月刊法学教室 2021年 06 月号

例によって感想を呟いたことを基に、順不同でメモ。

  • 巻頭言は現下の状況に鑑みると味わい深いものを感じる(と他人事のように言っていて良いのかは疑問があるが)。主権者としてやるべきことをしてこなかったからこそこの体たらくなのではないかと感じずにはおられない。

  • 法学のアントレは、体のいい気休めとしか感じなかった...(汗)。

  • ドイツ法の話は、キリスト教的な伝統に基づく規定の理解の仕方についての、人種の多様化に伴う現代的な変容が興味深い。

  • 法学教室プレイバックは、司法試験でいうところの必修科目分野から選択科目分野へ。各分野2名だったが、各分野名で2分野まとめて掲載。今回は知財国際法(国際公法)。前者については、まだ取り付く島があった気がするが後者については、まったく分からないという感じ(汗)。

  • 特集1。橋爪先生の趣旨説明は納得というところか。
    「やむを得ずにした行為。用語の差異とか細かい考え方の説明が興味深いが、こちらが刑事を普段扱わないこともあり、議論の実益が実感できるところまでは至らなかった。
    「罪を犯す意思」。故意をめぐる論点の概観というところなのだろうか。整理された内容が順を追って解説されている感じで読みやすかった。
    「暴行又は脅迫」。暴行罪と脅迫罪以外における要素としての「暴行」又は「脅迫」について、あまりきちんと考えてこなかった(駄目)ので、なるほどと思いながら読んだ。
    「遺棄」。「遺棄」の意義自体は受験生時代に疑問に思ったのを覚えている。過去問で保護責任者遺棄の問題あったし。受験戦略としては、同じ文言で条文ごとに異なる解釈をするのは気持ちが悪い気がしたので今回の記事でいうD説のような立ち位置を考えていた。今回の解説は各説の説明が分かりやすかった上に、「発展的な問題」については、これまで意識したこともない(汗)内容だったので、なるほど、と頷きながら読んだ。
    「占有」。こちらもポシェット事件が印象的だったこともあり記憶にある内容が多かったが、「死者の占有」についてのS41最判批判は、批判の内容が妥当なのか、疑問が残った(が、批判の内容を検討できる能力はないのだが)。
    「電磁的記録」。この辺りは受験生時代にサボったところなので、興味深く読んだ。
    特集1は、最初の文章は相性が悪くて読みづらく感じたものの、総じて、特集の趣旨に応じて、条文解釈の重要性を示していたように感じた。

     

  • 住民投票の記事は、運用実績が興味深かった。投票に至った実例は少ないとしても、制度として存在していることが執行側に緊張感を与えるという指摘には一応納得(そうであってほしいという願望込みだけど)。

  • スポーツと法の特別座談会。一国単位の行政法の外挿としてのグローバル行政法というものを認識していなかったので、そのあたりは興味深かった。スポーツを通じての行政法憲法の対話という感じだったのも読んでいて面白かった。

  • 特集2。
    工藤先生の文章は、特集の趣旨説明と、「書かれたもの」の憲法学における疑い方を上手く示しているという印象。学説について八月革命説への疑念の向け方が興味深かった。
    田高先生の文章は、複数の学説の比較検討の仕方が丁寧なうえ、題材となった種類物売買における危険の移転についての解説も分かりやすくて良かった(言及のあった本誌3月号の記事のことがすっかり頭から抜け落ちているのは、よくないが(涙))。
    小名木先生の文章は、ゼミでの議論のやり方、そこに向けた準備の仕方が具体的で、大学のゼミに参加しようという人には有用なのではないか。学部のゼミ(演習)は法学系ではなかったので自信はないが。
    本特集は、学部2年生とか向けということと思うし、具体的な方法論を段階を踏んで書いているという意味では、こうした読者には有用(実践できるかは別として)だったのではなかろうか。

