月刊法学教室 2023年 03 月号

例によって呟いたことを基に感想をメモ。

  • 巻頭言の小島先生の文章については、こちらは批判者の言い分に与したいと感じた、とだけ。
  • 法学のアントレについては、伝えたい結論とそれを正当化する論拠を整理して初めて文章を書き始めることができる、という指摘はなるほどと思いつつ、普段どこまで貫徹できているかおぼつかないので反省。
  • 法学を旅するは最終回。北海道から国際法を見るというもの。日露間の漁業問題が、国際規制の枠組みの中で検討されていることは知らなかった。
  • 法律ができるまでの特集。
    イントロの文章の後は、議員提案法律ができるまで。国会の補佐機関が色々あることは知らなかった。
    その次は内閣提出法律ができるまで。議員提案法律よりも手間がかかっているように見える。その分文言とかには問題が少なくなっているのだろうと推測。
    立法に関する組織と情報の原稿では、会社法改正を題材に解説。QRコードが原稿中に埋め込まれていて、一次資料などにアクセスができるようになっているのが面白い(実際にアクセスするかどうかはさておき)。
    議員立法の実際は、実例の紹介とそこから垣間見える議員立法をめぐる問題点の指摘が興味深い。指摘されている自民党党内事前審査制による国会審議の形骸化や政党内審査が議員の発議権などへの制約となる可能性については、いずれも確かに問題と感じる。
    内閣提出法案における立法の実際は、働き方改革関連法における時間外動労の上限規制の導入過程の解説が興味深いが、国会外で実質的な議論がなされているという点が気になった。
    世論の立法過程への影響については、政治学から見ればそうなるよなという感じで、「おわりに」での最後に書かれている内容には納得する。
    立法周りの話は、その種の当節流行りの片仮名系の業務に従事していないこともあり、疎いのでこうやって現状をざっとでも見ることができたのは良かったと感じる。
  • 国会概観は210回国会で成立した主要法律の紹介。興味のない話が大半で、右から左に抜けていく感じ。旧統一教会被害者救済関連法は、この記事の紹介を見る限りでは実効性に難ありと感じる。
  • 時の問題。
    原発差止訴訟の展開は、この種の訴訟の現状を知らなかったので興味深く読む。民事訴訟行政訴訟の使われ方(攻撃対象)の差異が興味深い。証拠の偏在に伴う立証負担の移動?については、より一般化した形で規範化できないかと感じるところ。
    「労働者」としての「公務員」とは何か、は、公務員としての特殊性がどのように純然たる労働者であることとの差異を生むのか、その差異はいかにして正当化されるのかについて最近の最判を題材にした検討が興味深く感じた。結局あまり議論が煮詰まっていないということのように感じた。
    アメリカの政治と司法は、アメリカの現状の分析を踏まえて日本の現状についてのコメントに納得。
  • 講座。憲法。未成年者に対する選挙運動規制。判断枠組みの段階で考え方が分かれるというのはやはりわかりづらい気がする(こちらの勉強不足ゆえのことだろうが)。基本的なところで考え方が分かれるあたりが憲法らしいのかもしれないと思ったりもする。
    行政法。損失補償/国家補償の谷間、ガソリンタンク事件の図示が分かりやすい。
    家族法。扶養を考える、そして将来へ、と題して、家族法学の将来に向けて、自説への批判に応答しながら論じる水野先生が凄いと感じた。どこまで理解できたかは怪しいが、他の連載とは格が違うと感じるスケールの大きな連載だった。
    商法。比較法。唐突感を禁じ得ない。この連載は何だったのかよくわからないまま終わった感じが強い。
    民訴。書証の取調べと人証の集中証拠調べその1。文書の意義とかすっかり忘れていたというか、受験生の時すらちゃんと理解していなかった気がした(汗)。
    刑法。相性が悪いと感じる連載が最終回で安堵。議論についていけない感じだったが、注11には納得しつつ苦笑した。
    刑訴。検察実務からみた刑事手続の基礎で、公判準備の続き。刑事事件に関与しない立場からすれば、まあ、そうなるんだろうな、検察側としては、という程度の印象しかない。
  • 演習。
    憲法司法権の概念とか部分社会論とか。部分社会論は仮に肯定するとしてもその範囲はかなり限定的にすべきではないのかと感じた。
    行政法。損失補償。保安林指定と損失補償に関して設問への解説で、裁判例との差異を踏まえた設例における結論の分析が興味深く感じた。
    民法。譲渡担保とか所有権留保特約とか。こちらが経験した範囲の実務ではほとんど見たことがないので、受験生の頃の知識以上のものがなく、まあ、そういうことだよなと読む。
    商法。最終回はきちんとポテトが取り上げられていて満足(そこじゃない)。MBO周りの話は、実務の知識としては納得。司法試験受験の知識としては僕はそこまで手が回ってなかった(汗。
    民訴。公示送達とか再審とか。いずれも体験がない。この辺りも経験がないが、再審事由となる可能性もあることを考えると送達は重要と改めて感じるし、だからこそ訴状などを受け取った時は、手続の瑕疵の有無を確認する手段として、封筒などを全部保管しておくことが重要とも感じる。
    刑法。文書偽造罪関連。自署性が求められる文書でも名義人の承諾があれば文書偽造罪が成立しないという見解とか入試答案について採点という外在的要素に左右されることから「事実証明に関する文書」には該当しないという見解があることは知らなかった(汗)。
    刑訴。一事不再理あたりの話。順序だてた解説が分かりやすい。一事不再理の時間的な範囲の解説は、R3最決で一審判決時とした理由の説明もなるほどというところ。
  • 判例セレクト。
    憲法同性婚を認めない現行婚姻法を「違憲状態」とした東京地裁判決については、解説の中で同性婚を認めた場合の問題点についての指摘は興味深い。ただし、最後の結論については、そこまで言い切れるのかはよくわからない気がした。
    行政法の東京都議会議員定数配分訴訟は、そもそも都議会でもこういう訴訟になっているのを知らなかった。島嶼部の特例選挙制を取り巻く諸々の事柄を知らないので軽々なことは言えないが、解説で指摘されているように、その見直しについて最高裁が議会にメッセージを送らないのは問題との指摘には同意。見直した結果問題なし、という結論もあり得るはずと考えれば、見直しを指摘すること自体は必要だろうし問題はないはずなので。
    民法の子の引渡しの強制執行と子の拒絶の意思表示の件は、解説で紹介されている宇賀補足意見が妥当なように見えるがどうなんだろう。
    商法の株主の協調的行為に対する防衛策は、防衛策の必要性についての解説での批判が興味深く、なるほどと思って読んだ。
    民訴の受刑者が作業報奨金の支給を受ける権利と債券差し押さえは、報奨金の性格付けからすれば決定は理解可能だろう。報奨金の性質についての解説での指摘も興味深かった。
    刑法の水増し請求と詐欺罪の成立範囲は、論点自体把握してなかった。解説でのこれまでの判例・裁判例の変遷、特に最判S30.10.14(刑集9.11.2173)の事案の他の事件との差異の分析が興味深かった。