日本思想史と現在 / 渡辺 浩 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。個人的には、著者と接点があったこともあって、すごく面白かった。この分野に関心があれば目を通してもよいのではないかと思う。

 

本書を購入した際のエントリでも書いたが、こちらは、著者の東大法学部での演習に2度参加し、講義も2度受講*1したことがあり、学部を出てからも、留学の際に推薦状を書いていただいたり*2(事実上の)最終講義にお邪魔したり、演習関係者を交えての宴会でもお目にかかるなどしていて、著者と個人的に接点があり、そういう立場で読んだ感想ということをあらかじめ付言しておく*3。この程度の接点しかないので、弟子を名乗る資格はない*4が、ロクに学問を学ばずに終わったこちらにとっては、学生時代に師匠と尊敬するだけの接点があった教員が著者だけだったのは間違いない*5

 

それはともあれ、本書は、著者の主著に収められていない様々な文章をまとめたものである。前述の著者との接点により、こちらとしては、読む読まないに関係なく、購入すべきものと認識して購入した。主著も読めておらずに積読山の古層に埋もれているが、それらよりはまだ取り付く島があるのではないかと思って、読み始めた。

 

全体が6部構成となっている。それぞれの原稿の出自の説明や初出時との差異への説明等も丁寧に付されているのが、謹厳実直という印象を強めている気がした。

まずは一番最後の「挨拶と宣伝」から読み始めた。文字通りの内容で、諸般の事由からされた挨拶や、自著の宣伝のための文章が収められている。自著の宣伝については、当該書籍も積読中で未読であるものの、著者の授業を体験すれば、宣伝の通りの内容であることには疑いの余地はない。授業さながらの語り口が懐かしさを禁じ得ず、脳裏に声がよみがえる。挨拶についても、挨拶の対象をどこまで理解できたかはさておき、同様に感じた。

次に「丸山眞男を紹介する」を読む。著者は丸山氏門下(こういう表現が良いのか、正直わからないが)で、丸山氏の東大が法学部の日本政治思想史の講座を引き継いでいるはずということも考えると、著者が丸山氏をどう紹介するのか、下世話な興味を禁じ得ないところではある。著者と丸山氏との個人的な接点に関しては、あまり言及がなく*6、個人的にはやや残念に思うが、丸山氏を紹介するという意味では妥当なのだろう。丸山氏の業績や思想についての分析・コメントについては、こちらごときが何かを申し述べることはできないが、丸山氏の講義録の編集については、かなり大変な作業をされたことが窺われた。いつぞやお目にかかったときに、「師匠が偉いと大変だ」というようなことを述べておられたのが脳裏をよぎった。

次いで「面白い本をお勧めする」「思想史を楽しむ」へ。

書評とか学会での報告とかからなっている*7。学会で、聴衆の一人が「素人質問ですが」と切り出して、報告者を血祭りにするというかなんというか、そういう光景があるというのを、ある種の都市伝説として聞いたことはあるが、それが目の前に展開されているかのごとき印象を受ける。著者の専門分野から見た問いかけが*8、圧巻なのは言うまでもないが、それが以外の分野についてもしっかり調べたうえでの問いの投げかけのようにみえるのが余計に怖いというかなんというか(汗)。学問というのはそういうものだと言われれば、おっしゃる通りとしか言いようがないが...。

最後に「その通念に異議を唱える」「日本思想史で考える」へ。短い文章が多く、内容的にも、こちらが受けた授業の内容と重なる部分もあり、後ろの方を先に読んでいて、かつての講義の内容についての記憶喚起をした後だったこともあって、読みやすかった。

 

…というような次第で、こちらの個人的な事情もあって、面白く読むことはできたのは確か。まあ、再現性ゼロの話なので、こちらが本書を他人に勧めてよいのかはやや疑問が残るが、この分野に関心があれば目を通してもよいのではないか。

*1:でも2回とも期末試験の答案の出来が芳しくなかったので、途中で試験を放棄して単位は取れなかった。

*2:当時のエントリを見返すと成績が悪いとダメ出しをされていたのに気づく。おっしゃる通りとしか言いようがない。

*3:万が一にも本エントリを含めこちらの書いたものがご本人の目に触れないことを切に願う(汗)。

*4:どこかの政治屋のような面の皮の厚さは持ち合わせたくない。

*5:著者が不快に思わないことを祈るばかり...。

*6:一か所、丸山先生、という表現とともに、丸山氏の発言を示されている部分があり、そこはそこで興味深く感じた。丸山氏の指摘を著者も踏襲されているのであろうと感じた。

*7:著者の下で学ばれた礫川外史先生Twitterでフォローさせていただいている。)の著書への書評もあり、お世辞めいたことを書いたりはしない「師匠」たる著者にここまで高評価を受ける本を書かれているのはすごいと思った。

*8:一部の内容については、学部の授業で触れられていた内容と関連しており、講義の内容が脳裏をよぎったことがあったのは言うまでもない。