月刊法学教室 2023年 12 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きで感想をメモ。

  • 巻頭言は、言いたいことは理解可能ではあるが、上場しているからガバナンスが効く、してないから効かないみたいと単純な二分法で論じているようにも見えるが、そういうsimpleな話ではないと思う。
  • 法学のアントレは法学×文化芸術。こういう文章は法学教室であまり見た記憶がないなと感じた。
  • 学校をホウガクする、はスクールローヤーについて。学校全体の支援と個別案件での支援の間の関係の整理は難しそうに思われる。
  • 特集は刑事手続法の動向。川出先生のイントロに続き個人情報の取得と利用。横断的なプライバシー保護を考える必要性の指摘に納得。
    取調べの録音録画と弁護人の立会いは、立会いをする側の負担を考えると、単純に立会いできれば良いという話ではないのではないかと感じる。
    被疑者・被告人の逃亡防止は、確信犯相手だとどこまで実効性があるかに疑問。ないよりはましだろうけど。
    協議・合意制度は、第1号事案での「トカゲのしっぽ切り」になったことへの批判は納得。脚注17であるように、法務省はそういうことは通常考えにくいとしていたというのは知らなかった。
    再審法制は、やはり、何らかの形で見直しが必要だろう。検察の手持ち証拠開示については、再審に限らず必須とすべきとは思う。
    特集は、キャッチーな?内容が多かったので、民訴とかよりはとっつき易い印象だった(どこまで理解できたかはさておき)。
  • 新法解説。
    刑法に係る改正事項は、被害者救済の重要性は理解するものの、不同意に関する部分は構成要件として十分明確なのか、冤罪リスクが否定できないのではないかという疑念は残る。利益原則はどこに行ったのかという気がする。
    刑訴に関する改正事項も、性犯罪被害者救済からすれば、被疑者・被告人の防御がしづらくなる部分が出るのかもしれないが、やむを得ないのだろう。
  • 講座。
    憲法の性同一障害特例法の件(詳細略)は、特例法や判例の概観から始まる解説が、答案の書き方を意識した構成になっていて、分かり易く感じた。
    行政法の行政指導については、ローエコ的な分析が出てきたのにやや驚く。他国との比較での指摘は興味深いが指摘された差異がなぜ生じたのかが気になった。分析が見てみたいかも。
    民法判例における差額説とその修正については、提示された複数の最判を整合的に理解しようとすると解説にあるような理解の仕方になるのだろうとは思うものの、その内容が妥当かというとどうかなという気がした。不法行為時点で損害が確定してるなら、逸出利益については事後的な事情を勘案せず、介護費用のようなものでは勘案するという区別をする理由が腹落ちしない気がした。
    (そういえば会社法の連載は休載とある。楽しみにして拝読していた者としては残念な限りで、早期の再開を願う)
    民訴。脚注が多くて読みづらい。最後の「重複訴訟の処理」のところの議論は通説とは異なるかもしれないが、説得力を感じる議論だった。
    刑法。詐欺(未遂)罪の承継的共同正犯。学説の整理は、どこまで理解できたかはさておき、分かり易く感じた。
    刑訴。捜査の構造。捜査構造論をまだ議論する価値があるのか、「これからの課題」の箇所で指摘されている内容からすれば、無理に維持しなくてもいいのではないかという気がしたけど、どうなんだろう。
  • 演習。
    憲法衆議院の解散の制限について。統治機構についての議論が議論当時の政治状況を反映しているという指摘には納得。
    行政法都市計画法の構造が面倒くさいと感じる(汗
    民法。承諾転貸と賃貸借の解除のあたり。賃貸借契約解除後の扱いは、妥当なのかは疑義がありそうな気がするが、万人が納得する形の落ち着きどころがあるのかわからないので、判例の決着の仕方でもやむを得ないのかもしれない。
    商法。設問事例が株式割当てに該当するかどうかの分析について記載がないようなので、なんだか釈然としない。
    民訴。補助参加。要件論にしても参加的効力の客観的範囲にしても何だかもやっとした感じがした。
    刑法。建造物損壊か器物損壊かみたいな話。最後に出てきた団藤先生の説に面喰う。
    刑訴。伝聞法則とか発言時の精神状態に関する供述とか。非伝聞か伝聞証拠だけど伝聞法則の適用外か、というような話がでてきて混乱する。
  • 判例の動き。
    憲法は毛利先生の裁判所に対する批判的なスタンスが興味深い。
    行政法は紹介に徹する感じで対照的。
    民法最判のみ(民訴も同じ)。最判だけで判例の動きが概観できるのかよくわからない。R4.12.12が長めに紹介されているが、改めていい解決策だったのか疑問が残る判断と感じた。
    商法、という割に会社法の話しかないが、それでいいのか。学習上の参考になるかという判断基準が明示されているのが興味深い。
    民訴は逆に執行や倒産処理、人訴・家事まで目配りをしているのが興味深い。選び方については、担当者の裁量が広いということか。
    刑法。インパクトのある事件はさすがに覚えているな。個人的には「住居侵入罪の既遂時期」の件の印象が強かった。
    刑訴。最高裁と下級審で分けて紹介しているのは納得。
  • 判例セレクト。
    憲法の受刑者の選挙権を一律に制限する公職選挙法の合法性の件は、解説末尾での評者の批判に賛成。
    民法破産管財人による債務の承認と消滅時効の中断については、まあ、そうなるだろうなと思う。
    商法の米国会計基準違反における取締役・執行役の対か社責任については、解説2での批判2つに共に賛成。
    刑法の無差別放火殺人における実行の着手については、殺害対象の認定についての解説での批判に納得。
    刑訴法の保釈保証金一部没取決定に対する再度の抗告の可否については、あきらめずに再度の抗告を弁護人がするのが凄いと感じた。