月刊法学教室 2023年 08 月号

例によって目を通せた分について、呟いた内容を基に感想をメモ。

  • 巻頭言は川出教授による今回の刑法等改正における性犯罪への公訴時効期間延長についてのコメント。被害者救済の観点からの問題点の指摘はなるほどと思う部分もゼロではないが、公訴時効制度の趣旨は証拠散逸などの問題への対処も含むはずだから、期間制限撤廃には疑問ありか。
  • 法学のアントレは法社会学×判例というところか。裁判官の心理的バイアスについての分析や国籍法をめぐる訴訟の判決を下した裁判官のその後の人事異動の分析などの紹介は興味深い。
  • 学校をホウガクする、は部活動。運動部の話ばかりで、そういうものに所属しなかったこちらにとしては、だから何?という思いを禁じ得ない。とはいえ、部活動に関する教員の負担については軽減すべきだろうとは思う。
  • 特集1へ。上野先生のイントロの後は蘆立先生の現実世界をメタバースに再現する際の諸課題。著作権法、標識法上でどういう問題が生じるかのまとめというところか。思ったよりも既にある規定で対応可能という印象。
    青木先生の原稿は、現実世界のデザインとメタバース内のアイテムを巡って知財法で問題となっているものについての概要の紹介という感じ。メタバース自体に馴染みがないので、そういう話になっているのか、と思いつつ読む。
    誠子夜火猫先生の原稿は、アバターの名前・肖像の著作権法上での取り扱いなどの解説。こういうところに問題があるということが分かりやすく示されているように感じられたのは良かったが、アバター名義といいつつ、「中の人」がしっかり明示されているのはやや興ざめに感じた。
    駒田先生の原稿はメタバース上での活動をめぐる知的財産法上の問題について。末尾でにメタバース事業者の利用規約でのルールがデフォルト化するとの指摘と、そういう事業者がプラットフォーム事業者として知財法上どういう責任を負うべきかの検討が必要との指摘には納得。
    中崎先生の原稿は、メタバースにおける権利侵害やトラブルにどういうものがあるのかが示されていて、現状がここまできているのかと思って読む。既存の考え方とその延長線上でそれなりに権利保護はできるということに見えたが、どうだろうか。
    谷川先生の原稿では、NFT自体わけがわからないので話についていけたか分からないが、NFTで追求権実現というのは興味深く感じた。
    特集自体は、普段接点のない分野の話で、この分野ではいまこういう感じなのか、ということが感じ取れただけでも良かったように思う。
  • 特集2は宗教・宗教団体と法。イントロの文章の後の安藤先生の原稿は、歯ごたえがありすぎてこちらの能力では、話がよく理解できなかった(涙)。
    山本先生の原稿は、日本国憲法が信教の自由を規定することの意味の考察。特別保護説が成り立ちづらいとする分析にはなるほどと思う。
    田近先生の原稿は、宗教法人法と国家の権限について。宗教法人法の前身からの変遷も踏まえた解説が分かりやすかった。某協会への解散請求との関係で出てくる規制強化の議論の問題点への指摘には納得。
    棚村先生の原稿は、行き過ぎに対する契約アプローチと不法行為アプローチでの救済についての解説が分かりやすかった。不当寄付勧誘防止法についての評価は、納得するところ。
    特集については、ジュリストでも似たような特集があった気がするが、より基礎的な話に重点が置かれていた気がした(法哲学の部分は歯ごたえがありすぎてついて行けなかったが)。
  • 講座。
    憲法。教授言語と学問の自由。実際の裁判例が素材になっているというのにやや驚く。教授言語が英語でという点が議論にどう影響するのかというところも気になった。あと教えている内容との関係も。内容的に日本語以外の言語で教えた方がいいという議論が成り立つ度合いが強いときはどうなったのだろうかというあたりが気になったということ。
    行政法は従前から続き物になっているのに今回気づいた。行政計画の話は計画裁量の判断基準についての補助的な規準についての解説が興味深く感じた。
    会社法は取締役会の意思決定事項について。H6最判の「会社における従来の取扱い」の意味についての解説はなるほどと思う。重要財産員改正や特別取締役制度の利用例はあまり聞かないが少数の取締役に判断を委ねて、他の取締役の目が届かなくなる点が問題ということなのだろうと思う。
    民訴は上訴。弁護士業務として上訴審に関わったことがないので、受験時代の知識のおさらいという感じでしか読めない(汗)。
    刑法は窃盗罪の実行の着手。同じテキストでも複数の読み方が有るという点は興味深いが、面倒だなとも感じる(汗)。
    刑訴は令状主義。令状主義と強制処分法定主義の関係とか考えたことがなかった。
  • 演習。
    憲法ツイッターとパブリックフォーラムについて。某呟界弁慶大臣の垢ブロックが出てきて苦笑。
    行政法は平等原則。別荘地の水道供給料金の事件はあったよね、そういうのと思いつつ読む。
    民法は共有物分割とか遺産分割とかのあたり。相続事件も経験がないので、そういうものかと思って読むが、最近の改正についてはしっかり学ばないといけないとも感じる。
    民訴は相続に関する紛争についてのいくつかの話。相続は厄介という印象だけ残る。
    刑法は不作為による共犯等。DV男から離れられないでいることによる不幸という感じがする事例だが、解説の最後での指摘には納得。
    刑訴法は弁護人の固有権と被疑者の弁護人依頼権の関係とか秘密交通権の保障の範囲とか。学説とかからすればそうなるのだろうけど、釈然としない気がする。
  • 判例セレクト。
    憲法生活保護基準引き下げ違憲訴訟控訴審判決は解説の最後のコメントに賛成。
    行政法労災保険給付支給処分取消訴訟における事業主の原告適格は、解説の大半を他の評釈の紹介が占めていて、結局解説者はこの判決をどう考えるのかがよくわからない気がした。
    商法の頭数要件による株主総会定足数を定める定款既定の有効性は、解説の3での他の裁判例との比較分析はなるほどと感じた。
    民訴の民訴法338条1項1号の再審事由に該当する違法と控訴の利益は、事実を見ても、いったいなんで判決言い渡しになったのか、不思議な気がした。解説での判旨の理由づけについての検討には納得。
    刑法の建造物侵入罪の既遂時期と身体の位置は、解説での地裁判決と高裁判決の比較と高裁判決の合理性の分析が分かりやすく納得しやすい気がした。