月刊法学教室 2023年 06 月号

例によって一通り目を通したので、呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言の契約または債務の「本旨」とはなにか、については「本旨」の意味について立法時に遡った解説や600条についての立法時の議論をなるほどと思いながら読む。
  • 法学のアントレはフランス法の教室から。フランスでは物権法定主義が民法典の条文にない、など大陸法と言っても色々違うということの一端を見ることができたのが印象的だった。
  • 学校をホウガクするは、いじめ。現状の対応の難しさが感じられるような気がした。いじめの定義自体が曖昧模糊としているので、いっそのこと定義自体を廃して大人向けの刑法の概念で対応したほうがむしろ良いのではないかとも思うのだが、正直よくわからない。
  • 特集1は民法研究の最前線から学ぶ。冒頭の森田先生の原稿を見ると、10月から不法行為について判例を素材とした連載が予定されている旨の記載があるのに気づく。
    山城先生の契約の解釈における表示の意義は、こちらのような無学な人間には読むのが大変だった。「契約書が作成されるときには、当事者は、契約書に則って契約を締結する意思を有するのが通常である。」という記載についてはここまで言い切れるかは個人的には疑問。営業担当者の話からすれば、単なる物品の売買なのに、当該案件の契約書として送られてくるのが請負の契約書だったりするような事例もときおり見るので(汗
    契約の解除と価額償還義務については、牽連性説と債務独立節と説明されるが、前者で考えていて、後者については認識していなかった(汗)。
    債務不履行に基づく費用賠償については、幸か不幸か、損害賠償案件で費用賠償の問題になった事例にあまり行き当たったことがなく、このあたりをきちんと考えたことがなかった。
    債権者の共同担保に関する流動性については、責任財産という考え方については接したことはあるものの、共同担保については、知らなかった。
    双務契約上の債務の牽連性と相殺の担保的機能については、知っていそうな内容に見えたがそうでもなかった。相殺の担保的機能の正当化の論理としてドイツ法由来の相殺期待があるのは認識していたが、フランス法由来の法的牽連性の議論は認識できていなかった。
    特集は研究の最前線の議論の紹介なので、こちらが知らない話があっても不思議ではないのかもしれないが、それにしても知らないことが多いなと嘆息する。とはいえ、最前線の議論の紹介は面白かった。
  • 2つ目の特集は法学部生のための文章力ステップアップ。対談は、学部生に教える先生ならこういうことを言うんだろうなという感じ。言われているような内容を一切学ばないまま学部生を終えた身にとっては耳が痛いというかなんというか。
    特集のコラムは就活で書く文章についてのもの。就活の自己アピールなんか適当に文章をノリと勢いででっち上げた身からすると、今時の学生の方々は大変だなとお見舞い申し上げる次第。
  • 講座。
    憲法日弁連の特別会費徴収決議が素材となっている。この事例については認識してなかった。判断枠組みについて2段階審査型と1段階審査型とあるのも知らなかった(汗)。
    行政法は、行政活動の主体と組織。辺野古埋立承認撤回事件。機関訴訟については不勉強で、話についていききれなかったが、最判の問題点の指摘が興味深かった。国の行為についてどこかで異議申立ができないのは不当な気がした。
    会社法は、株主総会の意思決定権限。日本の会社法での会社の意思決定権限の所在が、米独との比較では異質であり、それが日本の歴史の反映ではないかという指摘は興味深い。最後に書かれている著者の意見については、直ちにはなんとも言えない気がした。
    民訴は判決の言渡しと旧判決の執行力。決定と命令の違いとか分かってなかった(汗)。
    刑法は過失犯における結果回避義務。組織が関連する過失事件について、段階にわけて考える考え方自体は分かりやすいが、中間管理職が上司に進言する義務について学説で批判がある点は納得。
    刑訴は公判中心主義。公判中心主義の意義を確保するために公訴提起の為に求められる嫌疑の水準を下げるというのは論理としては理解できなくないものの、実際にそれがゆえに従前であれば提起されていないはずの公訴提起されてしまう目にあう人が出ることを考えると直ちには賛成しづらいものを感じる。
  • 演習。
    憲法は性暴力等での処分歴のある教員の免許再授与についての合憲性とか。なぜこの判断枠組みで合憲性を判断すべきなのかという点が正直よくわからない気がした。単にこちらが合憲性判断枠組みの必要性それ自体について腹落ちしていないからそう感じるのかもしれないが。
    行政法は法律による行政と緊急避難ということで、教科書の最初の方に出てくる某事件がネタの模様。他人の財物を強制撤去する行為は、財産的価値が極めて乏しい場合を除き、原則として侵害行為に当たるという感覚の重要性と説いているのは重要と感じた。
    民法は遺言による不動産所有権の取得と第三者対抗要件というあたり。2018年改正の899条の2第1項で従前の判例法理の修正が図られている点は知らなかった。親族相続はやはり手薄になっていると実感する(それ以外のところが足りているわけではないのだが...(汗))。
    商法は株主提案権や株主の総会出席の意義とか総会における議決権行使の取扱いとか。議決権行使の取り扱い辺りは、先般の某スーパーの事件の判旨を参照しているように見受けられるが、その点の指摘はみあたらなかったように思うが、仮に参照したのであればその旨指摘すべきだったのでは?と感じた。
    民訴は合意管轄とか移送とかのあたり。管轄権の有無の前に本案請求の理由がないことが明らかな場合に、直ちに請求棄却判決をすべきではないという点については、なるほどと思う。個人的には上訴のことは失念しやすい気がする。
    刑法は業務上過失の認定方法について。過失認定の核心は「被告人が注意深く危険を予測していれば結果発生の予見に至り得たのかどうか」だという指摘はなるほどと思うが、反面でじゃあそれはどうやって認定するのかという気もしてなんだか微妙。
    刑訴は強制処分と付随的措置、強制採尿のための連行というあたり。検察側から想定可能な主張と弁護側からの想定可能な主張と双方に言及があるのがよいと感じた。
  • 判例セレクト。
    憲法の市庁舎前広場の集会目的使用の不許可については、紹介されている判旨は形式的に過ぎる感があり、紹介されている宇賀反対意見や解説での批判の方に説得力を感じる。
    行政法の裁定的関与における処分庁側からの抗告訴訟の可否については、解説で述べられている解決を立法にゆだねる裁判所の対応が適切なのか疑問。行政府及び政権与党が立法不作為を続けることにインセンティブがあるときに救いがなくなるような気がするので。
    商法の役員報酬支払と分配可能額規制の実質的潜脱及び事実上の取締役の任務懈怠責任については、債務超過会社における役員報酬支払が分配可能額規制の実質的潜脱となり得ることの説明が不十分という解説の指摘になるほどと思う。
    刑法の刑務所に入所する目的と不法領得の意思については、解説の最後で出てくる小林憲太郎先生の利用処分意思についての解釈に驚く。そう来るかと。
    刑訴の警察内部の事情聴取における黙秘権不告知と自白の任意性・信用性については、参考人と被疑者の間の境界線がどこにあるのか判断が難しいなと感じた。