法学教室2021年11月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。惰性でやっている感はあるが、それでもやらないよりはマシと自分に言い聞かせる(苦笑)。

 

  • 巻頭言は、先般の某「上級国民」への裁判の件から新自由刑の検討についての議論への流れの自然さが流石、というところ。刑罰にどういう名称を付けるかは確かに難しい。
  • 法学のアントレは「読む」ことについてRPGになぞらえた説明。RPGをしないので、その当否は不明だが、学生の方にとってはわかりやすいのかもしれない(自信なし)。
  • 外国法はタイの憲法裁判所における違憲審査。オンブズマン経由での個人による憲法異議の制度があるというのは実体としてイマイチで不評というのも含めて興味深い。本邦でも憲法裁判所が独立であっても良いのではないかと思うのだが...。
  • 判例セレクト。
    憲法の「宮本から君へ」助成金不交付事件は、特定出演者の出演が表現内容になるという指摘に、一瞬驚いたけど、納得。解説での「X側は、有名司法試験予備校の塾長など憲法問題に一過言ある弁護士たちによって「表現の自由」などを掲げた憲法訴訟に発展させようとした」との記載に苦笑。
    行政法辺野古サンゴ礁訴訟最高裁判決は、形式的な感があって、個人的には疑問。
    商法の株式併合後の(以下略)については、会社が公正と認める額を払ったところで、それはある種の「仮払い」でしかないと思っていたので、最高裁まで事件が行くところに驚いた。色々事情があるのかもしれないが。解説の最後にある本件の射程についての言及も重要そうな予感。
    商法の会計限定監査役の調査義務の件は、損害賠償の範囲についての検討が興味深い。確かに監査で見落とした事象の生じた期以降の損害は因果関係が否定される可能性はあるのではなかろうか。
    カードすり替え窃盗の実行の着手についての件は、詐欺罪におえる虚言との比較が興味深いし、詐欺罪との違いに基づき、虚言と現場への接近が必要とした点はなるほどと思った。
    刑訴の常習一罪を構成する範囲と一事不再理効の及ぶ範囲はいままでの判例・裁判例を踏まえたうえで、この決定でどこまで明らかになって、どこが明らかになっていないのかの分析が明快で良かった。
  • 演習。
    憲法政教分離についてのものだけど、結局どういう判断枠組みで議論するべきかについて、どう考えていいのかわからない感じがした。まあ、自分が受験生なら、困ったら目的効果基準で考えるのだろうけど。
    行政法原告適格のところは、何だか頭に入りづらい。
    民法。相殺周りも挙げられている論点はなるほど確かに考えるべきところはあるのだけど、実務で問題に接した記憶がない。取引基本契約とかで可能な手当ては講じてしまうからなのか、それ以外が理由なのかはよくわからない。
    商法。毎度おなじみ大河ドラマ演習。責任免除周りの話。「政省令への委任がある場合にきちんと参照しない者がいるが、それこそ重過失に相当する愚かな行為である」というご指摘に接する。反省。
    民訴。共同訴訟における共同訴訟人間での主張共通や証拠共通について。主張についての当然の補助参加の議論とか議論が出てくる理由は理解可能である者の、当事者の私的自治の原則との整合性が気になるところ。
    刑法。名誉に対する罪をめぐる論点について。企業に対する名誉棄損罪が成立し得て、それと信用棄損罪と両方成立するというのは、考えたことがなかったが、言われてみるとなるほどという気もする。
    刑訴。公判前整理手続周りの論点。実際の手続きが修習に行くまでイメージしきれなかったので、学生の方とかこの辺りを読んでどこまで理解できるのだろうと素朴に疑問。できる人もいるだろうけど。
  • 時の問題。憲法改正手続法のさらなる改正について。「憲法改正が国民にとって最重要事項であるがゆえに、政党を超えた協議と合意こそが重要かつ必要であるとの認識がまがりなりにも国会に共有され続けていた」とあるけど、そうなの?と疑問。こちらの目にはそういう風には見えなかった。
