月刊法学教室2022年3月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 巻頭言は神作教授。東証の市場区分についての話で、穏当な現況の紹介なのだろう。
  • 法学のアントレは百選を読むというものなんだけど、百選の記事も玉石混交という気がしていて、その点はどう考えたらいいのだろうかという気がするから、何だか微妙な気分にならざるを得ない。
  • 外国法は最終回でアフリカ。アフリカという括りのおおざっぱさや、書いているのが研究者ではなく実務家の方というのが、これまでのかの地域の日本における位置づけの一端を示している気がする。一足飛びにデジタル化しているというのは、興味深い反面、危うさを感じる。
  • 時の問題。政府承認の問題は、昨今のロシア・ウクライナをめぐる件でも問題となるかもしれないので、興味深いというかなんというか。政府承認に際して実効支配だけでなく正統性も求める点や、そもそも政府承認を廃止するという動きが出るあたりも、その難しさの一端を示していると感じた。
  • 判例セレクト。
    憲法の死刑確定者の信書発出制限の適法性の件は、事件概要を見ると和歌山カレー事件の被告人の方が原告というので驚く。解説をみるとこの件以外にもいくつか関連裁判例があるのにもやや驚く。
    行政法の陸上自衛官懲戒免職処分取消等請求事件は、そもそも懲戒処分手続きにおいて、審理の辞退が可能というのが何だかすごい。辞退の確保が真意に基づくものであることがどのようにされているか、というか、実体として自衛隊にとっての不都合を覆い隠す道具として使われていないかという懸念を禁じ得ない。
    商法の買収防衛策発動に関する株主意思確認総会の決議要件の件はMoM要件が問題になった件だけど、MoM要件はなるほどと思う反面、その正当化根拠は、解説を読んでも正直よくわからないなという気がした。結論としては納得はできるのだけど。
    刑法の被留置者金品出納簿の「文書の性質」と名義人の承諾については、被留置者金品出納簿が判旨のような性質のものであるのなら、まあ、そういう話になるな、と納得。
    刑訴の控訴審による第1審有罪(心神耗弱)判決破棄・自判のための「事実の取調べ」の要否の件は、流石にそこは調べないとマズかろうという話に見えるのだが、高裁がそうせずに自判するのが怖い気がした。
  • 演習。
    憲法は24条に関して。今まで考えたことがなかったので、こういう論じ方になるのか、と思いながら読む。
    行政法。昨今の緊急事態宣言を題材に損失補償について。損失補償に「財産権の保障」と「暴動原則の実現」という2つのモーメントが作用しているという指摘には納得。
    民法。複数加害者による不法行為をめぐる近時の判例の動きについての解説。まとめて見ると、被害者救済と衡平を考えて責任負担を関係者間で割り付けているようにも見えて、予見可能性という意味ではどうなんだろうという気がしないでもない。
    商法。取得請求権とか種類株式とかの話。体験したことがないから、どうしても肚落ちする感じにならない。持株の現物出資を通じた種類の変更のあたりは言われてみれば確かにそうなるなと思いながら読む。
    民訴。対世効が及ぶ者による再審に関して。もともと再審とかは受験生時代に手が回ってなかったうえに、訴訟をしないので、綺麗に知識が抜けているが、再審の訴え提起と共に独立当事者参加の申し立てがいる理由は良くわからない気がした。
    刑法。賄賂罪における保護法益と職務関連性について。一般的職務権限とか官庁内の業務分掌とか普通の民間人は知らないはずなのに、その辺どう考えるのだろうと疑問に思った(調べてないので既に答えがでているのかもしれないけど)。
    刑訴。概括的認定とか択一的認定とか。択一的認定が許されない例の解説が個人的には興味深かった。
  • 講座。
    憲法。人身の自由と被拘禁者の権利保障。現実の諸問題との関係で注目を集めやすくなった分野で、現状の課題のうちのいくつかの解説というところか。広義の人身の自由の整理の仕方や、その中での22条の位置づけの解説が印象に残った。
    行政法。情報公開・個人情報保護。情報公開の部分はなるほどと思いつつ読むが、個人情報保護の部分は、紙幅が少なかったから記載が短すぎて、これでいいのかという気がした。講座全体のバランスを考えるとやむを得ないのだろうけど。
    家族法。離婚の成立について、歴史や比較法を踏まえての現状の解説というところか。現状への批判も納得できるもので、読みごたえがあった。
    会社法。設立とか財産引き受けとか開業準備行為とか。「設立中の会社」というのが何だか微妙な概念だなと思っていたので、そんな概念なしに説明可能との指摘には、納得する。
    民訴。知的好奇心を刺激するかどうかは読み手が決めることで書き手が言うのは不適切ではないか(定期)。IT化とかAIとかの流行りものについて。元Jの人らしい物言いだなという程度。
    刑法。緊急避難。こちらの勉強不足でよくわからなかった。自分の不勉強を棚に上げていえば、難しい内容を十分に噛み砕かずに語ることがこの雑誌の立ち位置に照らして適切なのかは疑義が残るところと感じた。
  • 最後に特集へ。
    小島先生の原稿は、横断的な特集の難しさを反映してか、この種の特集冒頭の記事としてはやや長めな気が。法主体という言葉の意義についての考察が個人的には興味深い。
    柳井先生の原稿は、法主体に関する憲法上の論点に関する最近の動きの概観というところか。もっと色々書けるだろうけど紙幅の制約からこういう感じになるのは仕方がないのだろう。
    小畑先生の原稿は、無国籍者・難民をめぐる状況について。救済の必要性が説かれていても、個人的には肚落ちしなかった。何故救済が現状でなされていないのかについての分析が見えてこなかったのが理由かもしれない。
    仮屋先生の原稿は、デジタル遺品に関する部分が、自分についても気になるところなので、特に興味深かった。こちらのblogとかツイッターとかどうなるんだろうという気もしているので(気にするほどの中身はないのだが)。
    長塚先生の原稿は、ありそうにみえる設例(youtubeのご自身のチャンネルがあるのがすごい)から展開される議論が具体的に思われて、読んでいて面白かった。
    西上先生の原稿は、行政事件訴訟、特に抗告訴訟において、「公益」を実現する法主体についての検討。末尾に記載された抗告訴訟の主体について、現状の理解よりもひろげて考える可能性については、納得するところ。
    稲谷先生の原稿は、刑事法における責任主義のモデルと現実との間に生じつつあるギャップについての分析。直ちに賛成して良いのかよくわからないところもあったが、問題点の所在は理解できたような気がする。
    特集は、現代の実際の問題から法主体の問題について横断的に論じるもので、それぞれについては問題の概観程度ではあったものの、個人的には興味深かった。