法学教室2021年9月号

 

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 法学のアントレは、日本法制史の高谷先生@京大の記事。前近代の法の無口さとの向き合い方についての解説は、素人からすればなるほど、と思うところなのではないか。
  • 巻頭言。恵与の意図とか出てきて、面食らったが、保証契約が要式行為とされるのは、保証契約の無償性に原因を求めるべきではないとするもの。当事者が3人になると途端にわかりづらくなる気がする(駄目)けど、指摘は言われてみると、納得という感じがした。
  • 外国法の連載は韓国法。歴史的経緯を踏まえれば(踏まえ方には配慮が要りそうだが)、日本法の比較対象として、韓国法が有用というのは納得。その一方で、二次大戦後の歩みにおける彼我の差の大きさも感じた。
    204国会主要成立法律の記事は、こういう法律が成立したのかと思いつつ読む。法案などの誤りに関して「改め文」方式の利点を説くのは、理解不能でははないが、記事の書き手の立場(衆院憲法審査会事務局総務課長)を見るとポジショントークではないかと感じてしまう。
  • 法学教室プレイバック。最終回。経済法の方は、泉水経済法入門に興味が出てきた。白石先生の講義も積読のままだが(汗)。国際私法の方は、予見可能性と具体的妥当性のどっちを重視するかという対立は法学の中では普遍性があるのだろうと感じた(謎)。
  • 判例セレクト。
    憲法の婚姻を異性間に限ることの合憲性についてのもの。判旨の不明確な点についての解説でのコメントに感服。珍しく判決文に目を通した事件だったけど、挙げられている点は気づきもしなかったので(汗。
    行政法民法は建設アスベスト訴訟の最高裁判決について。行政法の方は、解説の最後にある規制権限の根拠法令に拘泥することの問題点についての指摘内容がちょっと気になった。
    民法の方はジュリストの時の判例でも感じたが、事実認定のやり方にはやや疑問。やむを得ない部分があるとしても。
    商法の、新株予約権の行使によりなされる新株発行の差止の事件については、新株予約権の発行と、その行使とは別といえば別なので、前者に無効事由があることと、後者に無効事由があるかどうかは別に考えざるを得ないんだろうなと納得。
    民訴の弁護士職務基本規程57条違反の最決は、規程の性格の理解の仕方によっては、そうなってもおかしくないという気もした。それが妥当かどうかはさておくとしても。
    刑法の自招侵害と正当防衛の成否の横浜地裁の事件は、H20最決の理解について、判旨で書いている部分が興味深い。この事件控訴されたのかは気になる。上まで行ったのであれば、それはそれで、傍で見ている分にはさらに興味深くなるのだけど。
    刑訴の、控訴審における第1審無罪判決・破棄自判に必要な事実の取り調べについては、事件の確信は無罪判決に至った論理則・経験則それ自体であって、証人尋問などは不要なうえ、控訴審でAQがなされていて実質的な意見弁解の機会がある以上問題はないという、解説での指摘に納得。
  • 次いで演習。
    憲法は、髪型の自由という古典的な問題に現代の事象を絡めて、13条、14条それぞれの問題を論じるというのは何だか司法試験本試験で出てきそうなパターンだなと感じた。
    行政法は手続的違法と処分の取消理由との関係に関するもの。唐突に出てくる太宰治のくだりはさておき、どう答案にするかの手順についての解説はわかりやすい。
    民法は、法定地上権の話で、後順位抵当権者の担保余力からの優先弁済期待の保護との関係で、先順位抵当権者の被担保債権の時効消滅を後順位抵当権に認めないのは、なんとなく違和感を覚える。
    大河演習の商法。今回は特に遊びはなく(謎)、株主の情報収集権や取締役の任務懈怠責任について。東芝で使われた316条2項に基づく調査者選任が出てくるのは時宜に適っているというべきか。任務懈怠責任については損害との因果関係が認められる範囲の見極めは重要(答案を書くと迷うところだろうと思う)。
    民訴。和解の話。対席和解の重要性を強調するけど、当事者の感情的対立が大きいときは別席でないと話すらできないこともあるというのを見ているので、直ちに承服しづらい。弁論に戻った時のことも触れているが、そもそも戻さずに和解成立させた方が裁判官としては楽なはずで指摘には説得力を感じない。
