組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには (光文社新書 1311)/ 中原 翔 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。企業内法務であれば目を通しておいて損のない一冊と感じた。

TL上で好評で、興味が持てそうな内容だったので手に取ってみた。文章も読みやすく、新書版で本文が220頁余とお手頃な分量であることもあり、通読も容易だった。

 

個人の「正しさ」の追及が組織的雪崩を起こすことの危険を実例(燃費不正、不正会計、品質不正、軍事転用不正、の実例が分析されている)を挙げて論じられ、対策が説かれている。軍事転用不正については、今も国賠訴訟が続いている大川原化工機の件*1が取り上げられている。

 

対策として「正しさ」の相対化を可能ならしめること、それにより、組織内でのおかしな動きを止めることが説かれている。「正しさ」を止められなくなる危険を避けるためには、「正しさ」を相対化させて、特定の「正しさ」が協力になりすぎないようにする仕組みが必要なことは、理解不可能ではない。相対化を可能ならしめるために、視点の多様性を、組織内の人員の多様性を確保することで確保しようという発想も理解はできる。そういう意味では、広い意味での企業のリスク管理に関わるであろう企業内法務の担当者にとっても、目を通しておいて損のない一冊だろう。

 

とはいえ、本書の価値を左右しないレベルの話だとは思うが、次の各点が気になった。

  • 社外役員による牽制ということも説かれているが、大きな会社の場合、取締役会等の役員層の出る会議に上がる話は、一定程度大きな話であるのが通常だろう。何でもかんでも役員層の会議にかけていては効率が悪いし、役員層の負担も大きくなりすぎるからだ。そうなると、役員層のレベルでの牽制機能が機能しうる範囲はそれほど大きくないのではないか。
  • また、他部署からの指摘という形での牽制機能の発揮への期待が書かれていたが、部署単位で業務分掌が定められ、その範囲内の業務はその部署の専権事項となっているときに、その種の指摘がどこまでできるのか、という点も気になった。指摘に説得力を生じさせるためには相応に情報を入手し、分析をする必要があることも多いだろうし*2、そうした情報を入手できるとは限らないし、分析ができるとも限らないだろう。そう考えると、そうした牽制機能がどこまで働くかについても疑義があるのではないかと感じた。

*1:和田倉門法律事務所のnoteでの諸々の情報公開が、その全てに目を通せてはいないものの、興味深い。

*2:ロクに事情も知らずに指摘をされても、指摘が的外れになりかねず、そのような指摘をされる側からすればむしろ業務妨害にしかならない危険がある。