例によって、脊髄反射的に呟いたことを基に箇条書きでメモ。
- まず別冊付録。科目ごとの特性を示そうとしたレーダーチャートは、新入生には誤解を招きかねないと感じた。それぞれの法律が役に立つ側面は様々で、状況次第で有用さには差異があるので、一概に評価しづらいはずで、科目間の相互比較を真面目にするなら、本来は第三者たる編集者が何らかの調整をするべきと考えるけど、そういうことがあまりされていないようで、この辺りは編集部がもっと考えたうえで載せるべきだったと思う*1。
医事法については、昨今の感染症禍では、注目を集めた分野ではあるものの、広大さと医療の専門性ゆえにとっかかりがもちにくいところを、著者自身がこの道を選んだ経緯を示しつつ、若い読者にとっかかりを持ってもらえるよう配慮が尽くされていて、別冊の趣旨に即するものと感じました(汗)。
消費者法については、その重要性を説いているあたりは、従前某ろじゃあ師匠が説いていたことを思い出した(そういえば判例百選が積読山の中に(汗))。
環境法については、意識高い感じでまとめられていたけど、企業法務でもメーカーの場合は、製造拠点の操業との関係やM&A・リストラなどの場面では、意識しないといけない法分野であるので、そのあたりも触れてもらえると良かったのではないかと感じた。
租税法については、公共政策学としての側面についての指摘が興味深かった。なお、僕の経験からいえば、企業では、税務は、法務が関わることはほとんどないという印象であることは付言しておく。
地方自治法は、最近の動きの紹介は興味深いものの、これまでのところ、接点がない分野で、今後接点がでるかどうか不明というところなので、へー、と言いながら読む。
情報法は、色々な意味で今、旬の分野だよなと実感。某アプリについての評価については、やや驚いたが。
支払決済法は、手形法小切手法をきちんとやらないままここまで来たので、気にはなるのだが…というところ。
倒産法は、まあ、確かにそうだよなあ、というところ。穏当な内容という印象。
刑事政策・少年法は、「家栽の人」というところが何とも懐かしい感じがした(といいつつ通して読んだ記憶はないのだが)。
労働法・社会保障法は、確かに指摘されているように、今回の感染症禍で、注目を集めた分野の一つということが言えるよなと納得。
知的財産法は、著作権法と特許権法以外も相応の分量で取り上げてほしかった気もした。横断的な知的財産法の例としてファッションローへの言及があるのは良いと思った。
経済法(この言い方をしている時点で司法試験・予備試験を意識しているというべきか)については、実務や仕事につながる度合いが低く評価されているのにはやや違和感を覚えたが、こちらの立ち位置のせいかもしれない。
国際法は、地方自治法と同様に縁遠い感じで、さよか、という感じで読む。
国際私法は、国際法よりはまだ取り付く島があるような気がする...けど実際には契約だと準拠法の合意がないことはないし、不法行為とかで問題になった事例に接したことがないなと思いつつ読む。
基礎法は興味はあるけど、頑張って勉強する気力と能力に欠ける(汗)。 - 特集。法学教室の4月号恒例というべきか。
緑先生の原稿は、諸科学の結節点、社会への実装手段としての法学、という表現が個人的には印象に残った。言われてみれば確かにそういう側面があるわけで。
平野先生のものは、緑先生のものに比べて大学一年生とかに読んでもらうには厳しい気がしたけど、実際はどうだろうか。
どうやって法学を学ぶか、というところは、上三法?の特徴だけでいいのかという点はやや疑問。カリキュラム上一年生は上三法のみしか初年度に接しないということなのだろうか。個人的には、憲法のところで、憲法には贖罪的要素が含まれているという指摘には、なるほど、と思う。
大林先生のものでは、法学のレポートって面倒だな、むしろ一発勝負の試験の方が楽なのではないかという気がした(知らんけど)。 - 新連載の、未来志向で学ぶ外国法。アメリカ社会での懲罰的損害賠償やキタム(こう片仮名で書かれると正直ピンとこないのだが)訴訟の位置づけについての解説が個人的には興味深かった。
- 法学教室プレイバックは商法分野。紹介2名で各人が3つ紹介、内1つは自分の分野以外の記事、という形式が固定化。小塚先生が、デジタル化で長期連載しても学生はバックナンバーにアクセス可能だから、長期連載で掘り下げたものを、との指摘は理解はするが、そういう学生以外の読者の存在(こちらもそこに含まれる)も無視しないでほしいと感じた。
- 時の問題の一つ目は国会の会期などの解説。憲法の短答式との関係ではこのあたりもフォローする必要があるところ。臨時会召集要求に応じない政権への制裁は端的に内閣総辞職みなし規定の導入ではないかと感じる。
もう一つは、放射性廃棄物の扱いについての話(ざっくりしすぎ)。地方自治体における意思形成の難しさを感じた。原発を作ってしまった以上、この種の施設は必要になるということも考えると事態は深刻な気がする。 - 判例クローズアップは、役員選任決議取消訴訟における訴えの利益についてのもの。瑕疵連鎖説の適用範囲は、瑕疵の治癒の方法を考えると狭いのではないかという趣旨の指摘には納得。また、物理的な全員出席総会での決議というだけでは瑕疵が遮断されない可能性があるとの指摘は、なるほどと思った。
