月刊法学教室 2023年 04 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

 

  • 巻頭言は橋爪先生による「法学研究の悩みどころ」。「メイン・テーマ」が出てくるところで、同世代として、納得感が高い。
  • 法学のアントレは今年度は基礎法×判例、らしい。今回は日本法制史の分野から、こんにゃくイモは生野菜かという点が争点になった判例について。そういう点が争点で最高裁まで行くのが凄い。戦時下でも相応に裁判があったことが分かる。
  • 新連載の学校をホウガクする。法学、でなくホウガクとしているのがどういう意味なのか気になるところ。自分が生徒でなくなってから久しいが、学校現場で何が起きているのか、弁護士視線でどう見えるかというあたりが興味深かった。実際にかかわる弁護士の先生方は大変そうだけど。
  • 特集。基本概念の基礎をおさえる法学入門。
    まずは憲法は、憲法という概念それ自体。constitutionに「憲法」という用語があてられるようになった経緯が面白かった(そういう表現で良いのかは定かではないが)。
    行政法は「適正手続」。憲法で出てくるという先入観がある用語ので、行政法で取り上げられるのもちょっと不思議な気もしたが、冷静に考えると何もおかしくない。日本で行政手続法の制定について時間がかかった理由の説明や某宅急便業者の創設者?との関係のあたりはなるほどと思いつつ読む。
    民法は「人」。「人」概念の揺れ動く部分の解説は面白かった。試験とかの無縁の立場で読んでいるからそう思うのかもしれないが。
    商法は「株主平等の原則」原則が貫徹されていない部分の話が興味深かった。
    民訴法は「手続保障」。受験生時代にマジックワードみたいに答案で使っていたなと反省。
    刑法は「法益保護」。処罰の早期化との関係が興味深く感じた。
    刑訴は「当事者主義」。旧法時代の話は知らなかったので興味深かった。
    特集は、確かに放っておくとあまりきちんと考えないでいそうな各分野の基礎的な概念について、何段か踏み込んで解説がなされていて、読んでいて面白かった。こういうのは良いと思う。
  • 判例クローズアップは音楽教室事件・最高裁判決について。フォローしてなかった事件なので経過の解説も有用でわかりやすかったし、これまでの判例法理との関係の整理もわかりやすく説明されていると感じた。
  • 続いて講座。連載開始のものから掲載。
    まずは事例で学ぶ行政法ゼミナール。入門ゼミでの会話という想定での解説なので比較的わかりやすかった。今後がどうなるか期待。
    会社法の時計は、会社法の歴史を遡って制度などを理解しようというもののようで、初回は機関設計。会社法制定以前の話は知らなかったので、面白かった。
    刑法は、近時の判例で学ぶ刑法が始まった。冒頭の橋爪教授のイントロの某記載は、すでに指摘の出ている通り、有害無益な記載と感じた。正当防衛における侵害の急迫性、は、これまでの判例学説の状況を踏まえた解説がわかりやすかった。
    刑訴の刑事訴訟法フレームワークを考える、は、普段刑事実務に関わらないインハウスの立場からすると、こういう話のほうが興味深く読めると感じた。捜査と公判の切断の意味の解説は興味深かったし、刑訴法222条1項の規定が国家機能の分離との関係からどう理解できるかという点はなるほどと思った。また、公判手続は民事訴訟と、捜査手続は行政法と対比するのが有益という指摘もなるほどと思った。
    憲法は自書できない者の選挙権と投票の秘密。投票制度の話は込み入った議論になりがちだよなと思う。気が付くと柴田先生が連載の著者から外れるようだけど何かあったのだろうか。
    民訴は文書提出命令その他。文書提出命令は受験生の時に出るのではないかと山を張った(合格した年には出なくて、その後に出た)のを思い出す。陳述書についての記載があっさり目なのは、連載のレベル感に応じてということなのだろうか。
    検察実務から学ぶ刑事手続きの基礎は、Pからすればそうなだろうな(棒)という程度。

  • 演習。新年度ということで著者からの挨拶が出ているが「ご執筆者から」という表題が味わい深い。
    憲法。今時なネタではあるが、論じ方から説いているあたりが4月らしい。
    行政法。解説で問題文を良く読むよう指摘があるが、書かれていたように一部読み飛ばしてしまって苦笑。
    民法。時効更新の効果の及ぶ範囲について、二説解説される内片方は知らなかった。
    商法。定款の目的記載の具体性は登記の審査対象でないのは知らなかった。そもそも会社設立に関与したことがないけど。
    民訴。過失相殺と弁論主義の第1テーゼとの関係等。規範的要件と弁論主義の第1テーゼとの関係とか一部請求である旨の明示の有無の判断基準についての解説は興味深く感じた。
    刑法。トランク事件を題材に設問ができているから、因果関係についての危険の現実化説と相当因果関係説との対立みたいな話になるのかと思ったら、そういう話はあまり出てこなくてやや面喰う。
    刑訴は職務質問とか所持品検査とか。解説の最後にある条文の構造と規律の密度についての話が個人的には面白かった。
  • 判例セレクト。
    憲法のR4参院選通常選挙無効東京高裁判決は、解説の最後にある批判に同意。違憲状態と言ってるだけでいいのかという気がしているので。
    行政法の健康保険法189条1項の「被保険者の資格」に関する処分については、判旨で、判断を早期に確定させ、適正公平な保険給付の実現や実効的な権利救済をはかる必要性から処分性を導いているというのが興味深かった。
    民法消費者契約法12条3項に基づく差止請求と同法10条に規定する消費者契約の条項への該当性については、判旨で12条3項について限定解釈の解釈論が、そう来るか、という感じがした。
    商法の地面師詐欺被害者への取締役の対会社責任の件は、大きな会社の場合は取締役が何でもかんでも自分でするわけにはいかないことを考えると判旨もやむなしと思うけど、解説を見ると、得津先生は立証の不備を指摘していて、立証の仕方次第では結論が逆になるのではと感じておられるのだろうかもしれないと感じた。
    刑法の他人のクレジットカードの情報の不正利用と私電磁的記録不正作出罪については、和田教授が解説を書いているのは、JRの切符の話だからだろうか(多分違う)。詐欺罪や電算機詐欺罪ではなく、窃盗罪(+電磁記録不正作出罪)とされた理由の説明がなるほど、と感じた。
    刑訴法の押収拒絶権が行使されたにもかかわらず捜索が実施されたことの違法性が争われた事例については、判旨を見るとパッと見以上に難しい事案と感じた。押収拒絶権が認められなかったものがあったのが意外だった。