月刊法学教室 2022年 01 月号

例によって、呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ、

  • 巻頭言は、全国民の代表、の意味合いについての考察が興味深い。政治学憲法学とで同じ言葉で語られるものの、その意味あいについて1対1対応の関係にはないのではないかという気がするが、どうなんだろうか。
  • 法学のアントレは、文献の読み方。3つの読み方の違い、使い分けというあたりは個人的には納得するところ。ゆったり読む、というのが中々実現できていないのが残念だが。
  • 外国法はブラジル法で親子関係の多様化とママ休暇制度について。確かに、多様な親子関係を認める法制度になっていて驚く。法制度の前提となる社会文化的状況が異なると思われるので、本邦で直ちに参考にできるかは検討の余地があるものの、今後の本邦の法制度のあり様を考えるうえで、参考にすべきなのだろう。
  • 特集は条文から見る刑事訴訟法憲法の関係。川出教授の趣旨説明が最初にある。
    最初は令状主義。令状主義に反する捜査がなされたときにどうなるかみたいな話があまり出て来ないけど、それで特集の趣旨と整合するのかと疑問。令状を事前に呈示されれば捜査対象者は受忍すべき処分の正当性やその内容・範囲を把握し、執行状況をチェックできるというようなことが注記されてるけど、刑事法に知悉しているわけでもない人がそんなことできるか??というところも疑問。僕自身はできる気がしない。
    弁護士依頼権と接見交通権は、接見交通権の位置づけの不透明さが印象的だし、それゆえに時に貫徹されない現実があるのではないかという気がする(刑事弁護をしないインハウスがエラそうなことを言えるものではないが)。
    裁判の公開は、刑事訴訟における裁判の公開の原則の例外の検討が興味深かった。何でもかんでも公開すれば足りるのか、という疑問があったので。他方で、被害者や証人保護の措置がこの点に関係することは明確に意識できていなかったのに気づいた。
    自白法則のところは、刑訴法319条1項に規定する3つの自白について、最初の2つと最後のものとの関係を検討するもので、個人的にはわかりやすく感じた(どこまできちんと理解できたかはさておき)。
    証人審問権と伝聞法則は、著者の私論が、素人目には、これまでの議論の問題点に対応できているように見えて、興味深い。
    特集自体は、受験生のときにほとんど意識できていなかった刑訴法と憲法の関係を改めて考えることが出来たのは有用だった。
  • 時の問題。福島第一原子力発電所からの処理水の海洋放出と国際法は、起きうる事態(起きないことを祈るばかりだが)の分析としては興味深い。
  • 新法解説は佐久間先生による、民法等の一部を改正する法律等の続き。管理不全土地・建物管理制度は、所有者が存在して、所有者が管理人にいちいち逆らうときには実効的な管理ができなさそうなので、なかなか難しいと感じた(注37)。相続土地国庫帰属制度については、モラルハザードとならないようにするという考慮があるのはわかるけど、やはりハードルが高すぎる気がする。地味にハードルが高く感じられそうな気がするのが負担金の額。この辺りは運用していく中で、東日本大震災のような災害が生じた地域などで軽減措置とかが講じられることがあるのかもしれないが。
  • 講座。
    憲法は、職業の自由。薬事法判決の判断枠組みやその後の判例・裁判例の展開の解説も興味深いが、立法事実の把握可能性論がさらに興味深かった。この連載と水野先生の家族法は書籍化希望。
    行政法は行政調査。行政調査と犯罪捜査の関係の部分は、結局資料がルーズに流用されているのではないかという疑惑がのこる。昨今の行政のもろもろの杜撰さを見るに、裏で何がおきているかわからないという警戒はしておくべきと感じる。
    家族法は、母法から継受した法文が、その前提となるインフラが不十分なところで、解釈などで何とか運用されてきた様子の解説が、歴史を俯瞰している感じで素晴らしいと感じた。
