法学教室2020年12月号

いつもより時間がかかったけど、読んだ感想を呟いたことを基に箇条書きでメモ。偉そうなエントリを書いた手前、できあがって何より(汗)。

 今回はいつも?と異なり、前から読んだのだった…。

  • 最初の記事が話題となった特集から。特集1については、とりあえずエラそう。条文の既定ぶりについての注釈が存在したりするあたりとかからすれば、極力わかりやすく解説をしようとはご本人は思っておられるのだろう。とはいえ、既に批判の出ている保釈の拒否の検討に際しての再犯のおそれの扱い方とか、罪証隠滅のおそれの考え方とかは、条文の文言からは乖離しているようにも見える反面そのような考え方を取る根拠の提示がよくわからないので、謎が残り、元裁判官のご本人のこれまでの経験が根拠という以上はわからなかった。今授業をされている大学*1でのシラバスも話題になっていたが、市販の本は読むなというのはある意味で「洗脳」に近いよなとも思ったりした。
    公判前整理手続きの記事は、J/P/Bそれぞれからどう見えるのか、という整理が興味深い。僕自身はこれまであまり意識したことがなかったので。
    刑事免責の記事は、最初の適用事例からして、使い方の難しさを物語っている気がした。結局は当事者に対する誘因の管理の仕方ということになるのだろうけど。
    概括的認定・択一的認定のところは、利益原則も考えると、無罪説が良いのではないかという気がした。残りの2説は結局結果から逆算してつじつまあわせをしている印象が残る。
    量刑と余罪のところは、問題意識は理解できた気がするものの、結局どこまで「余罪」を考慮できるのか、分かりづらと感じたけど、検討過程の手続的な透明性が重要と感じた。
    裁判の効力のところは、民訴の既判力みたいなものを感じたけど、あそこまで受験レベルで議論にならなかった(と理解している)のは何か理由があるのだろうか。
  • 法学のアントレは、「前のめり」になること、の意味とその重要性の説明がわかりやすい。橋爪先生の雑感は、野球の話から、オンライン授業の話へのつなぎ方が素晴らしい(謎)。

  • 自治体現場の話は興味深いが、片仮名用語をそのまま法文に入れたのは良し悪しだったのかもしれない。日本語らしい表現を考える中で理解を深めるという可能性があったのではないかと感じたので。

  • ゼミの特集は、学生側または卒業生からのインプットもあると良かったのではないかと思ったのと、東大法学部はカリキュラム面で独特なので*2、ゼミの効用とかを論じるなかで、他と同列に論じようとするのは難しい面があるような気がした。まあ、僕は法学系のゼミはとらなかったからわからんけど*3。 

