月刊法学教室 2024年 09 月号

例によって、目を通せた範囲で、呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言は、確かに英語にできない日本語というのはあるな、と思う。それが何かは異論があり得るとしても。
  • 法学のアントレは、留学して進路変更して法学へ、という展開が凄い。
  • 特集は会社法の基礎原理・重要概念の再検討。
    松井先生の全体を鳥瞰する短い文章の後は、株主利益最大化原則(株主第一主義とは何か)。ESVとかアルファベット3文字が出てきて、何が何だかという感じ。利害関係人第一から、株主第一主義に振り子が極端に振れたのを中庸方面に戻す感じなのだろうか。抽象論ではそうかもしれないと思う部分があっても、具体的な場面で何がどう変わるのか、分かるようでわからないという印象。単にこちらが不勉強なだけかもしれないが。
    一株一議決権原則とは何かは、ローエコっぽいなと思いながら読む。
    資本充実の原則とは何かは、今更維持しなくても良い原則ではないのかと感じた。最後の問題提起は興味深いが答えはよくわからない。
    定款自治契約自由の原則会社法の強行法規性は、定款規定の効力を考える際の考慮要素に導入時に多数派が同意していた事実の重みを挙げているのは、なるほどと思いながら読む。
    企業買収行動指針における3原則は、3原則相互の関係は、なるほどと思う。読みながら、事実上強制みたいなやり口はやはり気持ち悪いと感じる。事実上であっても強制したいなら正面切って立法すべきと思う。
    このシリーズはどれもそうだろうけど、今回も、当然の前提みたいなところの検討が興味深いとともに、こちらの不勉強感じる。
  • 時の問題
    裁判官弾劾制度の意義と司法権の独立――裁判官弾劾裁判所令和6年4月3日判決を契機としては、断崖裁判の効果と法曹資格剥奪に至る点を他の法律に基づく付随的効果であり罷免の可否を検討する際に勘案すべきでないというのには違和感を覚えた。あの事件については、裁判官として不適格という判断まではあり得ても、法曹資格剥奪まではやり過ぎと思うので。
    「2024年問題」のこれからと法が果たす役割は、法律論を論じるので仕方ないとしても、賃上げによる解決が華麗にスルーされた感があって、何だか微妙な気分。
    ICCの役割は、別のICCを思い浮かべた(汗)。できることは限られている中で何をどうやって行くかが難しそうな印象を受けた。
  • 講座。
    憲法国民主権・民主制(2)。芦部・佐藤幸治の話が多いが、他は取り上げなくていいのかと疑問。
    行政法取消訴訟の審理と判決。行政処分を措置と規律の二つの側面からとらえる方法が取消訴訟においても有用と感じた。
    民法判例から見た人格権侵害の差止め要件論。4つの最判からの判例法理の分析と整理の仕方が分かりやすい。
    会社法の時計は自己株式取得規制。明治以来の改正を振り返って改正の背後にある事情と合わせて解説しているのはいつもながらに面白い。「法改正というのは、単なる実務上の要請だけでなく、理論的な基礎をはじめと知る議論の厚みがあってこそ実現すべきものであり」という指摘には、昨今の某議論の節操のなさを思い出す。
    刑法の名誉棄損罪における真実性の誤信は、素材となった判例におけるネットでの言論の扱われ方の検討が興味深く感じた。
    刑訴の連載「疑わしきは被告人の利益に」の原則は歴史的にどう理解されていたかというところが面白い(会社法の時計の連載でも感じるところだが)。
  • 演習。
    憲法。44条違反とか考えたことがなかった(汗)。
    行政法。処分性など。訴訟選択のところで、取消訴訟に出訴期間の定めがあるのは言及があるけど、期間が短いことにも言及があった方がよかったのではなかろうか。
    民法。取得時効の要件の占有における「所有の意思」の判断方法。すっかり忘れている(が、読むとそういう話あったよねということは思い出す)。
    商法。譲渡制限株式の譲渡などについて。会社の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡について有効説の考え方が興味深く感じた。
    民訴。当事者能力とか当事者適格とか。幸か不幸かここしばらくの勤務先では訴訟にあまり縁がないこともあり、すっかりご無沙汰な感じがある。
    刑法。間接正犯まわり。間接正犯が教唆犯を包含する、というくだりは、言われてみればそういう考え方もできるかも、と思う。
    刑訴。無令状捜索が許容される場合、みたいなあたり。そういうのあったねと思いながら読む。
    刑事政策。拘禁刑と矯正処遇の関係など。刑事政策自体学んだことがないうえ、新しい話でそういうものかと思って読む。
  • 判例セレクト。
    憲法の受刑者の選挙権・国民審査投票権制限の合憲性は、解説最後に書かれている疑問の提示に納得。
    行政法青色申告承認取消処分と憲法31条の法意は、解説最後のコメントに納得。
    民法公社住宅借地借家法32条1項は、解説最後の指摘は確かにそうだよなと思う。
    商法の株券発行会社における株券発行前の株式譲渡の効力は会社の承認を欠く譲渡制限株式の譲渡を有効とする説の考え方が興味深く感じた。直ちに賛成はしづらいとしても。
    商法の製品が大臣評価基準に適合しないことの報告・公表に係る取締役の責任は、解説でのダスキン事件との比較が興味深く感じた。
    民訴の被告に対して損害賠償請求権を有すると主張する一般債権者の被告側への補助参加が許可された事例は、最後の指摘には、なるほどと思う。
    刑法の児童ポルノ法7条4項にも5項にも該当する行為に5項を適用することの可否は、解説での条文の文言の語義の検討と趣旨の検討が印象深い。
    刑訴の訴因の設定と審判の範囲は、刑法の事件と同じ事件についてで、H15最判との判断構造の違いの指摘はなるほどと思う。