月刊法学教室 2023年 07 月号

例によって呟いたことを基に感想を箇条書きでメモ。

  • 巻頭言は、司法試験の出題の趣旨と採点実感についてのコメントは、そうかなあと思うところ。あれを読んで理解できるようになるのは合格近いところの受験生だけのような気がする。ある程度理解できるようになったのは、合格したときの試験直前のころだった。
  • 法学のアントレは英米法×判例がお題とのこと。英米法の判例・裁判例での脚注の多さは確かにいわれてみると、というところ。参照先の多様さに関して日本のビジネスコートへの示唆は興味深く感じる。「判例は事実上法源である」という表現の問題点の指摘もなるほどというところ。
  • 学校をホウガクするは不登校。自分が学校に通っていたころにはあまり注目されていなかった問題なので、問題の深刻さとかがよくわかっていないが、少なくとも複雑な問題であることは理解できたような気がする。
  • 判例セレクト。
    憲法LGBTウガンダ女性の難民認定の件は解説での、憲法訴訟の主戦場は今や家族法入管法だという指摘は事実なのだろうが、それでいいのかという気がする。
    行政法マイナンバー制度の合憲性は、現下の不祥事続きの状況下で、「具体的な危険」が生じていないという判断が今なお維持できるのか、という点が気になった。
    民法の給与ファクタリングの件は、刑事事件に関する決定を取り上げている意味や本決定の意味についての、解説での説明が面白い。
    商法の株式会社の解散の訴えの件は、判旨での「やむを得ない事由」についての解釈に関する解説での指摘になるほどと思う。
    民訴法の執行手続を停止せずに行われた執行処分の効力は、何が何だかわからない気がしたが、本件で何が重要なのかを解説で示してくれていてわかりやすく感じた。
    刑法の誤振込金の振込委託と電子計算機使用詐欺罪の成否の件はH15年決定を踏まえて判旨の論理を解説しているのが興味深く感じた。解説末尾で触れられている指摘にはなるほどと思った。
    刑訴法の日野町事件第2次再審請求開始決定に対する即時抗告棄却決定については、解説最後の段落での指摘に賛成する。
  • 演習。
    冒頭に「レポート」なるものが登場した。どうやら国際法や環境法、社会保障法、刑事政策の中から毎月一つレポートの書き方の指導と思われる。今回は国際法。レポートの書きかた以前の論文の探し方の説明だけど、芋づる式に色々出てきても読み切れないのでは?学生側の可処分時間をどう見るか。
    憲法。同性パートナーと14条1項、というあたりか。字設問事例について、「まとめ」で指摘されているような雑な見方をしていて、反省。
    行政法行政処分に信義則の適用があるかというあたりの話。適用の有無についての解説を見ると、判例法理のこの事案へのあてはめの部分は、なんだか言葉足らずな気がした。
    民法。受験勉強時も含めて動物の占有とか考えたことがなかったので、一瞬面喰うが、解説を読むとなるほどと思う。
    商法。株主総会の招集手続きやその瑕疵の問題はいかにも試験で出そうな感じ。という割に、どういう規律があったか忘れてる部分があって焦る。
    民訴。境界確認の訴えの法的性質とか処分権主義とか訴え取り下げの意思表示の瑕疵とかのあたり。境界確認の訴えの法的性質の議論は、有力説の方が個人的には違和感が少なく感じた。
    刑法。所謂フィリピンパブ事件が素材。共犯者間に共同関係があっても、単純な事前共謀でも現場共謀でもなくタイムラグがある場合があるとの指摘は、確かにそうだよなと思う。
    刑訴。勾留周りの話(雑)。被疑者以外の第三者における罪証隠滅行為の考慮の解説が個人的には面白く感じた。
  • 新法解説のR4年民法改正については、条文の引用や図解で丁寧に説明がされていてよかった。嫡出推定制度の見直しについての図解での説明はわかりやすかった。
  • 霊感商法関連新法については、河上先生の文章のわかりやすさが印象的。内容も新法をめぐる問題点も含めて解説していて、全体像が鳥瞰しやすいと感じた。
  • 講座。
    憲法は、自由権生存権のありようの違いとそこから生じる争い方の違いの説明が分かりやすく感じた。
    行政法は、徳島市公安条例事件最判の判断枠組の図解が分かりやすく感じた。期末試験対策?で事案分析の手法についての解説があるのも、時宜にかなったものなのだろう。
    会社法。総会決議を争う訴えについて。こういう法改正の歴史や解釈論の歴史を紐解くのは個人的にはすごく面白く感じる。
    民訴。判決の確定と確定判決の効力。主に既判力の話。実定法上の形成権の基準時後の行使のところは、笠井先生の解説でも何だか判然としないところが残る。
    刑法。精神鑑定と責任能力。専門家の判断をどこまで・どの程度勘案すべきかということなんだろうが、勘案すべきラインのようなものは示すことができないのではないかと考える。
    刑訴。強制処分法定主義。行政法で出てくる法律留保の原則との関係の整理などが興味深い。こちらがどこまで理解できたかはさておき(汗)。
  • 最後に特集。橋爪先生のイントロの文章の後に、自招侵害・自招危難をめぐる近年の議論。お二方の議論が俎上に登っているが片方の議論について、「無理を承知で要約している」という注釈がついているのが気になった。侵害回避義務論よりはもう片方の議論のほうが、理解できた範囲では、納得感があった。
    実行の着手については、危険性+密着性基準説と進捗度基準説が解説されていたけど、理論的な違いはありそうとしても具体的な事案への適用としては差異は生じなさそうな気がした。
    共謀の射程については、議論の火元?の先生自身が書かれていたが、他人の議論の紹介でないせいか、内容が明快で、わかりやすく感じた。
    住居侵入罪については、著者の解説にいちいちうなづきながら読む。最後のところでの指摘にも納得。
    詐欺罪における実質的法益侵害は、欺罔対象をめぐる議論に、ある種の危うさを含んでいる点(注21で指摘されている点)に注意が必要と感じた。
    死体遺棄罪については先般大きく報じられた事件も取り上げられているが、保護法益が漠然としている点などから明確でない点が残るのは避けがたいのだろうと感じた。
    今回の特集は学説における論争を通じて議論が深まった論点を中心としていたこともあり、必ずしもわかりやすくはなかったが(その中では十河先生の文章のわかりやすさは秀逸と感じた)、こういう議論があるのか、という点は学ぶところがあったと感じた。