月刊法学教室 2024年 08 月号

例によって、呟いたことを基に、目を通せた範囲について箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言は、「マル」付けの歴史からして面白い。著者の提言にはなるほどと思う。
  • 法学のアントレは留学ということでカナダ留学について。カナダ留学は確かに聞いたことがないな(駐妻された際に学校に通われたというお話は聞いたことがあるけど)。
  • 特集1 →タイムライン→労働法→ こういう考えオチみたいなタイトルで不安になりつつも、イントロの後の、労働者概念をめぐる「これまで」と「これから」――温故知新?へ。これまで、の話も、これからの話も興味深い。経済法による保護では不足ではないかという指摘は、現状からすればそうだろうと思う。
    シューカツと労働法は、労働法の観点からシューカツ(この言い方もどうなんだという気がするが)を分析するという意味ではいいのだろうが、就活プロセスが長くなって、大学での学びの時間がとりづらくなるというあたりを大学教員としての著者がどう思うのかが気になった。
    解雇・採用内定取消法理の形成と展望は、割に既視感のある内容で、労働法の書籍とかでもよく書かれる内容なのではないかと思うし、それゆえにそう感じたのかもしれない。
    労働時間の過去・現在・未来は、過去の話はほぼ知らない話ばかりで興味深かった。展望で述べられた兼業・副業問題も今後の進展が気になるところ。
    日本における雇用平等法制のあゆみは、累次に及ぶ改正経緯は認識していなかったので、平等の範囲の広がり方も含めて興味深かった。
    法制度の歴史を振り返るというのは、会社法の時計の連載でもそうだけど、今の法律しか学ぶ余裕のない立場にとしても、興味をそそる内容で、できればもう少し深堀してほしかった気がした。
  • 次いで特集2は動物の愛護と福祉――動物法入門。動物を飼わないので縁がないなと思いつつ。イントロの文章の後は、制定から25年を迎えた動物愛護管理法――現状と課題。「進みすぎた法律と現場の乖離」という表現が印象深く感じた。
    消費者法と動物への配慮では、ドイツ民法等で「動物は物ではない」と定めているという指摘とその趣旨の解説が興味深いが、指摘されているように日本で同様の規定を置くべきかについては、更に検討が必要と感じた。
    動物殺傷等を伴う宗教的行為と愛護動物虐待等罪は、そもそもそういう罪が定められていること自体知らなかったので、宗教的行為の自由との緊張関係が興味深く感じた。最後に指摘があるように、感情論ではなく法的枠組みに沿った冷静な判断が必要かつ重要と感じる。
    EUの動物福祉法は意識高めの法律の裏の戦略性の指摘は興味深い。EUの立法の戦略性はGDPRなどでも感じるところ。ああいう形での立法については、意見が分かれそうなところではあるが。
    普段考えない分野の法律なので、興味深い反面、大半の原稿で、著者の「意識の高さ」についていけないものを感じたのも事実。
  • 講座。
    憲法国民主権・民主制(1)。ボン基本法146条の規定が個人的には印象深い。
    行政法は訴えの利益等の訴訟要件。行政処分には措置としての面と規律としての面があるという指摘は興味深い。
    民法はプライバシー侵害による不法行為。「おわりに」に全体の要約があるのが良い。プライバシー概念の2つの理解の仕方とその相互関係についての指摘は、なるほどと思いつつ読む。
    商法は種類株式。種類株式制度の柔構造化といえる改正があったというのは不勉強で知らなかった。改正当時は既に企業の法務部門にいたが、会社法周りの話に接する機会がなかったから、というのが一応のいいわけになるのだが(汗
    刑法はポスティング目的での分譲マンション共用部分への立ち入りと住居侵入罪。「住居」と「邸宅」の区別の実益がどうも腹落ちしない感じがする。
    刑訴は自由心証主義。用語の理解のされ方やそれを取り巻く制度の変遷の解説が興味深かった。最後に指摘されている課題が四半世紀経過しても残されたままというのはさすがに何とかできないのかと思う。
  • 演習。
    憲法。取材の自由等。取材の自由の教授主体の判断について、アメリカの議論から導かれた判定方法が興味深かった。
    行政法。墓埋法と原告適格。迷惑施設的なものに関する距離制限の規定はなぜその距離なのかは、感覚的なもなのだろうと思うなど。
    民法。抵当権の効力の及ぶ範囲とか物上代位とか。普段使わない話なのできれいに忘れてる(汗)。
    商法。株主との同意による自己株式の取得等。手続違反での取得につき、取締役に損害賠償請求をする場合の損害額の考え方については、公正価額での取得時に損害がないとなるのは、結論の妥当性を欠くような気がする。
    民訴。訴えの提起の効果とか重複起訴の禁止とか。いろいろ組み合わさると非現実的なパズルにも見えてくるのはやむを得ないのだろう。
    刑法。幇助犯。問題行為の行為時の状況や文脈が重要というのはなるほどと思う。
    刑訴。差押え関連の論点2つについて。某事件が設例のネタもとと思われ、何だか懐かしさを覚える。
  • 判例セレクト。
    憲法は岡口弾劾裁判。解説で批判として挙げられている点は確かに問題だろう。
    行政法の地方議会の件(詳細略)は解説3での指摘はなるほどと思う。
    商法の退職慰労金の件(詳細略)は、お家騒動感が凄い。
    刑法の窃盗罪における占有の存否の判断、は、占有の範囲をどこまで緩く考えることができるのかが気になった。
    刑訴の勾留時の個人特定事項秘匿措置と弁護人依頼権は、解説の3で指摘されている2点は興味深く感じた。