例によって呟いたことを基にメモ。
- 巻頭言は、デジタル通貨とかの話は、興味がないこともあり、ふーん、という程度。本号はこちらの興味関心から遠い話が多そうで巻頭言からハードルが高いことを予感させた。
- 法学のアントレは、学習方法の提案?が興味深い。係争物に触れてみるというのは特に知財とかの分野では有効なのだろうと思う。有効な分野とそうでない分野とありそうな気もするけど。
- 外国法の連載はスウェーデン法での家族法における平等の理念の実現。そこまで考えるのか、と驚く。ここまで考えるのであれば、日本にとっても示唆になるところは多いのだろうなと納得。
- 法学教室プレイバックは租税法と法哲学。司法試験の科目以外の分野にも話が広がった(?)。
租税法は、指摘取引にとって租税とはあたかも「空気抵抗」のようなものだという比喩に納得。
法哲学は大屋先生と安藤先生の対話を「法哲学の世界における大怪獣」の対決と表現したのになんとなく納得。twitterで見る限り、大屋先生は確かに大怪獣という気がするし(ご本人は否定するだろうけど、素人目にはそう見えるということ)。 - 判例クローズアップのリモートアクセスの最決の記事は、実体法の部分ではサイバー犯罪への対応の難しさを踏まえた解釈論が興味深く(その必要性を説く末尾の著者の指摘も)、手続法の部分では、立法による必要性があるところ、対応が難しい状況でできることをどう正当化するかの部分が興味深かった。
- 判例セレクト。
憲法の特例水準の段階的解消に伴う年金額減額の合憲性の事件は、年金と生活補助併用で最低限の生活水準の保障を想定しているとなれば、世代間の不公平の是正も考えるとそうなるだろうなというところか。
行政法。解説の中で出てくる最判H28.4.21(民集70.4.1029)で拘置所に収容された被勾留者に対する安全配慮義務が否定されているのに驚く。掲載の裁判例では別の論理構成で、被収容者に対して刑務官の暴力行為に対する制止権限不行使の違法性を認めているが。
商法。公開買付を前置しないキャッシュアウトのための2回目の株式併合の件は、手続的公正さの担保のためにどこまで何をすべきか、公開買付をしない場合はどう考えるべきか、の判断が難しい気がした。
民訴。事案からすれば、請求1・2と3とは主張利益の共通性が認められないのは当然という気がするから、決定内容は当然かと。訴訟実務の経験が乏しいので、民訴費用規則のこういうところまで気にしたことがなかった。
刑法。白ロム化後の転売目的を秘した携帯電話機の購入に詐欺罪の成立を認めている件。解説の最後で指摘があるような事情を考えると、交付の判断の基礎となる重要な事項、に該当するとした部分が苦しい気がする。
刑訴法。少年審判で非行事実に争いがあるのに、被害者や共犯少年の証人尋問なしに非行事実を認定したことが、証拠調べでの家裁の合理的裁量を逸脱するとした件は、重要な客観的証拠がないところでは、手続保障上そう判断されるべきという気がした。 - 演習。
憲法。使用者の労組脱退勧奨と取れる発言と不当労働行為との関係、というところ。表現の自由との関係が議論が十分煮詰まっていない分野のようなので、この設問に実際に答案を書くとなると悩む気がする。
行政法。品川マンション事件が国賠請求なので、不作為違法確認訴訟で、そのまま同事件の議論を使えるかという検討が必要というところの解説は、なるほどと思った。
民法。担保物権は相変わらず苦手と再確認(駄目)。譲渡担保権の物上代位性を否定する道垣内説自体知らなかった(駄目)。解説にある否定の論拠は興味深いけど、直ちには納得しがたいような気がした。
商法。大河演習が続く。走れメロスを引く「悪乗り」がいい味を出している。個人的には問1が面白かった。847条の文言に「株式会社に対し」とあるのと、提訴時に386条2項1号まで読み込むことを素人の株主に求めることは過剰と思うので、提訴請求が会社宛で監査役宛でないことは不適法にしづらいのではないか。
民訴。文書提出命令。実務ではやったことがない(汗)。申し立てから不服申し立てまでの一連のプロセスの順を追った説明、特に申し立てまでに申出人がすべき点の指摘(受験生の時は忘れがちだった気が)は有用と感じた。
刑法。抽象的事実の錯誤の類型ごとの論じ方の確認、というところだろうか。この辺りは、インハウスになって刑事事件に直接関与する可能性が低下した(はず)こともあって、元から定着度合があやしかったのが、抜けている気がして焦る。
刑訴。現行犯逮捕から勾留の辺りのおさらいという感じ。勾留の理由・必要性についての記載は、著者が元Pなので、こうなるのだろうし、受験的にはそうだろうなと思う反面、黙秘権の行使が勾留の可否の判断で勘案されるのには違和感が残った。 - 講座。
憲法。表現の自由と著作権の関係についての憲法側からのアプローチで、著作権法および著作権法学への批判が興味深い。これに対する著作権法学側からの反応がどうなるか期待。
