ジュリスト2021年8月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • まずは特集から。最初は座談会。今回の特集の対象となった改正は、法技術的な内容が多いようなので、座談会で改正の概要をある程度把握してから個別の議論に入るという発想の模様。中央官庁側の方々の座談会で、別々の法になっていたもののをどう統合するかについての大変さがうかがわれて興味深かった。現状把握、あるべき姿とのギャップの把握、差分の検討、差分の実行に伴い想定される弊害への対処というような手順を堅実に踏まれたことはわかる。ただ、中央官庁側の視点での話で、対応を強いられた都道府県側からどう見えたかはまた別の話であることには注意が必要と感じた。某デジタル省の大臣が不用意な答弁をしたようなので、そういう調子だと相当なごり押し(強いリーダーシップと紙一重)があったのではないかと推測もできるので、中央側の視点だけで考えるのは危険な気がした。
    實原論文は、用語の定義の統一という、形式的にも見えかねない部分について、当該行為に込められた意味(評価という部分も含め)を読み解こうとしているもの。なるほどと思いながら読んだ。統一できるものは統一した方が良いと思うのは確かだろう。
    湯浅論文は、もともとのカオスな状況をどう整理したかについての解説が興味深いけど、指摘のあるように、少なくとも移行期には混乱するだろう。それと、管理強化の部分については、管理すべき側に管理するだけのリソースがあるのか気になった。その手当てがないと、単に笊に終わる気がするのではないかと感じた。
    石井先生の論文は、個人情報保護委員会による公的部門の監督についての規定についての解説だけど、行政機関への命令権限とかはなくてよかったはやや疑問が残った。マイナンバー法にあって個人情報保護法にないという差異を扱う情報の性質の差だけに帰してよいのか疑問を覚えた。
    板垣先生の論文は、一連の改正における地方側の事情、特に心情的な部分への洞察が面白かった。座談会でこの辺についてなかったかのごとき扱いだったのが不満だったので。地方自治体の当事者の生の声を拾ってもらいたいところだが、エスタブリッシュメントのジュリストにそれを望むのは酷なのだろう。
    村上先生の論文は今回の改正が情報公開制度に及ぼす影響の分析というところか。個人情報概念を改正で変更した点の影響は生じそうな気もするが、必要性があって改正したので、この点は仕方ないという気がした。今回の改正の必要性に対して冷淡な印象を受けたけど、こちらの邪推だろうか。
    特集自体は、正直あまり興味関心のない分野の話だったが、制度をいじることの意味・効果・副作用というものを考えるという意味では興味深いものがあった(故BLJの読者としては地方自治体側の本音がないのは寂しかったが)。
  • 海外法律情報。タイの民商法改正による法定利率変更は、遅延損害金が法定利率より高いという点が興味深い。個人的にはそれもアリと感じる
    スウェーデンの外国婚姻についての規制改正は、多様性への要請の中で自国が重要と考える利益をどのように確保するかという点で今後推移を見守るべきものだろう。
  • 判例速報。
    会社法206条の2第4項の総会決議を欠く新株発行の効力の記事は、同項の解釈が難しい気がした。H26改正で入った文言のはずなので、解釈については、裁判例の蓄積を待たないといけないのだろう。
    団交応諾命令と労働委員会の裁量の事件は、水町先生の指摘に同意。記事で読む限り、高裁判決は、団体交渉制度の意義や不当労働行為制度趣旨を狭くとらえすぎていると思う。
    独禁法の記事は、評者が指摘している通り、合意内容(費用をどういう名目でどちら負担にするか)及び合意に至る経緯の残し方次第では避けられた紛争だったのかもしれないと感じた。取引業者数が多いところでそこまで逐一検討しきれるのかは疑義が残るが。
    知財の記事は、意匠権に基づく建物の製造販売等の差止め等が認められた事案。事案からすればそうなるだろうと思ったけど。物品性の争点についての判示は興味深い。もっとも今後は建築物の意匠が保護対象になったので、もっとストレートに保護されるのだろうけど。
    租税法の記事は、BEPSへの対応として設けられた制度そのものが興味深かった(小者感)。
