずれにしても国連が何の権限があって私企業にここまでいうのかというあたりから気持ち悪い印象がぬぐい切れない。四大の方々が連載書いてる商売熱心さはすごいというかなんというか。
  • 実践知財法務は、不実証広告規制の訴訟での実例の紹介が中々厳しい内容で驚く。当局の手の内探るのに不服審査等を使うのも理解できるところ。
  • 海外進出する企業のための法務は、個人データ周りの話。ひたすらに面倒でharmonizationとかないのかと思う。
  • 書評は税法の本の方は難しくてよく分からない感じだが、もう片方は面白そうに見えた。
  • 時の判例
    最判R4.10.6(民集76.6.1291)の供託の件(長いので件名は略)は、供託制度について理解できていないので議論についていけなかったが、予測可能性を高める意味で法律上調整規定があった方がよかったのではないかと感じたがどうだったのか...。
    最決R4.10.6(民集76.6.1320)の財産開示手続の件は、執行裁判所がどこまで何をしたら手続を進めることができるのかという点で興味深く感じた。
    最判R4.12.12(民集76.7掲載予定)の消費者契約法12条に基づく差止等請求事件は、こういう判断もあり得るのかもしれないが、賃借人が行方不明のとき等に、保証人が解約できる手続きを設けておかないと保証人のなり手がなくなって、賃借できないという事態もありそうな気がした。そういう意味でバランスが悪いと感じる内容だった。
    刑事の最決R3.6.28(刑集75.7.666)は、学術論文の掲載が薬事法66条1項の「記事を広告し、記述し、又は流布」する行為に当たらないのは、そりゃそうだろうとしか思わなかった。紹介されている少数意見が興味深く感じられた。
  • 判例速報。
    会社法の株式売買価格決定申立てにおける譲渡制限株式の売買価格の算定は、そういうものなのかと思いつつ読む。
    労働判例速報の育休復帰時に部下の以内業務に配置したことの違法性とキャリア形成の利益は、最後のところで、「じゃあどうするべきだったのか」というあたりに一定の解が示唆されているあたりが良いと感じた。
    独禁法事例速報の不当な取引制限による会社への課徴金の対会社責任を通じた取締役への転嫁では、「むしろ転嫁を肯定すべきという立場が会社法学のサイレントマジョリティ」という表現が気になった。主張しない学説に意味有るのという意味で疑問。
    知財判例速報の、商品に付した単一の色彩で構成される表示を巡る不正競争該当性では、地裁と高裁の判断過程の違いについての指摘が興味深く感じた。
    租税判例速報の非営利型法人に対して支払われた利子及び配当等と源泉所得課税については、公益法人等と公共法人等と似たように見えるけど違う用語が出てきたこともあり、話についていけなかった(汗

  • 判例研究。
    商事の引受範囲外の危険増加を理由とする損害保険契約の解除については、評釈で指摘されているうち、用途変更該当性の議論は興味深く感じた。
    取締役が通常想定すべき不正行為の範囲の件は、評釈で示されている疑義の指摘には100%賛成ではないが、なるほどとは思う。自社の過去事例と他社の過去事例とは等価とは言えないと思うので。
    有価証券の現物取引について実質的一任売買が認められた事例は、評釈での疑問点の指摘に賛成。
    労働判例研究のコンビニフランチャイズ加盟店主の労組法上の労働者性の件は、労働者性を否定した判旨に対する疑問点の指摘になるほどと思う。
    終業後の呼出時間についての労基法上の労働時間該当性については、最後の段落での指摘にはなるほどと思う。
    租税判例研究の所得税法59条1項2号のみなし譲渡該当性は、取引相場のない株式についての評価についての評釈での指摘に納得。
    監護権侵害事案における監護権準拠法と不法行為準拠法の関係は、監護計画に基づく監護の拒絶の違法性自体は親子間の法律関係の準拠法上の評価とは無関係に不法行為準拠法によって判断されると解する旨の評釈でのコメントに賛成したいような気がする。