道具との向き合い方について

今後はさておき現時点でのメモ。

 

所謂AIを使った契約書の審査についてのこちらの意見をメモしてみる*1。現時点の意見で今後は意見が変わるかもしれない。それと、個人としての見解であり*2、勤務先でこの種の道具の採否とは必ずしも一致するわけではないことをあらかじめ付言しておく。

 

現状の所謂AIを使った契約書の審査の道具は、何らかの基準に照らして、契約書に特定の条項があるかないか、ということの洗い出しが主眼のように思われる。そのうえで、抜け漏れのある部分について、手元のストックから条項を提案するというところと理解する。当然のことながら、自社と相手先との関係を踏まえて、何が最善かということを提示することが、最初から出来るわけではない。過去の蓄積を学習することが出来るというが、過去から学習できることには限度があるのは間違いなく、まったく新しいことに対しては、学習のやり様があるとは見受けられない。その意味では、結局人間側が契約書の審査をしなくてもよくなるという状態をもたらすことは、現状の延長線上にあるようには見受けられない。

 

そういう状況にある道具に慣れ切って、契約書の審査をする能力が落ちてしまったら、未知の契約が来た時の対応能力が落ちるのではないかと懸念する。要するに莫迦になるのではないかと懸念するところである。そうした懸念に対して、何らかの手当てがなされればよいのだろうが、とりあえず現時点でこちらの見えている範囲には、こちらの理解可能、納得可能なものは見受けられない*3

 

自分が部署の責任者になって、自分がいきなり契約書のチェックをすることが減ったこともあり、契約書のチェックとかドラフティングとかはやり続けないと勘が鈍るということは痛感する。そういう意味で勘を鈍らせるだけになるのは危険と感じる。もちろん、そうした危険も費用と見て、その費用を上回る効用が得られれば、選択するのもあり得る判断と考えるが、そこまでの効用が見受けられる気がしない*4。それが故に、個人としてはあの手の道具を使うことについて、積極的になる気がしない。

 

*1:どこぞの営業活動の無礼さ加減に辟易していることもあり、積極的に情報を摂取しているわけではないので、事実誤認などが含まれる可能性があるのは否定できない。その場合は、適宜の手段でご指摘をいただけるとありがたい。

*2:当然のことながら、異論(特にその手の技術系企業に縁のある方々からは異論があるだろう。)があることは言うまでもない。

*3:反面で、こうした審査だけではなく電子契約の締結まで、プロセス全部を電子化している事例にも接したが、ある種の腹決めが出来て、リソースのあるところであればできるが、そうでもない企業の方が多いのではないかと感じる。全社のリソース配分の中で法務のためのシステムの整備構築及びその維持が正当化可能な状況がどこまであるかという問題があり、自部署の利益だけを考えてよい話かという疑問を覚える。こちらの現職について言えば、リソースは足りないし、そんなものがあるなら、他に振り向けるべきと考える。組織変更とか多いと維持にもコストがかかるし、そこまで考えたうえで、正当化できるか疑問がある。

*4:実質論とは別に、その種の道具を使っていることで、所謂DXの波に乗っているという形を示すというのも、特に社内政治の文脈ではあり得る判断だろう。個人として好みではないだけで。