    刑法。正当防衛、誤想防衛、過剰防衛、防衛行為の誤想、誤想過剰防衛のそれぞれの論じ方についての説明がまとまっていて有用な気が。順序だてて落ち着いて説明するのが重要ということか。
    刑訴。被疑者が自ら接見内容を供述した場合の扱いについては、知らなかったが、秘密交通権を侵害する危険があるという指摘は納得するところ。
  • 講座。
    憲法。インターネット、特にSNSの普及が表現の自由をどう変容させたかについての検討(特に、思想の自由市場論の限界についての検討)が読みごたえがあって面白かった。
    行政法。行政手続の解説が丁寧だけど、現時点では行政手続が問題になった事案に実務で接したことがないので、ふーん、と言いながら読む程度になってしまう(汗)。手続的正義について、英米法と大陸法とで差異が生じたのは何か理由があったのかというところが気になった。民法。婚姻障碍事由等について。法継受の仕方の歪みとか歴史的な事情などが絡んで制度がうまく機能していない点についての指摘が興味深い。価値観の対立などもあってそう簡単に改正などが出来そうもなさそうなのも混迷を深める一因のように見える。
    会社法。取締役の解任の話。339条2項の損害賠償の話は何だかすっきりしない。某年度の本試験の問題を検討したときにも感じたが。保護すべきは大会社では取締役の地位、小規模子会社では利益分配に対する補償、という指摘には納得。たとえ解任時の残任期が長くても、残任期期間の全報酬までは払う必要はない気がした。
    民訴。知的好奇心を刺激するかどうかは読者が決めること、ということはしつこく強調しておきたい。それはともかく、共同訴訟。固有必要的共同訴訟で提訴拒絶者への対応について、立法的提案が書かれているのは興味深い。提訴拒絶者を被告側にするというのは苦しい気がするので。
    刑法総論。違法性総論。釈然としない。特定の説を説くのだけど、どうも肚落ちしない。反対説に対する攻撃的な感じの論調に違和感を覚える。余計な形容詞が多く感じるが、自説の弱さを隠そうとしているのではないかという疑念が残った。
    刑訴。修習まで終えた立場で読むと面白いのだけど、修習を経ていない方々にどこまで伝わるのか。PBがそれぞれの立場から率直に語るのは面白い。再現実況見分の意義について、PB双方が、公判前の段階において自分の理解のために作成することの意義を述べているのが興味深い。321条3項についての宮村先生の見解は成程と思うと同時に、述べられている中にある先生が実践されている内容は、そこまでやられているのは凄いと、単純に尊敬する。
  • 最後に特集。
    Iは組織規範・規制規範・根拠規範の3つに分けて行政法規範について解説。このあたりの話をする際の「お約束」ともいうべき自動車検問についても出てきた。侵害留保説に立ったうえで、検問が「侵害」には該当しないから、根拠規範は不要とするのは、理解は可能なものの、検問が「侵害」に該当しないというところからして何だか違和感が残る。
    IIは委任立法について。近時の最判ということで、ふるさと納税制度の判決が取り上げられているが、問題の告示について引用されていないので、記事だけを読むとわかりづらい気がした。重要なところは告示の文言を「 」してほしかった気がした。
    IIIは条例についての個別法の定めについてのもの。適切な例時に寄る上乗せ条例・横出し条例の解説はわかりやすかった。個人的には第一次地方分権改革前後で条例制定の余地が変化したとの指摘については、自治体の条例制定の実務担当者もそう感じているのか訊いてみたいところ。
    IVは行政裁量と条文・行為形式。裁量審査はいつ社会観念審査でいつ判断過程審査なのか、の区別が分からないままここまで来たが、記事を読んでもそのあたりはよくわからなかった。
    Vは行訴法36条の無効等確認訴訟提起に関する要件について。文言を見ても、二元説には無理があるように感じる。
    今回の特集は、条文、特に個別法の条文から行政法を考えるというもので、試験との関係でも有用と感じた。ややもすると初見の法令の文言解釈を要求されることになるから、なるべく個別法の文言解釈に慣れておいた方が良いと思う。