法学教室2020年8月号

例によって、呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 判例セレクト。刑訴は、DV事案のようなので、個別の行為の証拠がつかみにくいから訴因特定とかもある程度概括的になるのはやむなしなんだろうと感じた。刑法は弁護人の議論が無理筋っぽく見えるけどきっと諸事情ゆえのことなんだろうなと想像してしまう*1。民訴法は民訴費用法なんて意識したことがなかったので、最高裁まで上がった事案があるのに驚く。宇賀少数意見はなるほどというところ。商法は、税務はわからんという月並みな感想しかない(汗。行政法は、地方自治法251条の5第1項自体知らなかったこととかもあってわかりづらかった。憲法の裁判例は、何だかざっくりした判断枠組みに見えて、やや驚く。 
  • 演習。刑訴は一罪一逮捕一勾留の原則からすれば、そうなるのだろう。でも、事案が何だか教室設例めいていて、実務で同じ事案だったら、本当に解説のとおりになるのかはちょっと疑問。刑法。特殊詐欺の事案で、一部しか関与していない人間についての故意をわりにあっさり認めてる印象(そういう最判もあるみたいだし)なんだけど、それでいいのかというのはやや疑問。民訴。債務不存在確認訴訟の話は、自認額の扱いとかはつじつま合わせのパズルめいているといつも感じる。商法。内部統制システム構築・運用義務と429条1項を組み合わせるとまあ、そうなるよね、と。民法。不合意(って言い方が何だか微妙だが)と錯誤の違いの説明が丁寧。行政法。国賠の話は二元説と一元説とかきれいに忘れていて驚く。憲法は設問がわかりづらくて何の議論をしているのか、理解しづらかった気がした。
  • 講座。刑訴は内容以前に、何号か前の号にある問題文と一緒に読まないとわかりづらいという作りが駄目な気がする。移動中に読む人間とかもいるんだから、単体で読めるようにしてほしいと思う。書き方の問題でもあるのかもしれないが編集者がそこは気を使ってほしいと思う。内容自体は、推認過程を丁寧に検討していて良いと思うけど、書きようでもうちょっと何とかならなかったのかとは思った次第。刑法。2項犯罪について、共通理解のあるところとそうでないところとを区別したうえで、事例問題への対処法の検討がなされているのがわかりやすく感じた。民訴は訴訟要件のうち、審判権の限界、訴えの利益についての解説。実体法上の請求権を特定できない確認の訴えの扱いについての指摘は個人的にも納得感のある内容だった。会社法は、競業取引による損害のところがで423条2項の事実への適用の仕方が難しいなという印象。民法は、代理周りの改正についての整理がわかりやすかった。改正があったということも見落としていた(汗)。行政法は、取消訴訟の審理と判決について。違法判断の基準時に関しての伊方原発訴訟での判示に関するコラムは何だか技巧的すぎる気がしないでもない。判断結果の妥当性から正当化されるのだろうけど。憲法の講座については、やっぱり憲法はよくわからんという印象に尽きる(汗)。
  • オリ・パラから考えるスポーツと法(略称)は、「スポーツと実定法の相互影響関係」が興味深い。「現実世界はしばしば我々の知識や想像力を凌駕し、実に多様である」というのを実感した。
  • 特集2。個々の記事も紙幅が足りない感じだったし、内容も広大な分野についてつまみ食いしているだけという感じがして何だか消化不良な気がする。雑誌の立ち位置上やむを得ない部分があるのだろうけれど。マリカー事件を素材にしている記事は、当該事件で触れられなかった著作権侵害の成否がメインになっているのは、何だか微妙。他の事件を素材にした方がよくなかった?という疑問が残った。ネット配信の記事は、所在不明権利者問題が日本法下ではどういう帰結になるのかがわかりづらい気がした。芸能人と芸名の記事はパブリシティ権と商標権の話しか取り上げていないけど競争法周りの話も取り上げてほしかったところ。紙幅が足りないから仕方ないんだろうけど。eスポーツの記事は、eスポーツという表現自体、そもそもスポーツになぞらえるのがどうなんだというところから引っ掛かる。分野として盛り上がるのは結構なことだけど。音楽教室の記事は、カラオケ法理の解説が興味深かった。
  • 特集1。旬の内容という感もあり、読みごたえがあった。特集2だって旬なのだが、どうも紙幅不足で物足りなさがあったのがそういうものはこちらには感じなかった。宍戸先生の序章は情報法の4領域の概観が興味深かった。こういう風に分けられることを知らなかったので。Iの安全とプライバシーの記事は、現下の状況下では緊結の課題という感もあり両者の調和の難しさが良くわかる気がした。IIは、公的部門のデータ保護と利活用の現状の鳥瞰としては有用なんだろうけど、現下の状況下での行政の状況を見ていると、何かを期待できる気がしない。IIIのデジタルジャーナリズムと放送についても、現状のマスコミの状態を見ていると多くを期待できる気はしないという印象。IVは通信制度に関する規制の要所について専門的すぎない簡潔な鳥瞰という感じでよかった。ちなみに上級准教授って何?という疑問は残ったが(謎)。Vは主題についての歴史的経緯も踏まえた概観がわかりやすかった。直近の自殺者が出た某話題に伴う話が出ていないのは編集のスケジュールとの兼ね合いではやむを得ないところなのだろう。VIは情報法の文脈での著作権法の位置づけについて、著作物の流通の保護だけでなく、他の情報に関する規制や自由の枠組みを考慮しつつ検討することの重要性を指摘しているのはすごく重要という気がした。VIIは、デジタルプラットフォームへの独禁法の適用の難しさが印象的。イノベーションとやらを抑圧しすぎない方法の模索が必要ということなのだろうが。VIIIはAIが民法での扱い方など、最後に抽象度のレベルが上がった議論があって、読んでいて面白かった。
  • 法学のアントレは、教科書を一人で読むというのは今でもしんどいので、特に一番最初に読むときには読みやすいものを選んでそれを読み通せると、自信になってよいと思う。
  • 巻頭言は、オンライン授業ならではの独特の「ライブ感」の指摘が興味深かった。

*1:解説では一定の推測はされているが