法学教室 2024年 01 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言は民法533条括弧書の暫定的な法律関係規律機能の説明が分かり易くて良かった。
  • 徒刑の意味する内容を今まで知らなかったので驚いた。単なる懲役との違いは大きい。
  • 特集。国際条約は世界を規律するか?
    最初の森先生の記事は、他の記事の位置づけの紹介が分かり易い。
    BBNJ協定については、そもそもそういう協定が議論されていることすら知らなかった。地道に段階を踏んで合意を形成していこうとしているのが分かる内容だった。
    ハーグ子奪取条約については、名前は聞くけど内容や運用状況は知らなかった。「おわりに」の指摘は重要だけど、一旦子を常居所地に戻した後争い続けるのは結構大変ではないかと思うので、子にまつわる紛争で想定されているような争い方が十全にできる事例は限られているのではないかと感じる。
    WHO憲章については、WHOの名前には接するものの、成立の経緯や機能の仕方とかは全く知らなかった。強い規範設定権限がありながらも、実際にはそれを使うことがないというのは興味深く感じた。
    ジェノサイド条約も内容を知らなかった。原告適格の考え方が興味深く、先般南アがイスラエルの行為をICJに訴えた理屈が腑に落ちた感がある。
    サイバー犯罪条約も内容は知らなかった。越境リモートアクセスに関しては、必要なのだろうが、問題も多そうなので、どのように規律するのかが難しい気がした。
    特集は普段縁遠い分野(今は一時的に某飛行機事故の件でやや身近に感じなくもないが)についてのもので、普段目にしない話が多く、個人的には興味深く感じた。
  • 時の問題。
    LGBTをめぐる近時の裁判例については、ジェンダーアイデンティティに関わる法的利益を認めることへの最高裁の消極的姿勢の指摘は理解できるけど、社会的な受容の進展を見ているのであれば、最高裁をせめる話ではないような気がする。
    内政干渉の件(詳細略)は、人権との緊張関係やその概念の変化が興味深かった。
  • 講座。
    憲法は、同性婚のあたり。13条と24条、14条の関係の整理が難しい。同性婚を認めるよう求めるなら14条の議論の方がまだ通しやすいのではないかと感じた。
    行政法は行政契約。契約による立法の問題として民主制的正統性の視点から疑問が出ているというドイツの議論(内容は理解できるとは思えないが)の視点が興味深く感じた。
    民法は被害者側の過失。あまり考えたことがなかったが、確かに異なるものが一緒くたにされていたのは否めないし、そういう整理の仕方はしないほうがいいのだろう。
    民訴は一部請求後の残部請求、相殺の抗弁。普段訴訟をしていないので、そういう話あったよねというレベルで忘れているのもやむを得ないのだろう。相殺の抗弁と二重起訴禁止の類推適用のところはややこしく感じた。
    刑法は危険運転致死傷罪の幇助犯。幇助犯を認めるには慎重である必要はあるだろうとは思うけど、行為規範としての明快さも必要なのではないかとも感じる。
  • 演習。
    憲法。設問を見ると、あの件がネタになってるとはさすがに気づく。実例への言及はそれとの差異の説明があるのは良さげ。政党の在り方と現実との乖離についての指摘には納得。
    行政法。勧告の処分性と非申請型義務付け訴訟における法律上の利益のあたり。設問で出ている固定資産税の課税標準の特例の使い方が見た時に思いつかず焦る(謎
    民法。未成年の加害行為についての責任など。労働能力の一部喪失による損害は事故時に一定の内容のものとして発生し、事故後の事由によってその内容に消長をきたさない、というのを法的擬制にすぎないとしか書いてなくて、だから何?と思う。
    商法。会社法206条の2周りの話。同条4項ただし書該当性について、経営判断原則の対象にならないというのは、まあそうなんだろうなと思う。
    民訴。訴訟承継周りの話。参加承継の原因となる事実の不存在の時の処理は、考えたことがなかったが(汗)、なるほどと思う。
    刑法。文書偽造について。冒頭の「謎の国際運転免許証」問題の解説は興味深い。模擬裁判でのやり取りは素材となった国際運転免許証の事件における偽造の意義の説明のしにくさをうまく示しているのではないかと感じた。
    刑訴。PSと供述不能。訴訟法上の事実の証明に関する話を綺麗に忘れていたことに気づく(汗)。
    刑事政策。冒頭に刑事政策という分野の説明があり、政策学と解釈学の違いがあるのが重要と感じた。
  • 判例セレクト。
    憲法の同性パートナーの被扶養者性と平等原則は、過渡期の判断であと数年たったら判断も変わるのではないかと感じた。
    行政法憲法53条後段による臨時会召集に関する行政訴訟・国家賠償は、即時確定の利益がないという判断には違和感が残る。
    裁定的関与における裁決の拘束力と当該裁決を前提とするう関与の取消事由は、原判決で考慮された諸要素が最高裁で考慮されていないという指摘が興味深い。その理由が気になるところ。
    商法の株主の破産と新株発行無効の訴えの当事者適格は、そうなるんだろうな、と思って読む。
    民訴の破産管財人による債務の承認とその職務遂行の範囲は、解説最後の、承認が破産管財人の商務遂行の範囲に属する行為であることを一般的に認めるものではない、との記載が印象的。となると、どこまでが含まれるのかが気になる。
    刑法の解離性同一性障害責任能力判断は、解説の最後で示されている判旨で不明確な点の指摘に納得。紹介されている判旨を読んでいて、疑問に思った点だった。
    刑訴の控訴審における事実誤認の審査は、控訴審が第1審の判決を事実誤認と指摘する際のハードルを上げることになるのだろうけど、不十分な指摘をされても判断をもらった側が困るだろうから、悪い話ではないのだろうと思う。