法学教室2021年2月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 巻頭言の「書面でする」「書面による」の違いの解説は、十分意識できていなかった点についての指摘で(汗)、前者が要式行為について使用していて、その遵守が成立要件なのに対して、後者はそうではないとの指摘には納得。
  • 法学のアントレは、教育する側の、質問者を育てる、ということの意味が、教育的配慮に満ちているのを感じる。簡単に「わかった」といわない質問者を自分の中に飼い育てることは、人生において重要なことだと思う。こちらは未だにできていないので焦ることもあるのだが。 
  • 自治体現場で活かす法学。法律に「触れる」ことと法律を「学ぶ」ことの際についての記載や、「俯瞰」することの重要性についての指摘は、汎用性があるものと考える。
  • 特集1は会社法令和元年改正がらみのもの。令和元年改正の改正点のうちのいくつかについて会社法の基本的な論点に引き付けて説明をしているという点で、特に受験生には、有用なのではないかという気がした。
    総会のDXの話は、デジタルデバイドとの兼ね合いでDXを強制することがどこまで正当化できたのか、当事者自治を踏み越えて強制することが正当化されるのか。個人的には疑問。
    同様に社外取締役の強制についても疑問。社外取締役が、活躍を期待されても、期待を実現できるだけの環境が整わないと却って事態が悪化しないかとは思うわけで。事務方とかで情報とかを絞れば、社外取締役の形骸化も可能な気がするからそう思うのだが。
    報酬規制のところは、従前とは異なる思想を持ち込んで規制の見直しがなされたという指摘はなるほどと思う。個人ごとの報酬の開示が進まないのは、開示による弊害への対処が難しいからやむを得ないのだろう…。
    会社補償・D&O保険のところは、カバーされるが限られていて、どこまでカバーされるのか、とっさにわかりにくいというのが印象(汗)。それぞれ理由があるとしても。この辺りは実際に実務で当たらないとアタマに入って来にくい気がした。
    社債の管理の話は、社債管理補助者の制度が出きた理由が興味深かった。株式交付の話は、組織再編行為と募集株式発行行為との二面性が興味深いのと、対象会社が完全に蚊帳の外にある感じが、印象に残る(某センパイを思い出した(汗))。
  • 法学教室プレイバックは、やはり、既に紹介されてはいるが、三井先生の逸話が強烈すぎる。
  • 特集2 倒産法の勘どころ。初学者向けに、投げ出されない程度の概説という意味では、きっとこのくらいのところで止めるのが、紙幅と相まって適切なんだろうなという印象。もう少し突っ込んでも良いのではないかとは思った。
    倒産手続における担保権のところは、諸制度の簡潔な概観。初学者向けだとこうなるのか、と思った次第。
    否認権の記事も制度紹介がメインだけど、こうやって読むと対抗要件具備行為の否認は、認められる理由がよくわからない気がした。
    破産債権と財団債権のところも、両者に何が含まれ、如何なる違いがあるかの紹介だけど、財団債権という表現も分かりづらいと改めて感じた。
    消費者倒産のところは、このご時世だと学生の方にとっても破産が身近に感じられるのではないかという指摘が、納得するところもある反面、オッサンの一人としては、学生の方々にそういう風に感じさせて良いのかという気がしてくる。
  • 不作為を利用する殺人と共同正犯(最決R2.8.24裁時1750.3)の解説は、最後に書かれている整理の仕方にはやや疑問。期待された作為に出られない精神状態の母親を共謀共同正犯の中に含める(そのうえで故意過失がないとする)というのは難しくないかと感じる。
  • 講座。憲法は13条の「明文規定のない基本権」の解説で「自己決定権」「アイデンティティの尊重に関する権利」の議論だけど、ぼやっとした理解せずにここまで来たものの、現代の問題とのかかわりあい方の難しさが分かる解説で、他人事として見る分には興味深いが、当事者には深刻そうだなと感じる。
    行政法。設置管理の瑕疵のところは、類型ごとに基準が異なるようにも見えるけど、そのあたりを整合的に理解できないものかと思ったりした。あと、道路事故訴訟のイメージ図は簡潔かつ分かりやすくて良い。
    民法。債務引受。困難は分割せよ、という感じで細かくステップに分けて考えていて、一つ一つを見るとわかりづらくはない気もするけれど、自分でこれを再現できるかというと厳しいかも(汗
    会社法。計算・会計帳簿閲覧。H21最決の主観的要件不要というのは妥当と感じる。主観的要件の立証はしづらいし、一旦閲覧などした後で心変わりする可能性もあり得るというのはそうだろうと思うので。
    民訴。証拠周りの話は、こちらがまだ遭遇したことのない証拠方法に関する話が興味深い。カンファレンス鑑定とか、専門家集めて議論したものの、収拾がつかなかったときどうするんだろうとか思うのだが。
    刑法。横領と背任の区別という問題は実は存在しないという指摘にやや驚くが、解説には一応納得。
    刑訴。長い。根性とか気力がないので、読んでいて飽きる(駄)。丁寧な検討ということになるのだろうけど、もっと簡潔に書けないのだろうかと疑問に思ったのでありました(汗)。自白法則の難しさはわかったような気にはなったけど。
  • 演習。憲法ヘイトスピーチ規制で独立行政委員会を作るという説例だけど、21条との関係の議論ではなく、統治機構プロパーの話で終わったのはやや意外。
    行政法関税法の認定手続について、行政手続法の適用除外規定の例というところも含め、その特殊性が個人的には興味深い。
    民法。代理のところを丹念に解説してくれていて、良いと思う。商法。合併のあたり。合併無効の訴えは、自己の利益に関係する理由のみ主張可能というのは、失念していたというか、総会の決議無効の訴えとかと何故か混同していた。
    民訴。訴訟上の和解に瑕疵があった場合の扱い。代物弁済したキャビアの缶詰が粗悪品だったという設定を見た時点で、特定の判例が脳裏をよぎるのは仕方あるまい。
    刑法。生活保護ビジネスめいた事案だけど、どこが刑法上問題かというと見た目ほど簡単ではないと感じた。設例中一番まずいんじゃないのと思った生活保護費からのピンハネめいた行為は議論の俎上にあがってないし。
    刑訴。補強法則。補強の範囲とか自白からの独立性のあたりはすっかり抜けていると気づく(汗)。
  • 判例セレクト。憲法行政法は、同じ家裁調査官の少年保護事件についての論文発表の事案について。憲法での検討では、プライバシー関係の利益衡量は事案次第の要素が大きく予測可能性が低いという指摘が重要。行政法(事件としては憲法のものとは別事件)では国賠上の議論の検討。事案の理解の仕方の差で審級ごとに判断枠組が異なるのが興味深い。
    商法は、取締役の選任決議の株主総会の不存在を理由として当該総会で選任された取締役の地位不存在などの仮処分。総会の不存在が疎明された実例に初めて接した気がする。
    民訴は選挙の取消訴訟中に、次の選挙が起きたときの話だけど、瑕疵の連鎖論は、どこまでできるのか、と気になる。もともとの瑕疵について争う権利についての時効が成立するまでなのだろうけど。
    刑法は科刑上一罪の関係にある数個の罪にいずれも選択刑として罰金刑があるときの扱いについて。考えたことがない話だったので、興味深かった。
    刑訴は被害児童に対する司法面接の録音録画記録媒体の刑訴法321条1項2号後段該当性の話。司法面接の方法についての説明が個人的には興味深かった。