月刊法学教室 2023年 02 月号

一通り目を通したので感想を箇条書きでメモ。

  • 巻頭言は、こちらの予備知識不足ゆえか、言わんとすることが良くわからなかった。
  • 法学のアントレは、斎藤先生のサッカーへの愛と教育との幸せなマリアージュ(呟いてみたかっただけ)という気がしないでもない*1
  • 法学を旅するは島嶼地域の進行と地域性。自分が日本のごく一部しか知らないということが良くわかる。
  • 特集は戦争と法学。森先生のイントロに続き、郭先生の法哲学から戦争を論じる。早期降伏論と徹底抗戦論の法哲学からの比較。個人的にはチェンバレンという単語が脳裏をよぎって前者に与する気にはならないが、法哲学からすれば、こういうことになるのか、と思いつつ読む。
    川岸先生のウクライナ侵攻と武力行使の禁止。武力行使禁止原則の規範的重要性についての指摘には納得。規範に従うインセンティブの確保の重要性は汎用性のある議論という気がする。
    黒崎先生の戦場における武力紛争法の支配は、当事者の規範遵守への誘因を如何に保つかという観点から武力紛争法としてどこまでのことができるか、ということが興味深かった。
    山田先生の経済制裁は、現下の情勢での米国による対ロシア制裁のGATT違反の可能性を指摘する部分が興味深い。
    丸山先生の国連集団安全保障制度の法的課題は、どうしても安保理での拒否権の扱いが気になるところ。拒否権に歯止めをかけようとする議論が特に興味深い。個人的には示される3つの考え方のうち、憲章27条3項ただし書の厳格な運用が良いように見えた。
    橋本先生の難民・避難民は、EU側の対応に比べて日本の対応の場当たり感、不整合が良くわかる気がした。
    山中先生の日本の防衛法制は、防衛法制についての概観というところだろうか。憲法9条以外のところは知らなかったが、意識しないで済んだ方が良いのだろう。
    特集は、現下の情勢に鑑みると適切な内容なのだろう。ただ、やはり、知らないで済むならその方が良い分野という印象は残る。
  • ついで、今知っておきたい法制史の特集。田口先生*2が特集全体の鳥瞰をする原稿と封建制と西洋社会の原稿を書かれている。後者については、こちらが高校の世界史で習ったような中世のイメージについて、研究が進んだ結果、だいぶ異なる姿で理解されるべきということがわかる。
    ベンサムとイギリス近代法については、そもそもベンサムのイギリス法の伝統への批判自体知らなかったが、説かれているように現代日本においても参照する価値のある議論に思われた。
    守矢先生のパンデクテン法学における総則の抽象性の意義は、正直よくわからなかったが、最後に出てくる、ドイツ近代法学においては、政治的法的分裂克服の手段として、最低限の合意を成立するために抽象的であっても筋の通った言語が必要だったという指摘は、なるほどと思って読んだ。
    林先生の「裁判が嫌いな日本人」?は、日本人の法意識論に対する法制史からの応答として興味深かった。明治期の勧解についても、成立率の地域差がなぜ生じたのかは、今後の調査に期待したい。
    特集は、こちらの不勉強でよくわからなかったところが多かったが、個人的には興味がないではないので、わからないなりに面白く感じた。
  • 泉水先生の食べログ判決は、優越的地位の濫用規制の適用の解説が分かりやすかった。「取引」「取引の実施」該当性の検討のところは、紹介されている判決の記載だけからは、よくわからなかった。脚注15での指摘も興味深く感じた。
  • 講座。
    憲法。「みだりに~されない自由」の位置づけやDNA型データベースに関する問題点の指摘は、なるほどと思いつつ読んだ。答案戦略的思考への苦言には苦笑。
    行政法は国賠法2条。河川周りの話は、解説自体は分かりやすいものの、説かれている内容が分かるようでわからないという印象が残った。
    家族法は後見を考える。後見をめぐる構造的問題状況の描写にううむと思う。最後に出てくる責任無能力者の不法行為責任についての記載での某事件の判決に対するコメントには、納得。
    商法は問屋法理の一般性と特異性。問屋法理は正直ほぼ無理解に近い状態だったが、そのややこしさとそれをどう理解するかについて、他の議論を参考にしつつ考える部分は読んでいて面白かった。仮想通貨との関係でのこの法理の今日的意義の指摘も興味深かった。
    民訴は証明責任周りの話。読みやすくてわかりやすいと案じた。主張責任と証明責任の分配のところは、両者が一致するのはあくまでも結果論というのが面白いと感じた。
    刑法は不作為による共犯。この連載の記事としては、読みやすく感じたが、気のせいだろうか。不作為犯の話は、わかるようでわからない気がした。ある種の仮定のうえでの議論をせざるを得ないので、限界的な事例になったときに妥当な結論が導ける議論かよくわからないのではないかとぼんやりと感じた。
    刑訴は公判準備。公判請求から証拠調べ請求までの手続の流れ。P側の動きの解説としては分かりやすく書かれているといえるのだろう。
  • 演習
    憲法。立法不作為に関する違憲性など。判断枠組みの精緻化のプロセスの解説が興味深かった。
    行政法は処分手続の瑕疵に関して。行政手続法以前の最判しかないのか、と驚く。行政手続法ができてからそれなりに時間が経過しているはずなのに。
    民法は動産物権変動における公信の原則について。実際の業務で動産物権変動が問題になった事例に接したことがないが、いかにもな設例については、そうなるんだろうなと納得。
    商法では、ポテトを食べていて安心(違)。組織再編周りの話は、まあそうなるよねというところ。ややこしい手続については実務スケジュールを参照ということで(汗)。
    民訴は、主観的追加的併合の可否とか補助参加の利益とか参加的効力とかのあたり。いわれてみれば、そういう話あったなという程度なのは普段訴訟をしていないからやむを得ないと思うことにする(汗)。
    刑法は設例の教員みたいに断崖絶壁にある別荘を持っている人はそもそもいないのではないかということが気になった(そこじゃない)。解説最後に出てくる特殊開錠用具所持罪というのは知らなかった。
    刑訴は実況見分調書について。321条3項で認めることに反対説があるというのは、認識してなかった。手元のリークエを理屈付を確認して、一理あるかもと思った。
  • 判例セレクト。
    商法の支配株主の異動を伴う第三者割当増資の件は、会社法206条の2第4項ただし書の適用についての判旨が興味深かった。弥永先生の評釈で同項の解釈に疑問が示されているというので、有斐閣のローライブラリーで当該箇所を確認した(雑誌は処分してしまったので)が、条文の文言からすれば弥永先生の批判もありなのかなとも思う。
    民訴の財産開示手続における執行抗告と請求意義訴訟の関係については、原決定よりも最決の方が、民事執行法での執行抗告と請求異議の訴えとの役割の違いとは整合するのだろうと感じた。
    刑法の保護責任者でない者による保護責任者遺棄罪の共犯は、事実関係が凄いというかひどい話と感じるが、被告人に保護責任者遺棄罪の共犯を認める論理構成が難しいと感じた。
    刑訴の被告人の訴訟能力の判断基準・方法は、判断手法の詳細が興味深い。どこまで認知機能低下が控訴棄却になるのかというところはやはり気になった。

*1:現実逃避と業務とのそれという見方もあるかもしれない

*2:どうでもいいけど、田口先生はこちらの大学のサークルのかなり上の方の先輩らしい。面識はないけど。