- 巻頭言。刑事学を履修したことがないが、法務省の犯罪白書のサイトの特集のところを見てみると、確かに図表などを用いて読みやすさを追求する姿勢は見られる(それが奏功しているかはさておき)と感じた。
- 法学のアントレ。学者の先生が言いそうなことの一つではあるけどなあ…(汗)。
- 講座。行政法は、特別定額給付金ってそういえばどういう法律の根拠に基づくか調べてもよくわからず、なんだこれと思ったのを思い出した。侵害行政でないのは確かだろうから法律の留保原則に反しないのはそりゃまあそうだろうと。
TL上で評価する呟きに接した水野先生の、日本家族法を考える。確かに読みごたえと、原稿の背後の先生個人の存在感を感じた。戦前の家族法を、家族法の究極の私事化と評しているのは納得。個人的には、演習でお世話になった先生の著書が適切な箇所で引かれているのがなんとなく嬉しい。
刑法総論の基礎にあるもの、は、実行行為と因果関係。司法試験合格までのところで、理論面は完全に捨てていた(基本書は基本刑法だった)ので、「危険の現実化説」などという「理論」「学説」は実は存在しない、と言われて、眩暈がする(汗)。もっとも、これは、理論の話に深入りすると戻ってこれなくなると考えてその辺は無視する形を取ったためなので、理論についての解説についてはそういう反応になるのはやむを得ないのだろう(汗)。
憲法は24条の話で、同性婚についての記載は、同性婚否定を14条違反とは言いにくいとしていて、先日の某地裁判決のことを想起しつつ読むと興味深い。
会社法は、吸収説の見直しの議論が面白かった。確かに吸収説は会社法の条文上に根拠があるわけではないので、指摘されているような見直しをしてもおかしくはない。
民訴は既判力の総論と時間的な範囲について。議論は興味深く読んだ。しかしながら、何度でも言うが、「知的好奇心を刺激する」かどうかは読者が判断することで、著者が言うことではない。何度読んでもこの点は押し付けがましく感じる。
刑訴は違法収集証拠排除法則の要件と考慮事情についての説明は、説明は色々なされるものの、今一つ判然としない印象が残る。考え方が色々あることの反映である以上仕方がないのだろう。 - 演習憲法。職務質問への対応というのは、刑訴めいてはいるが、新入生向けという意味では適切な題材と感じる。
行政法も自動車検問で、これまた刑訴めいている。法律による行政の原理の話だから行政法の問題ではあるのだが。警職法2条1項の話はいつ読んでも微妙な気がする。
民法は公序良俗違反の問題。民法90条91条二元論と90条一元論の話は、後者の判断基準が解説からは見えづらい感じがした。
商法は設問2の取締役会設置会社における株主総会の決定権限の拡張の議論が面白かった。個人的には362条2項の趣旨を貫徹する意味では総会に業務執行権を与えるべきではないと考えるが…。
民訴は審判権の限界に関するもの。団体内部の争いについての訴えを却下することの弊害の指摘や、主張立証プロセスを保障することの重要性の指摘は、興味深かった。
刑法は窃盗罪及びその周辺の罪を題材に刑法の問題への対応の仕方を説いていて、4月号にふさわしい内容になっていると感じた。
刑訴も、行政警察活動と捜査、強制と任意の区別、などで、定番の内容という印象。 - 判例セレクト。憲法のあん摩マッサージ指圧師養成施設の件は、指摘のあった規制手段の必要性・合理性の精査の余地がある旨の指摘については、納得。
行政法は大飯原発の件だけど、記事しか読んでいないが、記事を読む限り行政の判断過程における検討経過の残し方の稚拙さゆえに今回の判断に至った部分もあるのではないかと感じた。
民法は、同一の当事者間に数個の元本債務があるのに債務者が弁済充当の対象を指定しないときには、債務者は数個の債務の存在を認識しているのが通常という判旨のようだけど、ホントにそこまで言い切れるかは、疑問。もちろん例外の考慮の余地はあるので、そのあたりで事案に応じた対応は可能なのだろうけど。
もう片方の民法の件は、968条1項の趣旨からすればそうなるだろうなという程度の感想しかない(汗)。
商法の件は、問題の通報の内容次第という気が...(汗)。
民訴の件は、事案からすればそういう判旨になるんだろうと思いつつも、三面訴訟の難しさが示されているような気がした(月並)。
刑法。改札のシステムを踏まえた分析は、流石和田先生。
刑訴。弁論終結後の予備的訴因変更請求の許可の件。三者協議のうえでの話のようだけど、協議の中でBがどういう反応だったのか記事だけからはわからないので何とも…という気がした。
*1:一例として医事法についていえば、消費者法的な観点からは既にTL上で指摘のあったとおり、自身が医療を受けたときなどには有用なうえ、それ以外でも医療法人の仕事をしたら仕事直結だし...。