月刊法学教室2022年4月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言は松下先生の民事訴訟のIT化に絡むお話。いかにもシニアな先生が書きそうな内容だなと思って読む。
  • 法学のアントレは大学の図書館について。高校生のときに、高校の図書室に入り浸っていた身としては、図書館に行くことの重要性は、大学生だけに妥当するものではないと思うけど、最後の一言には賛成。
  • 判例セレクトへ。
    目次?部分にイラストがあるのは新鮮な印象。憲法の性別の取り扱い変更に関する制約の合憲性については、宇賀反対意見の解説は興味深かった。
    行政法の氏と基準に反する政務活動費の不当利得返還請求請求事件については、ある種の合算処理めいたものを許容しているように理解したが、解説が挙げている補足意見であるように、別途条例を設けて基準に該当しない支出額については返還を求める方が良いのではないかという気がする。
    民法の交通事故による車両損傷を理由とする損害賠償請求権の消滅時効の起算点は身体傷害とは各別に判断されるとした事例については、被侵害利益が異なるから、というのは理解しやすいけど、これまで最高裁のそういう判断がなかったことの方がやや驚いた。交通事故とかで出ていそうな気がしたので。
    民法のもう一件は、憲法で取り上げられた事件を民法側から検討したもの。世論や社会的理解の定着を待つ必要があるという指摘については、そういうものを待ってるといつまでも何も変わらないと思うし、個別具体的な状況次第では認める方向で立法した方が良くないかという気がした。
    商法の事前委任状送付株主による誤解に基づく総会当日の危険の議決権行使の件は、要するに関西スーパーの件のはずだけど、解説での決定への批判には納得。
    刑法の勾留中に薬物譲渡の相手から差し入れられた現金の薬物犯罪収益性については、過去の最高裁判決との比較を読んでも、言葉遊びにも見えてしまい、違いが良くわからなかった。
    刑訴の業務上占有者の身分を有しない者がその身分を有する共犯者の横領行為に共同正犯として加功した場合の公訴時効期間の件は、つじつまの合わせ方の問題という印象。解説で指摘される犯罪の社会的影響基準の方がいいような気はしたけど。いずれにしても最高裁の判断を待ちたいところ。
  • 演習へ。
    商法以外は執筆者の交代がある。執筆者のコメントでは商法と民訴の執筆者のコメントが個人的には良かった。
    憲法。破産者マップ事件を想起させる事実関係だけど、あくまでも憲法論としての争い方に焦点を当てているように見え、これはこれで演習としては適切なのだろう。
    行政法。最初数回は処分性に関する話の模様。処分性がどういう問題かという解説が重要と思われた。こちらはこの辺りはこれまであまり明確に意識できていなかったからそう感じるのだろうが。
    民法。土地の売買の設例で、契約上の手当てもなく、現地調査もなしに買うという、実際にどこまである話なのかよくわからない設例というので引っ掛かるが、解説の内容は、この状況下では確かにそうなるんだろうなと納得。
    商法。何だか最近はポテトを食べているシーンが多いような気が(汗)。閉鎖会社での期間設計をいじったり種類株式をいじったりするあたりは実務で出会ったことがないので、なるほどとは思うものの、どうしてもイメージが湧きづらい気がする。
    民訴。訴訟行為への表見法理の適用の可否とか訴訟上の和解に対する表見法理の適用の可否とか、そういえば受験生時代に勉強したなと思い出す。今は訴訟とかのないインハウスだからすっかり忘却の彼方だけど(汗)。
    刑法。上司O恨まれすぎ(謎)。択一的競合における条件関係とかは、如何にも教室設例だけど、ちゃんとやっておかないといけないよねと思う。現時点では利益原則を考えると、択一的競合における条件関係を否定したい気がした。
    刑訴。こちらもすっかり忘れていて焦る。こういうのやったよなというおぼろげな記憶程度。任意捜査の適法性のところで、比例原則の適用を検討する際に司法警察行政警察とで必要性の内容が異なるという指摘は、個人的には重要と感じた。
  • 講座。憲法・商法・民訴が新連載開始。
    憲法は、事例問題への対応の仕方に焦点を当てたもの。脚注と可での文献とかの言及の仕方も結構丁寧で、歯ごたえ十分な感じ。ただ、設問を試験で実際に答案化しようとしたときにどこまでのことがなし得るかは結構疑問が残った。時間と紙幅に制限がある試験でどうするか、ということまでは、こういうフォーマットの連載では見えてこないのだろう。それを学者の著者に望むのには無理があるのかもしれないが、事例問題への対応の仕方を説くものとして、そこまで見えていないものにどこまでの意味があるのか、疑問が残った。
    商法は商法総則・商行為法の現代化に向けて。この辺りはすっかりサボっている分野なので、ついていけるか不安(汗)。Iの商法典は残すべきかの検討は、商法の断片化が進む中では、民法に統合するので良いのではないか、拒絶する方を手当てすべきではないかと感じた。IIの商法の適用範囲のところは、現行法の問題点を踏まえての改正案が興味深かった。商行為の限定列挙は、確かにやめた方が良いのだろうと感じた。
    新連載の流れをつかむ民事訴訟法。初回は手続の流れと基本原則。最初に第1審の原則的な流れを説明するのは良いのではないか。連載開始の挨拶で民事訴訟のIT化が手続の基本的な流れと基本原則や各種の問題に大きな影響を及ぼさないとしているのは、現時点のコメントとして留意しておくべきと感じた。
    行政法は、救済法の初回として、救済法体系、行政不服審査、行政審判、苦情処理というあたり。不服審査も真面目に勉強してないうえ、行政審判、苦情処理の辺りはほぼ勉強した記憶がない(汗)。
    刑法。こちらの基礎的な理解の欠如ゆえだろうが、良くわからなかった(いつもそう言っている気がする)。今回は特にそう思ったのだけど、いろんな人の学説を紹介することと、表題の刑法総論の基礎にあるものとの関係が良くわからない。
  • 最後に特集。
    最初の曽我部先生の原稿は、冒頭の企画説明のあとにDPF憲法という部分と、社会変化による法制度の変化の中で憲法の理念をどう組み込むかという部分からなり、後ろの2つの部分でも他の著者の原稿との接点が示されていて、配慮されているなと感じる。グローバルDPFの状況をヨーロッパ中世のカトリック教会と国家の関係になぞらえているのは、こちらの乏しい中世の知識でも納得するできるところ。カノッサの屈辱がYou tuberの垢banと重なって見えてしまう(謎)。
    大澤先生の原稿では、民法・消費者法の分野で、デジタル化等によって生じている問題と対応の現状の鳥瞰というところだろうか。一定のカテゴリーに分類したものに対して分類した理由に基づき個別の規制を及ぼすという発想が通じにくくなっているという気がする。
    深町先生の原稿は、先生の先般の著書(未読)の続きなのだが、この特集でなぜこの話?と思ったら、しっかりと納得のいく説明があって、なるほどと思う。メッセージ立法に関する検討は、この問題の取り扱いの難しさが良くわかる気がした。
    谷口先生の原稿は、CALL4が出来た経緯の話が興味深い。こういう動きをされているのは凄いと思う反面で、これは病理現象に対するある種の対処療法であって、根治療法でないことも念頭に置くべきだと感じる。そのことはこの試みの意義を減殺するものではないのはいうまでもないのだが。
    特集の今回分は、社会変化の法・法学にもたらす影響をいくつかの断面で切り取っているというところで、それぞれ個人的には興味深かった。後編の著者たちの間でのディスカッションと質疑応答にも期待。