  • 法学教室プレイバックは、行政法と言いつつそれ以外の分野の記事が消化されているのが面白い。
  • 時の問題は、既に忘れかけていたモーリシャスの事故の法的な責任の整理の仕方が興味深かった。自分で積極的に調べる気力が湧く話ではないので(汗)、こういう形で読めるのはありがたい。
  • 講座。憲法は、安念先生のパラドックスは、言われてみると納得というところだろうか。それよりも日比野先生の名前が出てきたのに驚く。あの先生って何をしてるんだろうと思っていたので(授業にも出なかったのにこういうことを言うと問題だが)。
    行政法は国家賠償の話。個人的には諸外国の沿革のところが興味深かった。英米法で認められるのが比較的遅かったというのはなんでなんだろう。
    民法は寄託などが内容。混合寄託とか出てくるとつい山菜おこわとか思い出すのはお約束(謎)。無償かつ書面に寄らない寄託で目的物引き渡し前の受寄者の契約解除について受寄者の損害賠償義務がないけど、委任では認めるわけで、両方とも当事者間に特別な信頼関係があるときに実施されるように思うので、差異を設ける理由があるのかよくわからん気がした(汗)。
    会社法は、新株発行無効と不存在と、要件・効果における差異が十分理解できていなかった感があるけど、説明で理解できた。割をくった人間をどう救済するのか、というところから考えると分かりやすいということなんだろう。
    民訴は相変わらず押し付けがましさを感じるというのはさておき、審理の諸原則の話と訴訟行為の話と口頭弁論の手続きとか取り上げられているものの、相互のつながりがみえづらくバラバラしているという印象。やむを得ないのだろうけど。裁判手続のIT化の話が取ってつけたように出るのもどうかと*4
    刑法は文書偽造と詐欺の財産上の損害についての解説が丁寧。
    刑訴は、科学的証拠についての議論は、アメリカの議論(それ自体は説得力を感じるが)をその他の規定との整合性をどうつけるかという話だったのか。なるほど。
  • 演習。憲法は、40条の話で、考えたこともなかったので新鮮(汗)。被疑者扱いされたことにより生じる事実上の不利益とかまで考えると40条については、実質説の方がよさそうに感じるけどそうでないのは何故なのかよくわからなかった。
    行政法は事例を読んで某特殊浴場事件を思い出した。行政権の濫用の議論も出てくるのは納得。
    民法は、例によって丁寧でよいと思ったけど、授権について言及するなら、債権法改正でも検討されたものの取り入れられなかった理由についても、言及があった方が良かったのではなかろうか。
    会社法は、106条の話で、権利行使者の指定などを欠くときの総会の瑕疵を争う方法の中での信義則の扱い方と監督是正権を106条の株主の権利に含めない考え方の説明が興味深かった。後者は説明が苦しいと思ったけど、最後のところの説明からすれば、そういう考え方にも一理あるなと納得。
    民訴は、既判力の承継人への拡張の話。口頭弁論終結後の承継人の議論は、諸説あるものの、どれも決め手に欠ける印象(僭越)。
    刑法は、集合住宅の共用部分が住居か邸宅か建造物かという区別は、どこまで意味がある区別なのか、疑問に思った。
    刑訴は、接見内容の聴取の適否の問題は考えたことがなかった(汗)けど、解説を読むと納得。
  • 判例の動き」は、学習の観点からのまとめではあるものの、手短で便利。受験の時も重判まで追えなかったので、こちらを見ていたし。
    憲法については、夫婦同氏制の合憲性について、最高裁判決が訴訟提起を諦めさせる力をもっていない点に着目しているのが、個人的には印象的だった。
    行政法については、刑事系かと思った件が出ていて、改めて守備範囲の広さを実感する。
    民法では、地面師グループ事件の最高裁判決は読もうと思って忘れていたのを思い出した(汗)。
    商法では、代取判断で総会の場所を変えた件が、やはり印象的だった。難しい判断の末だったのだろうという気もするので。
    民訴は公示送達無効で再審事由になるというのが印象的。送達は最後まで争えるから、注意が必要と言われたことを思い出した。
    刑法は、特殊詐欺事件における窃盗罪の実行の着手についての判断が、今読むと印象的。共犯者が待機行為することで実行の着手というのは…。
    刑訴は、今読むと録音録画の実質的証拠利用の件が気になった。録音録画していないところがあった場合にどうなるのかとか気になるところ(録ってないところで色々やって、というのが某映画であったような)。
  • 判例セレクト憲法の一つ目はO口Jの最高裁判決。やはり表現の自由との関係は正面から判断すべきだったと思う。もう片方は在外国民の国民審査権行使制限の事件。違法判断は納得するけど…。
    行政法の建設アスベストの話は、まあそうだろうなと。労安法で保護を及ぼしていることとの整合性は求められるはずと思うので。
    商法の暗号資産の件は、その事実関係の下ではそうなるよなという感想しかない。免責規定の適用を受ける前提として不正取引防止義務を課すのは妥当なんだろう。
    民訴の件は、財産分与しない旨審判で決めた財産についての給付を命じることを認めたというのは、紛争の一回的解決という奴からすれば当然のようにも思えた。もっとも、手続き的な制約から射程の広い話ではないということの示唆もあることも留意が必要なのだろう。
    刑法は、窃盗の実行の着手の時期についてのものだけど、クロロホルム事件を前提にしているけど、特殊詐欺の事案の特殊性が広く認識されていることが前提にあるようにも見えた。
    刑訴は、高輪グリーンマンションの事件を想起させる事案だけど、被疑者の主観よりも客観的な状況に着目しているようなのでその分、個人的には、あの事件よりは納得しやすかった。

*1:法学部がないところ、というのが示唆に富む気がするが(汗)。

*2:いまもそうだろうけど、おそらく人数分ゼミがないはず

*3:とはいえ、参加した日本政治思想史の演習のメンバーで今でもあったりするというつながりはできているので、それだけでも有意義だったとは思っているが。そうそう、すっかり忘れていたが、演習に参加していたからこそ、LLMの時の推薦状を担当教授にお願いできたのだった(汗

*4:もっとも実務的に旬の話題であるとしても、長々語るべき話ではないのも事実なので、分量としてはこんなものなのかもしれない。