行政法。行政行為の瑕疵/行政行為の職権取消・撤回。無効の瑕疵について、重大明白説は流石に覚えていたが、明白性補充要件説というのは名前を聴いたことがなくて焦ったが、よく読むと納得。今回は紙幅不足だったようで「続きはwebで」と付款についてのweb補講があったが、これはこれで便利だが、記事が冗長にならないかという懸念も覚えた。
家族法。水野先生節?というか、先生の個人的な視点が前面に出ていて、毎回のことではあるが、読みごたえを感じる。届出による法律婚主義の問題点についての具体的な事例を交えての指摘は興味深かった。
会社法。429条1項をめぐる議論について、適用対象を限定したり、廃止すべきという議論があることを認識していなかった。同項についての判例法理の背景にあるとされる事情と、当該判例法理確立後の事情の変化からすればそういう議論が出ること自体は妥当なのだろう。
民訴。「知的好奇心を刺激する」かどうかは読者が判断することであり、著者が押し付けるものではない(定例表現)、というのはさておき、訴訟上の和解の錯誤による取消と既判力の関係議論は、個人的には興味深かった。既判力否定説に対して、和解後に承継人に和解の効力が及ばなくなるという、制限的既判力説からの批判があることは不勉強で知らなかった(汗)。
刑法。相変わらず著者の文体になじめない気がする。二重否定はわかりにくい(単にこちらが刑法も不勉強なだけという気もする)。
刑訴。JPBが一堂に会しての座談会は個人的には興味深く面白いのだけど、実務よりの話、特に非伝聞構成を志向する話とかは、司法試験受験までの段階でどこまで理解できるのか、よくわからないという印象。却って混乱したりしないだろうか。 - 特集2。法社会学とはどんな学問?という表題の飯田先生の原稿は、法社会学の全体像の鳥瞰みたいなものを期待していたけど、そうではなく、その意義や分析視点、学習方法についてのもので、特集のイントロとしては適切だったのだろう。
次の石田先生、平田先生の各原稿は、2つの特徴的な分析手法(データ・統計解析、質的分析)についてそれぞれ紹介するもの。前者に付いては、データ収集をどうやるかの検討に相当な手間がかかっているんだなと感じた。個人的には過去の統計不正とか思い出して、どうも前者に付いては好きになれないが、質的分析の方は、ニュアンスとか話の文脈とかに関心が寄せられているあたりは個人的な志向には合うかなと感じた。こちらも問題の構造化とデータ分析の手法が面白いと感じた。
最後の斎藤先生の原稿は、法社会学の社会や法学界への貢献について語るもの。貢献の具体的な例が挙げられており、こういう形で役に立つのかと実感できる。最後の方で法社会学こそが法学の中心、というのは勇ましいが、個人的には直ちには賛成しがたい。
特集は、実証分析に寄せた内容になっているので、結局法社会学の全体像は不明確な気がしたが、紙幅を考えるとこういうアプローチでの紹介もアリなんだろう。 - 特集1。国際公法の話。大沼先生の新書も積読山にあって気にはなっているのだが、その予習になるか...。
森先生の特集の趣旨説明はなるほどというところ。
Iの山田先生の原稿は、慣習国際法の意義についてのものだけど、慣習国際法をどうやって認識するか、という点の解説が個人的には面白かった。韓国の元慰安婦の損害賠償請求事件についての見方は、なるほどそういう見方もあるのか、と思った。
IIの中野先生の原稿は、条約の留保の意義について、実例を示して、説明してくれているもの。条約の留保という制度があることは、仲裁判断の執行に関するNY条約とかで知っていたが、留保の持つ意味合いとか留保に対する異議申立方法とかは知らなかったので、面白く拝読した。
IIIの山形先生の原稿は、条約解釈と解釈手法についてのもの。個人的には、条約の正文が複数言語で書かれていて、その相互間に差異があるときの解釈の仕方が一番興味深かった。CISGが同様に言語間に差異があるという話を聞いたことが有るので、その時もここで書かれている手法で解釈されるのか気になる。
Ⅳの内記先生の原稿は、ソフトローの良い面にしか触れていない気がして、何だか微妙な気が。交渉コストの削減をソフトローの利点として挙げるけど、かけるべきコストというときもあるのではないかという疑問も。
Vの竹内先生の文章は国家管轄権というものをそもそも知らなかったので、3区分やその機能についての説明が興味深かった。
VIの萬歳先生の文章は、国家責任の発生について、帰属と国際義務違反に分けて解説されている。北朝鮮による拉致等がどういう形で国際法違反となるかについての説明が明快でよかった。
VIIの西村先生の文章は、遵守手続・履行確保手続の意義についてのもので、主権国家間での話だとこうなるしかないのか、と感じた。
この特集は、国際法における基礎概念についての説明に絞ったようで、実例に基づく解説はわかりやすかったのではなかろうか。その意味ではこの分野の最初の一歩としては良かったのではないかと思う(素人の感想でしかないけど)。