月刊法学教室 2023年 01 月号

例によって呟いたことを基に感想をメモ。

  • 巻頭言は川出先生の重大事故の刑事責任についてのもの。刑事罰の対象を原則個人(法人は例外的)というのは、書かれているような事案を考えると、変えることを考えてもよいのではないかと感じる。

  • 法学のアントレの「「書く」ことを指導して思うこと」については、今どきの20代?の文章の書き方やコミュニケーションの取り方についての指摘が、50代オジサンとしては興味深い。

  • 法学を旅するは、地域公共交通。岡山大ローの取り組みは、学際的な研究会だけでなく、リカレント教育なども面白いと思った。

  • 特集は学習の中の実務、実務の中の学習。
    Iが学習の中の実務の座談会。学校・ロースクールの中で学ぶことの意義についての指摘には納得。その後で出てくる弁護士さんたちのコメントの中で企業内法務の方の話がないので、あれ?と思ったが、座談会で長めに語られていた。
    II弁護士のところは、地方の街弁事務所のアソの方の記事。アソの立場だとそうなるよな、というところ。
    司法書士さんの記事で、資格試験のテキストを実務でも使える限り使い続ける方が多いというのは、やや驚く。
    国家公務員の記事は、厚労省の方の記事。やはり大変そうだなという印象に尽きる。
    地方公務員の方の記事は、中央官庁の方とは異なる意味で、大変さを感じる。どちらもやりがいはあるのだろうけれど。
    IIIの大学院でのリカレント教育については、リカレント教育修士や博士課程に行くというのは凄いと思う。憧れるものがあるが、言うほど簡単ではないのもよくわかる記事。
    特集は、こちらも実務家の端くれなので、内容はそうだよなと思いつつ読むけど、学生や法科大学院生の皆さんにとっては、学んだことがどうその先に活きるかということについての示唆を与えてくれる内容になっていて良いのではないかと感じた。

  • 時の問題は経済安全保障推進法の制定と一部施行。未施行の部分が多く、かつ、細部が未定ということもあり、途中経過の報告という感があった。勤務先の製品・技術が直接規制対象になることはなさそうなものの、間接的な影響とかがありそうでその辺りは今後の状況の推移を見守る必要があるのだろう。
  • 判例クローズアップはツイッターという場の性質とツイート削除の判断基準に関する最高裁判決。グーグル検索に関する最高裁決定との差異の分析や比較衡量にあたっての考慮要素の分析(特に時の経過についてのもの)が興味深かった。
  • 講座。
    憲法。判断枠組としてなぜこの枠組を選ぶのか、というあたりの検討の仕方が良くわからないという気がする。こちらの勉強不足ゆえのこととはわかっているのだが...。
    行政法国家賠償法1条。行政便宜主義は初めて見たかも。損害発生や因果関係についての解説が薄くないかと感じる。
    家族法。親権を考える。水野先生が、共同親権を提案したことがあるものの、現状では、実現には条件が整っていないとするのが興味深い。指摘のある行政、司法のインフラ不足からすれば、理解できるところ。
    商法。商人取引の補助者に対する法的規律。過去の経緯・現代の取引実態、これらを踏まえた規律の在り方に関する課題。この辺りも土地勘のない分野なのだが、歴史的な経緯を踏まえたビッグピクチャーが描かれていて、読んでいて面白かった(どこまで理解できたかはさておき)。
    民訴。事実の認定と証明(その1)。主要事実・間接事実・補助事実とかと弁論主義とかの関係の説明が比較的分かりやすく感じた。
    刑法。共同正犯関係の解消。相変わらず、相性が悪いのか、読みづらく感じる。理論の分析は興味深いが、実際にPJBにとって使い勝手の良い議論になっているのか疑問が残った。
    刑訴は、終局処分。如何にも教室設例的な感じというかご都合主義的な感じがしたけど、終局処分に至るP側の動きの解説は分かりやすかった。
  • 演習。
    憲法は教育現場での生徒等の人権と訴訟を通じたその実現で、スマホ使い過ぎ対策の校則が題材。言葉遣いは分かりづらく感じたけど、解説内容はなるほど、という印象。
    行政法。裁量論関係。要件該当性を確認することの重要性が強調されているのは、試験で裁量論の問題だと感じた瞬間にそちらに注意が向きがちなことからすれば納得する。
    民法。取得時効と登記、取得時効における背信的悪意者の判断基準、というあたり。取得時効と登記についての学説が複数あるのは認識してなかった(汗)。
    商法。フライドかどうかはさておきポテトが出て来て安心(違)。振替制度周りの話はすっかり記憶から抜け落ちていたが、解説を読んでそういう話だったなあと思い出す。
    民訴。共同訴訟あたり。保証人敗訴後の主債務者勝訴判決の援用の可否のところの説明は、何だか微妙な気がする。訴訟指揮の在り方に問題があったという意見に賛成。
    刑法。名誉に対する罪とか真実性の証明あたりの話。名誉棄損罪と侮辱罪と別々に存在している必要があるのかという気もした。
    刑訴。検面調書の証拠能力など。伝聞と非伝聞の区別、伝聞例外の要件などは、普段目にしないので、こういうのあったな、と思いつつ読む。
  • 判例セレクト。
    憲法の、本国で日本国民と同性婚を行った外国人の在留資格の件は、「特定活動」という便法に対する解説での指摘に賛成。
    行政法の、退職手当支給制限処分の一部取消判決については、解説で指摘されている問題点からすれば、妥当な措置だったのではないかと感じた。
    商法の株主総会の収容人数に合わせた抽選による出席株主の決定では、解説で、事前登録制を取る前に、通信設備で接続された複数会場の設置やオンライン出席の併用を考えるべきというが、総会の運営がやりにくくなることや通信途絶のリスクなどの負担が生じるので、コロナ禍での総会ということも考えるとそこまでしないといけないという考え方は直ちには賛成しがたい気がした。もちろん株主提案をしようとする株主の出席を恣意的に排除しようという意図に基づく事前登録制は駄目だとしても。
    商法の東京電力原発事故株主代表訴訟は、判断枠組みについてはオーソドックスという解説での指摘に納得。賠償額の大きさだけに目を奪われてはいけないと感じる。
    民訴の、会社が設置した取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が会社の訴訟代理人になった場合に、訴訟代理人の排除を認めなかった事例は、よくまあ代理人を引き受けたなと感じる。解説の最後の松中先生の指摘には納得。
    刑法の作為及び不作為による死体遺棄罪の成否の件は、個人的には、作為による死体遺棄を認めた点には疑問が残った。解説でも、既に指摘がある旨書かれているとのこと。
    刑訴の、いわゆる司法面接による供述調書の刑訴法321条1項2号該当性が判断された事例は、司法面接の独特の性質を踏まえた議論にこれまで接した記憶がないので興味深く感じた。