    会社法は企業買収等:会社分割。濫用的会社分割のところは、企業再生とかで、以前優良資産部分を切り離して再生させるために会社分割を使っていた事例があったと記憶しているけど、現状ではどういう風に整理されるのだろうかと気になった(不勉強で知らないだけなんだけど)。解説だけ読むとその種の方法は使えない気がするので、別の手を考えることになっているのだろうと思うけど。
    解説だけ読むとその種の方法は使えない気がするので、別の手を考えることになっているのだろうと思うけど。
    刑法総論。正当防衛、特に事後的量的過剰というところか。著者が自説の正当性を論じているあたりは、防衛事象的性格というのがキーワードに見えたけど、実際それが何を意味しているのかは、こちらの勉強不足ゆえに良くわからなかったし、他説の批判についても、表現の仕方には疑問が残った。
  • 演習。
    憲法は地方議会の議員のコロナ感染時における氏名の公表について。司法試験とかで出そうな内容になっている気がした(謎)。
    行政法O157とか出て来て懐かしさを覚える。訴訟類型の選択についての事例に即した解説は個人的には理解し易い気がした。
    民法。賃貸借関連で、敷引特約、抵当権に基づく妨害排除請求、転用物訴権というあたり。転用物訴権という表現を見たのは受験以来か。いずれも穏当な解説という印象。
    商法。非公開会社における株式発行の手続。株式発行に関わった経験がないので、この辺りは苦手意識が強い。条文を丹念に追えばわかるということを示すべく、条文の綿密な適示があるのが印象に残る。
    民訴は独立当事者参加。権利主張参加の可否について、著者の指摘には納得。現実に生じている多角紛争については、参加を認めることで、紛争の一回的解決が図られるのであれば、権利主張参加を認めるべきではないかと思うので。
    刑法は、放火罪について、失火罪も含めた横断的な検討。すっかり忘れているのはやむを得ないのだろう。
    刑訴は供述調書の証拠能力の話で、録音録画が絡んだり、合意制度が絡んだ場合の扱いのあたりは、良く知らない話なので(汗)、興味深かった。
  • 判例セレクト
    憲法の難民不認定処分への異議申立棄却決定直後に退去強制を執行した件は、裁判を受ける権利を侵害したという判断が出た点は評価すべきだろう。脱法的なやり方というのは争い難いだろうし。
    行政法の被災者生活再建支援金支給決定取消しの適法性の件は、結論の妥当性に疑問。支援法の目的の考慮が不十分ではないかという中原先生の指摘に同意する。支援したものを採り上げるのでは、支援しないほうがマシというなりかねないと思う。
    商法の少数株主締出しを目的とする株式併合と株主平等原則・不当決議は、株式併合の理由には合理性を求めないというのは驚いたが、変な株主のせいで会社の経営がうまくいかない状況下では排除が必要なこともあるかもしれないから、そうあるべきなのだろう。事案によっては、不当性を831条1項3号のところで検討すればいいのではないか。
    民訴の免責を受けた債務者の相続人が担保不動産競売において買受申出することを認めた件は、条文の政策的趣旨から説明した判旨には納得。解説にある有力説による解釈にも賛成。
    民訴の懲罰的損害賠償が含まれる外国判決に対して弁済があった場合の執行判決を求めることが出来る範囲については、解説で、懲罰的損害賠償自体を否定しておきながら外国での当該部分への弁済を前提にした執行を認めると懲罰的損害賠償を結果的に認めたに等しくなるという指摘には納得。
    刑法の自転車の一時利用について占有離脱物横領罪の成立が認められた事例については、書かれている事案からすれば、認められるだろうなという気がした。解説で、事案次第では他人占有物の一時利用と占有離脱物の一時使用とで判断方法が違う場合が存在する可能性が指摘されている点については納得。今後の議論に期待というところだろう。
    刑訴の被害者の員面調書につき同人の供述拒否等により法321条1項3号にあたるとされた事例は書かれている事実関係と同号の事由が例示列挙であることからすれば、該当という判断も納得。被害者に負担感の多い法廷での証言を依頼することはやはり難しいところがあると感じた。