法学教室2021年3月号

いつものとおり、呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言の記憶媒体についての松下先生のエッセイは、ワープロ専用機時代を知る(初職の最初の勤務地では書院が使われていたのを思い出す)者としては、懐かしくも納得。
  • 法学のアントレは、質問しやすい雰囲気の醸成の重要性や、聴き手の非言語的なフィードバックの重要性については、納得するところ。
  • 自治体現場で活かす法学は、港湾行政で民法の規定がどうつかわれるかの説明が面白い。埋立地の売買で買戻し特約が使われる事例とかそういう事例があるなんて想像すらできなかった。
  • 新型コロナウイルス感染症と法の役割の特集は、現下の様々な状況に対して法学の各分野からどういう分析ができるか、という話のように見える。 
    最初は行政法から、感染症法・特措法の今般の改正についての速報的な問題点の整理。こちらが違和感を覚えたところがカバーされていて良かった。
    民法は、事情変更法理の使われ方についての指摘が面白かったし、個人的には指摘に同意。また、将来への展望についての記載も納得できるところだった。
    商法はコーポレートガバナンス周りの鳥瞰が興味深かった。バーチャル総会とかの話に目が行きがちあったので、開示周りの話が特に興味深かった。
    国際法は、WHOのCovid-19についての緊急事態宣言の遅れを正当化しうる議論が、政治的な駆け引きも含まれていて興味深い。
    労働法のテレワークについての議論は面白いのだけど、自宅でのテレワークに伴う費用の負担とかどうなるんだろうという気もした(会社負担とすべきと思うが。)。設備とか投資しなくても電気代とか通信費はかかっているから。
    憲法のところは、ハンセン病への差別の教訓が生かされていないのではないかという指摘には納得。
    法哲学のところは、費用便益分析に対する契約主義からの批判に共感した。契約主義で出てくる用語はややわかりづらかったけど。
    特集は現状のいくつかの側面について、各分野からどう見えるかを論じたものとして興味深かったけど、手続法の問題として、感染症禍の下での民事裁判におけるIT化の進展とか、刑事裁判、特に裁判員裁判の遅延の問題点とかそううあたりも取り上げてほしかったような気がした。
  • 労契法20条と最高裁5判決の記事は、ジュリストの特集(こっちも読まないと)ともつながる内容で、5判決の鳥瞰が分かりやすかった。職種転換の可能性の扱い方について違和感を覚えたところが指摘されていたのは、なんとなく嬉しかった。
  • 講座。憲法。国家によって把握されない権利が議論されることが多い中、国家によって「正しく把握される」権利について、問題が生じる事例とともに解説しているは、興味深く面白かった。気になったのは、特別定額給付金のDV被害者で別居している女性(非世帯主)に対する給付については、一応、総務省側も一定の手当てを試みた点にも言及があった方がよかったのではなかろうか(それが十分だったかどうかは別論があると思うけど)。
    行政法。損失補償、国家補償の谷間の話。補償範囲の話は、何だか不明確という印象が残る(受験生時代も思っていたけど)。
    民法。無効・取消の効果。諸々のつじつまの合わせ方が、興味深い。
    会社法。「効力が生じた日」についての立案担当者の解釈に対する異論(個人的には著者の説に賛成)が面白い。また、事前備置書類の不備が組織再編行為の無効事由になり得る理由の解説も個人的には納得するところ。
    民訴。安定の押し付けがましさと、理想気体並みにあり得ない学生の賢さを無視すれば、確かに面白い。事案解明義務の話は、そういう議論が出る理由は理解でkいるとしても、そもそも条文上正当化可能なのかどうか(2条とかで行くのかな)よくわからないという印象が残った。
    刑法。問題への対応の仕方について法科大学院の先生方が議論をするというのを見ることが少ないので、興味深い。判例・裁判例から相場観のようなものを養えという指摘には納得。そうしないと答案が明後日方向に行っていても気づきにくいし。
    刑訴。録音録画の証拠としての使い方の回だけど、実質証拠としての使用とか、ホントに許容していいのか、疑問が残った。そういう使用を想定するとなるとB側はは全部録音録画されたものを確認する必要があるわけで、そうなると、手間がすごくなるような(国選であっても、きっと複数選任とかになるだろうけど)
  • 演習。憲法町村総会の話は、憲法の描く民主主義像との関係についての記載は個人的には興味深かった。
    行政法。公文書とかのあたりの話だけど、文書の不存在の議論の前提として、文書を作成する義務とかを一定の場合には課すべきなんではなかろうかと、ここ数年の諸々を振り返って、思ったりした。作成しないで逃げるみたいなことを防ぐ意味で。
    民法。177条に関する2つの大審院判決について。学説の整理をみて、そんな学説あるんだ...と思ったものもいくつか(汗)。学説に深入りを避けた勉強に終始した帰結なのだろうが。
    商法。商業登記の効力関係の話。登記と外観法理との関係は、結果の妥当性を考えれば、納得。
    民訴。当事者確定とか訴えの主観的予備的併合とかそのあたり。実際この辺りが問題になる事案にまだ接したことがないので、まあ、そうなるんだろうなとしか言いようがない。
    刑法。公務執行妨害罪について。複数の公務員が異なる役割で関与する場合は、どの公務員の行為が強制力を有する権力的な公務なのか、注意が必要という指摘が印象に残った。
    刑訴。違法収集証拠排除の話。アメリカでの解釈との差異の指摘が個人的には印象に残った。
  • 判例セレクト。憲法。地方議会の出席停止処分と司法審査の判例は、判例変更がされていたのを知らなかった(汗)。そうなると指摘されているように確かにこの判例の射程が気になるところ。引用されている限りでは必ずしも明確ではないようにも見えるし。
    行政法憲法と同じ判例について、地方議会議員に対する出席停止の処分性を認めた部分を取り上げている。議員としての中核的な活動を制限するから処分という判示については、議員としての中核的な活動の範囲が気になるところ。
    商法。全部取得条項付種類株式を利用したキャッシュアウトで、筆頭株主が完全親子会社関係を作ることに新たなシナジーがないという認定については、何らかのメリットがあるからやっているはずなのに、指摘されているように、引用されている判旨部分からではその認定になる理屈が良くわからない。
    民訴その1。破産法の相殺禁止の例外の話なんだけど、相殺の合理的期待の保護は理解できるんだけど、相殺期待が合理的かどうかの判断基準が、分かるようでわからないので、いまいち釈然としない気がする。
    民訴その2。弁論の分離禁止を理由に、本訴請求債権を自働債権とする相殺抗弁を反訴で提出することを142条の趣旨に反しない、としたもの。弁論の分離禁止が実体法的観点から導かれるという指摘だけど、請負代金と瑕疵修補に代わる損害賠償債権という事案なので結論は妥当だと思うものの、その考え方が及ぶ射程が気になる。
    刑法。追突した相手車両が暴走して致傷が生じたことについて刑法上の因果関係を認めたものは、追突されればパニックになるのが通常だろうから、理解し易い気がした。
    刑訴。協議・合意関係文書の類型証拠該当性についての判断だけど、事案次第では該当することもあるんだろうなと思うけど、こちらの経験不足で正直よくわからなかった。