  • 新・改正会社法セミナーは、総会周りの2回目。Vの招集通知と電子提供の始期の相違の影響は、結局理論的な整理よりも実務的な便宜が優先されたということなのだろう。それでよいのだろうとは思うけど。
    VIの書面交付請求権を放棄した株主への利益提供の可否は、提供行為が具体的な文脈の中でいかなる意味合いを持つか次第というところなのだろう。モリテックス事件のような見え透いたのは流石に駄目なんだろうけど。
    VII電子提供措置事項の修正は、ウェブ修正をどこまで認めるかの議論が興味深いけど、松井先生の整理は、実務を無理ゲーにしない範囲に収める形になっているように見えるのが好ましい。藤田先生のつかうベストエフォートという言葉は英語のbest effortの意味ではないよなとやや微妙な印象が残った。
    VIII(表題は長いので略)は、理論的に整理が難しそうなところを正味何が起こりそうかというところから整理しようという松井先生の試みが興味深かった。
    IXの株主招集の株主総会と電子提供措置のところは、書面による招集の場合とのバランスを考えると頷けるところか。
    Xのその他の株主総会プロセスの電子化のところは、実務で電子化がどう進展するかの話が興味深い。株主としての議決権行使は、配当とかにしか関心がなければ個人株主にとっては優先度が低い話なので、進まなくてもやむを得ないのではないかという気がした。
  • 時論。札幌地判R3.3.17の同性婚憲法の問題に関する判決の検討。判断手法についての批判?(不勉強なので、立法事実の審査手法それ自体に判例拘束性が生じるのかはわかっていないのだが)が興味深く感じた。
  • 時の判例
    一つ目の財産分与の事件は、離婚時の財産分与ということは、夫婦関係の財産面の清算なんだから、当事者の新たな出発のために必要な範囲は判断できるべきと思うので結論には納得。解説で、原審に差し戻した理由には言及が欲しかった。メインの話でとは無関係だから言及がないのだろうけど。
    二つ目の相殺の事件は、両債権の関係性から相殺を認めるべきと思うので、認める理屈付けが重要と考えるけど、弁論の分離に関する裁判所の裁量を制限的に考えるあたりが興味深かった。また、この判例の射程がどこまで広がり得るかの指摘も興味深かった。
    三つ目のタトゥーの事件は、解説を見ると、美容整形とかアートメイクに対する対応とかの整合性も考えれば、個人的には納得するところ。
  • 判例研究。
    経済法のものは、判旨に反対という評釈で、反対の理由も丁寧に説明してくれているので、評釈には納得。もっとも制度が変更されたこともあり、この判決の射程がどこまであるかはよく分からない気がした。
    自動車保険における弁特と労災の事件のものは、免責条項の記載の仕方からすれば判旨のように判断されても仕方ないのではないかと感じるけど、評釈で言われてるように、利用者にとっては使い勝手が悪すぎると思うから、評釈が述べている別の解釈論の方が結果としては妥当だったのではなかろうか。
    事業者間取引である消費貸借契約の(以下略)件は、判旨などで示されている事実からすればそういう判断になるだろうなという気が。消費者性を争うのには無理があったのではないか。
    一人会社における役員の善管注意義務の件は、そういう問題があること自体認識していなかったが、評釈での解説には納得。周囲の利害関係人との利益調整は指摘の方法でするしかないのだろう。
    里親委託措置解除の取消を求める里親の原告適格の件は、里親制度における当事者の法的性格を考えたことがなかったので、そこからして興味深いが、判旨に対する評者の批判も興味深い(が、それ以上のことはよく理解できていない(汗))。
    競業禁止の件は、事実から見ると確信犯的行動に見えるので、詐欺が認められても仕方ないとしても、評釈で指摘する判旨の疑問点は確かにあると感じた。元の競業禁止約そ自体も地理的制限なしというのもちょっとやりすぎという感じはするし。
    TL上で話題のロータリークラブ年会費の必要経費性の件は、強制加入でない以上は、難しいのではないかと感じるが、交際費扱いをした場合にどうなるかが気になった。個人的には、ロータリークラブは「お付き合い」で入るものであり、会費は交際費扱いの方が自然な気がするので。
    渉外判例の件は、国際私法の議論の仕方にこちらがなれていないために、何だか読むのがしんどい気がした。