月刊法学教室 2022年06 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 巻頭言は、川出教授の成年年齢引き下げに関する民法少年法改正の議論における曖昧さの指摘。議論の経過を追いかけていなかったので何とも言えないが、政治的決着があいまいさを増したのは指摘のとおりだろうと感じる。
  • 法学のアントレは図書館がテーマ。味わい深い回顧録だが、特に読者向けのアドバイスとかがないのが、新趣向という感じがする。
  • 法学を旅するは、建築協定について、その法的性格に諸説あるのは知らなかった。物事が移り変わる中でいったん結んだ協定が実態と齟齬を生じた結果却って足かせになる辺りは、今後さらにこの種の問題となる事例が増えることを予感させる。
  • 判例セレクト。
    憲法の旧優生保護法の合憲性と除斥期間の適用の制限の件は、除斥期間の適用を認めなかった論理が、訴訟提起が実質的に可能だったかについて着目しているのは、興味深く感じた。
    行政法大阪市ヘイトスピーチ条例最高裁合憲判決は、財務会計行為に対する住民訴訟を通じて条例の違憲性を争うという、争い方が面白いと感じた。
    民法の離婚慰謝料が履行遅滞に陥る時の件は、「損害を知った時」を起算点とする考え方からすれば理解不可能ではないが、個人的には肚落ちしにくい。解説末尾にある別の考え方の方が個人的には理解しやすく感じた。
    商法の議決権行使書面の行使期限に関する法令違反の瑕疵と裁量棄却の件は、判旨のように行使期限の差異が20分なら裁量棄却でも仕方ないのかなと思うけど解説で指摘されている1日短縮説で考えたらどうだったのかというところが気になった。
    刑法のいわゆるキャッシュカードすり替え型の窃盗罪につき実効の着手があるとされた事例については、被害者宅まで一定の距離があるところで実行の着手を認めた判断の射程とかが気になる。
    刑訴の裁判員裁判における刺激証拠の取り扱いについては、解説の証拠能力に関する諸説の紹介が興味深かった。
  • 演習。
    憲法。設問の事案は今どきな感じになっている。泉佐野市民会館事件最高裁判決とかすっかり忘れていて、そういうのがあったなという程度になっていて焦る。
    行政法。処分性に関して。権利制限の具体性・現実性に関する解説が個人的には、印象に残った。
    民法の動産売買先取特権周りの話。担保物権は、仕事の上でも使ったことがほとんどないので、どうしても印象が薄い。
    商法。相変わらずフライドポテトが欠かせない。取締役の報酬周りの話は、そうだったなあと思いつつ読む。
    民訴。訴訟信託の禁止に違反して譲渡された債権の取立訴訟の当事者適格についての検討。振れたことのない話だったので、なるほどと思う。訴訟が不適法却下されるのではなく、請求棄却になるのは、やや驚くが解説を読んで納得。
    刑法。正当防衛の成否に関して侵害回避義務があるかという話。この事案では義務を課すのは酷にすぎる気がするけど、どこに線を引くべきかはよくわからない気がする。
    刑訴。別件逮捕・勾留のあたり。別件基準説、本件基準説、実体喪失説と出てくるけど、別件基準説が、逮捕・勾留単体の判断のしやすさという意味で裁判所にとっては、使いやすいのだろうなと感じる。
  • 講座。
    憲法は「不起立教員」と思想・良心の自由について。判断枠組みが事案の近い(要するに元ネタ?)最判でのそれを使っているけど、その枠組みになる理由が見えない気がした。あてはめで他の懲戒処分者との比較の中で、体罰教員に再犯?の恐れの指摘があるけど、セクハラ教員にその指摘がないのも違和感があった。
    行政法は処分性について。現在の判例の枠組みについての整理は、受験生時代の記憶がよみがえる(普段使わないので)。処分性を広く認めればいいというものではないという最後の部分での指摘が興味深い。
    家族法。財産分与と婚約・内縁を考える。内縁準婚理論が日本独自のもので西洋法の常識を前提にすれば論外という指摘には驚いたが*1、そう考えるべき理由の説明を読んで納得。
    商法。商業登記の現代的機能。最初2頁のお悩み部分が興味深い。登記内容の真正確保との関係で消極的・積極的公示力について語られるものの、規定がある過料の話が語られないのが味わい深い。会社法の話だからかもしれないが、時折課されている話を見るから言及があってもよかったのではないか。
    民訴。語りたい話題に集中するために、それと関係ない話をばさばさと後回ししたり注釈に落としていくのが痛快というかなんというか。
    刑法。原因において自由な行為。著者自身の説が、やや控えめに(?)語られているのが印象深い。内容はこちらの不勉強故にどこまでついていけたのかは定かではないが。
  • 時の問題。敵対的買収防衛策に関する最近の裁判例の分析から出てくるまとめが個人的にはよかった。MoM要件の正当化についての理解の仕方は、いままで腑に落ちなかった点が、肚落ちした感があった。
  • 特集2。
    今の法学の先生たちなら言いそうな内容だなという気もするが、法学に興味をあまり持たずに法学部に進んだ元学生(政治系に関心があった)としては、そんなこと言ったって...という気もした。憲法と刑法の議論の仕方の比較の部分は個人的には面白かった。
  • 特集1。
    小島先生のリードの後は、木村草太先生の婚姻と憲法の記事。また、可燃性の高い題材をTL上での発言の可燃性の高そうな先生に依頼するなあと感動(謎)。内容自体は、個人的には、なるほどと思った。非婚父母の共同親権についての指摘には個人的には同意。面倒を避ける観点から引用などは避けておく。
    移動の自由と社交の自由については、後者について、「社交」の意義の見えにくさについての指摘が興味深く、特に、目的も定まらない「社交」の憲法的価値を可視化、理論化していない問題についての指摘は、深く頷くところ。
    表現の自由と差別は、諸外国との比較の上での本邦の対応の在り方の特殊性についての指摘が興味深い。
    障害者をめぐる人権問題、は障害を持つ児童・生徒に関する義務教育就学制度を題材に問題の現況を論じているというところか。縁のない話なので軽々にいうこと出来ないが、リソース不足の影響は大きいと感じる。
    議員内閣制をめぐる憲法問題については、統治は、司法試験合格までに至る過程でも、正直あまりちゃんと勉強した記憶がなく、この記事であるような構造についての検討に接したことがなく、なるほどと思いながら読む。
    地方自治と外国人は、詳細を追いかけていない話題で、現状についてなるほどと思いつつ読む。地方選挙権については、国政と異なる要請が働いている点の指摘は納得。
    特集は、学習を身近に感じるという趣旨からすれば、趣旨に適うものと感じた。

*1:この点については、浜弁先生からのご指摘も興味深かった。