阿久悠と松本隆 /中川右介

図書館で見て借りて来たもの。好みの別れそうな本で、個人的な好みにも合わないので、他人様にお薦めはしない*1

 

著者については、書き手、というよりも、編集者としてその名前に接したのが最初だった。田中長徳尊師(ハリネズミ尊師という方が個人的にはしっくり来る)が以前やられていた紙媒体でのカメラジャーナルを一時期愛読していたことがあり、同誌の編集長として接していた。その当時から芸能に関する著作があったことは知っていたが、実際に書かれたものを読むのは今回が初めて。

 

謡曲黄金時代の1975年から81年について、阿久悠松本隆 の二人を軸とした同時代史、というのが、おそらくは本書の適切な内容の紹介になるのだろう。松本さんについては、もともと山下達郎氏を起点に関係者の情報に接する中で接している情報も多いので、本書で書かれているものについてもそれなりに接したことのある情報が多かった。他方で、阿久悠さんについては、一度明治大学の記念館に行ったことがあるものの、それ以上特に意識して接した情報は少なく、そちらについては、なるほどと思いながら読んだ。

 

対象時期の歌謡曲は、僕らの年代だと、小学校に入る前位から、自分の音楽に対する好みが出てくる時期に接した。接し方としては系統立てて聴くというよりも、色々な形で自然と接したことが多く、本書で出てくる曲や歌い手については知っているところも多い(それでも知らない曲も多かったが)。とはいえ、必ずしもリアルタイムで接したわけではないので、時代の推移、曲や歌い手の登場の仕方としてはこういう感じだったのか、というところは、なるほどと思いながら読んだ。松田聖子さんが出てきたころの文脈についての記載等は特に興味深かった。諸々の綾が上手く重なって、大成功につながったということを実感した。こうした展開を示すデータの取り上げ方、整理の仕方は、編集者としての腕の良さの表れなのかもしれない。

 

描かれている中では、価値相対主義的な風潮が強くなるなかで、時代という概念が崩壊していき、それと寄り添っていた阿久悠さんが輝きを失っていき、そういうものから距離感を取っていた松本さんがどんどん活躍をしていく、というように見えてしまう。そういう切り取り方をされても、数字だけ見れば、理不尽とは言い切れないとは思うものの、後知恵で一方的に断じているだけという感が拭い去れず、阿久さんに対して*2、失礼ではないのかという印象が残った。

*1:個人的な好みからお薦めしない、という情報も必要と考えるので、敢えてエントリにしておく次第。

*2:そしておそらくは松本さんに対しても。