  • 少年法改正の記事。改正の意味と背景についての小木曽先生の分析が興味深かった。法律の中には、個別の政策目的を超えた意味合いを持つものがある、という指摘は納得。
  • 著作権法R3年改正の記事は、今日的な課題への対応策が興味深いけど、実際にはあちらを立てればこちらが立たず、みたいな話が多そうで、この辺りは門外漢だけど、規定を作るのも大変だったのではないかと感じた。
  • 建設アスベストの4判決は、到達の論点のところは、個人的には違和感が残った。被害者救済の観点からはやむを得ないだろうとは思うけど。
  • 講座。
    憲法はパブリックフォーラム論の意義というあたりは不勉強で理解してなかったし、判例・裁判例における使われ方(という言い方がいいのか必ずしもはっきりしない気がするが)の解説は興味深かった、というか、今更ながらに不勉強ぶりを認識した。
    行政法は行政指導について。今回の昨今の事象に見られた行政指導の諸々の曖昧さが脳裏をよぎる。事実上の拘束力があるのに立ち位置の不明確さゆえに必ずしも争いやすくないのはいただけないとあたらめて思う*1
    家族法。この分野の泰斗が自分の言葉でゼロから講義内容を組み立てているという感じがして読みごたえがある。不貞行為をされた配偶者の法益侵害について不法行為法で処理するのではなく家族法の枠内で処理というのは、感覚的にはわかる気はするものの、具体的にどうするのかよくわからないなと思ったけど、最後の方の記載を見ると離婚給付で調整ということになるものと思われた。それはありかもしれない。
    会社法新株予約権関連の話。業務で新株予約権に関する案件を扱ったことがないこともありどうしてもピンとこない気がしている。理屈が上滑りする感じがする。
    民訴。知的好奇心を刺激するかどうかを決めるのは読者であり書く側がいうことかどうかは疑問(定例)。「実体適格」という表現が出てきて、そういう言い方をしたくなる理由は理解可能だけど、何だか微妙な気がする。
    刑法。正当防衛の制限に関するあたり。侵害回避義務論への著者の違和感は、納得するところもあるけれど、かの論に対する批判の言葉の選び方は、無用に強い言葉を使っていないかという気がした。
  • 特集へ。
    過去の特集への言及も含めた松下教授のイントロの後は補助参加について。補助参加は、やはり何だか良くわからないと感じた。何がわからないのか考えたけど、補助参加人が従属的な地位に置かれる必然性がどこにあるのかわからないというあたり。影響を受ける分手続保障を与えるなら対等な方がいいのではないかと思うのだが。
    将来給付の訴えについては、継続的給付請求に対しての裁判所の対応の冷淡さには疑問が残った。むしろ大阪国際空港事件大法廷判決の団藤反対意見の論理が個人的には納得感が高かった。
    重複起訴の禁止の記事は、重複訴訟の問題を複数事件間の調整の問題と捉えたうえで裁判所の適切な訴訟運営が期待されるという指摘は、これまでそういうことは考えたことがなかったけど納得。
    釈明権の記事は、釈明の意味からして混乱してしまいがちな身としても整理がわかりやすく感じた。釈明権の意義を当事者双方の弁論権を保障するための手段とみる見方も納得。
    文書提出命令の記事は、220条の概観としては良かったのではないかと感じた。やはり条文の作りはわかりにくいとも感じた。妥協の産物だから仕方ないという側面があるとしても。

    和解の効力の記事は、第三者を和解に組み入れることの理論的根拠について、第三者と当事者との間に訴え提起前の和解が成立したという考え方と第三者に和解当事者の地位を認め、当事者と第三者と合意が調書化されることで訴訟上の和解の一部となり効力が与えられる考え方があるというのは知らなかった。そもそも理論的根拠なんて考えたことがなかったから当然だが。和解手続の現実の指摘については、納得。
    インハウスで現状訴訟から縁遠いため、民訴の知識も抜けかけていたところを記憶喚起する形になってくれたので、個人的には良い特集だった。

     

 

 

*1:なぜか某CGコードが脳裏をよぎった。