例によって例のごとく、呟いたことを基に感想をメモ。
- 巻頭言は民法415条2項(債権法改正後)3号について。契約の解除権が発生しない場合に履行に代わる損害賠償を認めないという帰結を防ぐための解釈論が興味深い。個人的には、2つの案のうち、後者の方が、無理が比較的少なく良いのではないかと感じた。
- 法学のアントレは大学図書館について。いかにもこの時期に似つかわしい内容。大学の図書館を自由に使えるようになりたいと思うが、時間が...(苦笑)。
- 新連載法学を旅する。第1回は地域と法学ということで、地域活性化のための仕組みづくりに法学の立場から何が出来るかという点についての実例報告。こういう視点からの記事を見た記憶がないので、興味深く拝読した。
- 判例セレクト。
憲法の無罪判決確定者のDNA型データ等の保管の許容性の件は、データ抹消請求が認められたのは重要と感じる。評釈での本件の位置づけの指摘も納得。それと別に小山剛教授が意見書を出したとあるが、その内容が気になるところ。
行政法の放置違反金納付命令の対象となる「車両の使用者」の意義、の件は、解説での背景説明もあいまって、納得の判示と感じた。
不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金と民法405条の適用又は類推適用の可否の件は、判旨に出てくる405条の趣旨を前提にすれば理解できるところ。2つの理由付けからすれば、他の金銭債務の遅延損害金にも同様の議論の成立の余地はあるだろうし、その辺りは、解説にあるように、今後に期待。
会社法106条の通知を欠く売渡請求株式の共有者による売買価格決定の申立ての件は、会社法106条が適用されればそうなるんだろうなと思いつつ、解説にあるような適用否定説が想定し得るところでは、適用される理由の説明が判示上ないというのは、やや違和感が残る。
民訴の、再生計画案に賛成する旨の条項を含む和解と決議の不正の件は、この事案ではそうなるんだろうなとは思うものの、補足意見で事案に応じた慎重な検討が必要としている点は納得。個別性の強い話になると思うので。
刑法の包括的共謀による共同正犯の件は、包括的共謀自体学んだ記憶がない(駄目)ので、その判断の仕方からして、なるほどと思いつつ読む。
刑訴の逮捕するべき人を捜索するためにホテル客室に立ち入った行為が違法とされた事例については、解説での判旨への疑問に賛成。解説での別の形での立ち入り行為の正当化の可能性の指摘は興味深かった。 - 演習
憲法。設問に対して関係しそうな(裁)判例が色々出て来て、最後にネタ元になった裁判例の判断枠組みに基づく検討がされるが、その前に出てきた(裁)判例における判断枠組みではなく、ネタ元になった裁判例の判断枠組みがここで何故採用されたのかが不明確な印象。単にネタ元がそうだったというだけなのか。
行政法。考えられる回答筋を複数検討していて、こういうところに着目するのか、と思いつつ読む。
民法。売買契約目的物滅失時の契約当事者間の法律関係。仕事だと契約書で手当してしまうから、実際にはこのままの事例には出くわさないけど、なるほどと思いながら読む。
商法。ポテトから離れられないらしい。競業避止とか利益相反取引とか。後者についての承認なし取引の損害論が分かりやすくてよい。
民訴。弁護士法25条1号違反の弁護士の訴訟行為に関して。訴訟行為の効力については、考えたことはなかったが、解説を見る限りは異議説が妥当なんだろう。
刑法。不作為犯。それぞれ解説は納得というところか。不作為については、どうしても分かりにくい部分が残る気がする。
刑訴。現行犯逮捕周り。逮捕場所が犯行現場から離れた場所であってもなお現行犯逮捕の要件を充足するというための説明が分かりやすかった。 -
講座。
憲法。政教分離原則違反の判断枠組みについて。批判されているように、総合判断の枠組みは、予測可能性の面で問題ありと感じるし、その意味で、最高裁のある種の「逃げ」のようにも見えてしまう。
行政法。行政訴訟概説。フローチャートを使って法定抗告訴訟の相互関係を整理しようとしているのだけど、矢印の意味付けの仕方が分かりにくいので、読みづらく感じた。
民法。講座の他の記事よりも短い。1回お休みしても短い(商法も短いが)というのは採点業務繁忙ゆえのことか。内容は離婚の効果。TL上でもホットになりやすい話が含まれていて、迂闊なことが言いづらいが、最後に書かれている、子の奪い合いについて、子供に決めさせてはいけないという指摘には納得。
商法も民法と同じ長さだった。商人・事業者・消費者の3つの概念の関係に関する現状の議論の整理なんだろうけど、不勉強で整理がつききれていないことしかわからなかった(汗)。
民訴。訴えの提起と訴訟物について、裁判のIT化については、インハウスになったこともあって一切フォローしてなかったのだけど、訴状の提出の電子化とか、諸々大丈夫なのか、と不安になる。文章が読み易く感じた。J経験者の文章にはそういうことを感じることが多い気がする。
刑法。例によって、議論が最先端すぎると思われるのと、こちらの前提知識の欠如とでついていけていない気がした。あと、前にも書いたけど他人の議論を紹介する際に、理解を「完全に」欠いているとか、「鋭く」指摘するとか、そういう「 」書きしたような表現は不要な気が。議論を弱く見せる気がする。 - 判例クローズアップはコインハイブ事件最高裁判決。不正指令電磁的記録保管罪の2要件それぞれについて各審級の判断を分析してて興味深かった。1つ目の反意図性の判断のところで規範的判断が難しいとしているところが良くわからなかった。規範的判断ができてもよさそうな気がしたのだけど...。
- 時の問題は、敵対的買収防衛策をめぐる近時の裁判例の動向(上)。ブルドックソース事件最高裁決定にさかのぼって、同決定の残した課題を考えるところから始まっているのは個人的には分かりやすかった。あの決定は、事案が間違いなく勝てるように、と会社側がやった事案と理解していて、あそこまでやればそりゃ勝てるだろうけど、あそこまでしないとイカンのか、というのは疑問だったので。
- 最後に特集。前号の続きでパネルディスカッション。
Iのテクノロジーの進化と法の関係では、深町先生の侮辱罪の厳罰化に対するコメントが印象的(反面で曽我部先生が短期的なものとして厳罰化を評価しているのはやや意外な気がした。)。個人的には、議論のきっかけとなった現象への救済の必要性は理解するものの、その手段としての厳罰化は適切かどうか疑義を持っていたので、ご指摘には納得するところ。深町先生がで指摘されていた被害者の主観的感情侵害を法益侵害として捉えるかという問題については、そういう問題があったことも知らなかった。
IIのメッセージ立法については、深町先生の、メッセージ立法に対するご自身の評価の変化について語っておられる点や曽我部先生とのスタンスの差異を分析されているのが興味深かった。
IIIの立法過程のあり方と法解釈・実務への影響のところは、谷口先生の「重い」立法から生じる弊害の指摘には納得するところ。IVの司法と行政のキャッチボールの在り方のところは、谷口先生の指摘する情報公開による是正の可能性は興味深いが、そもそも迂遠で、それしか手段がないというのはそもそもおかしいと思うのと、特にインターネット上での公開については、公開された情報がどう使われるかわからないところで、たまたま適切に使われただけの事例をどこまで重く見るべきか、そうでない可能性も含めた対応が必要な気がした。
Vの深町報告に対する質問については、深町先生がその場での不明点を後日然るべき手段でフォローされている点が流石、と感じた。