法学教室2020年9月号

定例のメモ。

 

  • まずは、後ろからということで、判例セレクト。刑訴。行政事件訴訟と刑訴の振り分けという議論があること自体知らなかった(汗)。訴えの内容への対応については、そりゃそういうだろうなという気がしたが…。刑法は表題からして「鉄」な事案だから、和田先生が書くのかなと思ったら、ホントに和田先生が書いていた(笑)。問題の罪を成立させるための構成についての検討は、なるほど、というところ(特に3つ目が)。商法は、得津先生が書かれている裁判例の方は、主張と判断とで議論がずれているという指摘が気になった。そういう事態が生じないよう、当事者側で裁判所の理解を確認するしかないのだろうが、それにも限度があるということなのだろうか…。田澤先生が書かれている方は、グループ会社に対して親会社取締役が負う責任の範囲としてはそうだろうなという印象。グループ会社と言っても独立の法人なんだから、親会社取締役に負担させられる責任には限度があって当然という気がする。行政法は、個人的には、本件については、事案とか担当弁護士につい目が奪われてしまったが、判決の意義を説く解説の内容に納得。憲法については、違憲状態という判断はわかるものの、その後の処理には違和感が…。
  • 演習。刑訴は無令状捜索・差し押さえの許容範囲について、取る説によって同じ事案について結果に差異が生じることが良くわかる形で、設例が良くできていると感じた。刑法は、不作為犯の復習になったけど、正犯と幇助の区別のところは、何だか釈然としなかったが、こちらの不勉強故のことと思われる(既に受験時代の知識は抜けつつあるし)。民訴は、裁判上の自白の話。これも、こういうのあったなあという程度のことしか感じないが、内容的にはすっかり忘れていることに焦る。商法は、問1はBが株主でないという前提が要るのではないかと思うのだが、そこが書いていないので何だかすっきりしない。民法は、錯誤の分類が丁寧な気がする。行政法は、空港の騒音問題は、騒音自体が瑕疵というのも違和感があるから、国賠よりは損失補償で対応する方が適切なのではないかという気がしたがどうなんだろう(よくわからない)。憲法は、薬事法事件とH25判決をベースに考えるんだろうけど事案の特殊性も考えないといけない形になっていて、面白い(解けといわれても解けない気がする)。
  • 講座。刑訴は休載。時々しか書かないけど書くときはむやみに長い(でも一回では完結しない)というのは、それでいいのかという気がした。刑法は、詐欺と窃盗の区別とかの話で、個人的には、詐欺における交付行為に関する解説がわかりやすかった。民訴は、任意的訴訟担当に関する最後の事例については、弁護士法上の問題があるような気がしたが(真偽は確認していないのでよくわからないところがあるが…)、どうなんだろう*1会社法は、利益相反取引の解説が丁寧でわかりやすかった。司法試験の勉強の最初の頃に直接取引か間接取引かの区別で悩んだことを思い出した。民法は、債権法改正後の消滅時効の考え方について丁寧に解説されている。色々な場合を想定すると、改正後についても、なお見解の分かれている部分が残っているという点は、興味深い(あれだけ検討してもなお、という意味で)。行政法は、無効等確認訴訟・不作為の違法確認訴訟・義務付け訴訟についてさらっと。行間も詰まってなくて老眼に優しい誌面。コラム2つが興味深かった。憲法違憲審査後の立法府の対応について対話型理論に基づき解説。個人的にはあまり審査後のところに関心がなかったので新鮮な印象。
  • オリパラの連載は最終回。国際スポーツ団体の不正の話だが、UKBAとかFCPAとかマネーロンダリング等の話が出てくるのが如何にもという気がした。
  • 国会主要成立法律の記事は、内閣提出法律案の減少の理由についての指摘が興味深い。立法措置を伴わない予算措置での対応が増えたからというが、法律に基づく行政じゃないのかという疑義が*2
  • 特集。民訴の通常の手続きについての理解を深めるというところか。実務に出れば、一番通常の部分については、当たり前になるけど、早いうちに当たり前のところを抑えることの重要性は確かにあると思う。送達のところは、個人的には、まだ交付送達(特別送達によるもの)以外を経験していないので何とも…という感じ。期日における当事者の欠席はそうだよな(圓道先生の本に書いてったっけ)と思いつつも、公示送達した後の扱いが抜けているような気が。公示送達自体が例外処理だから別にいいのだろうが。争点及び証拠の整理手続も、ええまあそうですね、という感じ。書面による準備手続きが活用されるようになっている昨今の状況が触れられているのは良いことなのだろう*3。自由心証主義の記事は、歴史的沿革やその埒外にある者についての説明が興味深かった。書証についての記事は、穏当なまとめなんだろう、きっと。和解についての記事は、裁判所が判決を書くのが大変だから和解を当事者に勧めている節があるというあたりが出てこないので、何だか微妙な印象が払拭できない感じ。
  • 法学のアントレは、専攻分野に対する弱腰?ぶりが何だかほほえましく思えた。法思想史も面白そうではあるのだが、なかなか手が回らない…。
  • 巻頭言は、効果の検証は、しないよりはしたほうがいいのだろうけど、効果として検証できる限界とか、検証可能な方策しかなされなくなるのではないかとか、それ相応に疑問の余地があるのではないかというきがしないでもない。

*1:無視されている感があるのは、元Jの研究者の著者であればやむを得ないのかもしれない

*2:この辺りは現政権(まだ辞任してない)のやり方のよろしくない点の一つだろう

*3:寧ろ、このご時勢で触れられてないと流石にどうかと思う