  • 講座。
    憲法は、とりあえずこちらが、何か基本的なところが理解できていないのではないかと感じたが、何が分かってないのかが分からなかった。保護領域論がどういうときに使われる議論なのか、定義付け衡量論がどういうときに使われる議論なのか、良くわからない気がした。
    行政法。行政基準という言葉を初めて目にしたような(汗)。白紙委任の禁止というわりに、最高裁がこの争点について謙抑的という記載を見て、先般、国会会期末のどさくさで成立した某法令で白紙委任めいたところがあったのは、国民と裁判所の双方を舐めた所業だったのではないかと感じた。
    民法家族法)。自分事としている感じが印象的だし、中川善之助と我妻栄の比較論は興味深い。ただ、身分行為論の評価については、ある種ポジショントークめいた感じもして、内容の当否を判断できないので何とも、というところ。
    会社法。瑕疵連鎖の問題の整理は、令和2年最判における、S45最判、H2最判、H11最判の関係の整理も含めて、個人的には納得するところ。
    民訴。例によって「知的好奇心を刺激する」というのは読者が判断すべきで書き手が言うべきではないということは主張しておく。既判力の主体的範囲の話で、丹念に説明していて、個人的には面白かったけど。
    刑法。錯誤論で具体的符合説を熱く語っておられるのだけど、判例が具体的符合説を取らないとされる理由についての説明及びそこに対する反論が見受けられなかった(と認識した)ので、だから何だ、という以上の感想がない。「寝ている学生、話を聞こうとしない学生に刑法をわかってもらうのはどんなに工夫しても無理だ」とあるが、学生が寝るような講義、学生に、話を聞く気をなくすような講義をしていないかという反省はないのか、と聞きたくなった。
    刑訴。派生証拠の証拠能力についての丹念な解説。違法捜査抑制の観点については、明示的に語られているけど、その反面何があるか、については、当たり前すぎるからか、明示的には言及されていないが、一言でも触れておいた方が良かったのではなかろうか。

  • 演習。
    憲法は、題材となっている事実が、この状況下では、如何にもありそうな話に見えてしまうのが良いのか悪いのか。敵意ある聴衆の法理について、良く知らなかったので、その点の解説は興味深かった。
    行政法。解釈基準の論じ方が分かりやすくて良かった。ただ、基準自体に基づくあてはめが正当化される理由についての言及があるとさらに良かったのではなかろうか。
    民法。通行地役権と177条の関係とかきれいに忘れていた。そもそも司法試験以外で通行地役権とか見たことがないから仕方ないのかもしれないが。
    商法。大河ドラマ風(謎)の演習。他の科目に比して事情説明が長い。総会決議の瑕疵についての検討のうち、個人的には裁量棄却についての部分は、受験生のときには見落としがちなところだったので、あらためて納得。
    民訴。抽象的差し止めに関する諸問題を扱う回。執行手続きとの関係の解説が興味深い。執行手続きは司法試験の範囲外なので、受験生時代は、一旦脇に置いていたが、指摘にあるように、見ておいた方が訴訟自体の理解が深まるのは確かだと思う。
    刑法。「危険の現実化説」の扱い方、というところか。危険の現実化というのは説というよりも「類型化された判断基準」というのはまあ、納得。
    刑訴。データの包括的差し押さえ関連の話。リモートアクセスの限界の話とか、海外サーバのデータへのリモートアクセスの話とかは知らなかったので(汗)、なるほどと思いながら読んだ。

  • 判例セレクト。
    憲法。国籍法11条1項の合憲性の件は、重国籍が広がるところで、現状がどこまで維持できるか、という指摘には納得。重国籍を問題視するのであれば、重国籍の問題点を国が説明する必要があるだろうと思った。
    憲法、裁判上の離婚に伴う親権者指定の合憲性、については、親権の理解の仕方が難しいと感じた。
    行政法辺野古サンゴ礁訴訟高裁判決。規定からすればそうなるんだろうなと。
    民法。父母以外の第三者による面会交流等の申し立ての件。最高裁が形式的文理解釈を明示したのは、本件は立法で解決すべきということなのだろうか。
    商法。会社法106条の解釈論としては判示のとおりになるとしても、この紛争は、今後どうなるんだろうと気になった。
    刑法。死体遺棄罪の成否で、この事件の事案からすれば死体遺棄罪の成立を認めるべきではない理由の解説に納得。
    刑訴。内視鏡による嚥下物の強制採取という表題を見ただけで被処分者にとっては苦痛だろうなと思ったが、事実のところを見てもかなりつらそうな感じで、この侵襲加減の疎明が不十分として令状発付を違法と判断した点は納得。