月刊法学教室 2021年 12 月号

例によって呟いたことを基に箇条書きでメモ。

  • 巻頭言。在留外国人の地方参政権の問題は1993年の頃から指摘されていて、そこからあまり進歩していないように見えるのに驚く。
  • 法学のアントレは法務文書のアントレである前文について。前文の位置づけについて「祝福」と「拒絶」という表現が用いられているのが興味深い。
  • 外国法はイスラーム法。近代化の一環としてのイスラーム法学と現代金融事情との接合としてイスラーム金融が出てきた事情が興味深いけど、イスラームの教えを知らないので、分からないところが多い。
  • 特集1。
    市役所の方の記事はやはり条例規則の改正の話が興味深い。訴訟になった場合に外部弁護士と所管課との橋渡しを法制課がしているというのも、企業内法務と同様のところがあるな、と思って興味深く読んだ。
    県庁の方の記事でも条例改正に関する部分は同様に興味深い。また、法制執務のすすめは、別のところでも接したが、やはりちょっとは何かを読んでみようかなと思ったりする。
    国交省の方の記事は確かに振れ幅の大きい職務経歴でそれ自体興味深いが、民法の学習経験が政策立案における現状分析などに役立つという指摘は面白い。市・県の方が末尾に宣伝のコラムをいれているのに、それがないという対比も印象的。
    労働基準監督官の方の記事は、キャリアパスのありよう(定着する場所が前提となっているのが面白い)とか司法警察業務の内容とかが興味深かった。
    国税専門官の方の記事は志望動機に唯一の歳入官庁として国の財政を支えるという明確な使命を描きやすかったという下りがなるほど、こういう見方もあるのかと思った。
    書記官の方の記事は、家事調停における電話会議システム導入についての体験談が興味深い。まあ、そういうあたりを気にしないといけないんだろうなというあたりが言及されていた。
    家裁調査官の方の記事は、法が道標になっているという点は納得するところだし、法律的な考え方が当たり前ではないという指摘も職責上接する方々の状況からすればそうなんだろうな、と感じた。
    刑務官の方の記事は、未決拘留者の控訴の扱いについての話が、扱いを間違うと洒落にならないという意味でどきっとした。
    この特集は、学生の方に公務員で法律の知識を活かせるということを広く示して、選択肢の存在を知らせる上では良いのではないかと思った。えきなん先生ではないが、研修体制がしっかりして、WLBもしっかりとれる公務員(例外はあれど)は、考えるべき選択肢なのだろう。
  • 特集2。
    取り上げる判例の原文などへのリンクがある辺りは今どきと感心。亀井先生の文章は最後のちゃぶ台返しが面白い。気になったのは、調査官解説がジュリストに載るとされている点。「時の判例」は調査官が書くけど、調査官解説と言って良いの?と疑問。内容的には調査官解説の簡略版だろうとは思うけれど。
    インスリン不投与事件判例の記事は、1審、2審の判決文は量が多くて読むのは断念したが上告趣意の読み方が興味深かった。
    ゴルフ場の2事件は、司法試験受験当時に詐欺罪が出るのではないかという噂と共に、両事件とも調査官解説を読んで比較をしたのを思い出した。
    特集は、想定読者層への解説としては丁寧で良いのではないかと思うけど、扱われる事件が刑事ばかりというのが適切なのかというところはちょっと気になった。
  • 佐久間先生の新法解説は、改正法の日弁連のwebinar(一部音声が途切れました)を受講した後ということもありわかりやすく感じた。民法209条の請求権構成が他の目的での隣地使用の規定とのバランスを欠くという指摘は、なるほどと思った。
  • 講座。
    憲法は学問の自由。最近の動きのまとめがわかりやすく感じた。教育内容の適否判断で出てくる同僚原理に対しては、教員人事の自治のところで出てくる教授会自治論への批判が妥当しないのか、という点が気になった。同僚原理の中にいる全員がそろって腐敗したりしないのかという疑問になるが。
    行政法。行政契約はあまりちゃんと学んだ記憶がないが、なるほどというところ。過去の勤務先で公害防止協定とかあったけど、内容は紳士協定と思っていたがそうとも言い切れないのはやや驚いた。
    民法家族法)。著者がかつて接した、夫婦別姓が通ると日本は革命直後のソ連のようになる、などの言説にまず驚く。次に氏の比較法は圧巻という感じだった。今後の氏のあり方についての指摘は納得。いずれにしても泰斗の記事は一味違う。
    会社法は計算、自己株式の取得。特定株主からの自己株取得に際しての手続き違反で会社に生じた損害についての議論で、自己株式の価値をゼロとみる議論に一瞬面食らうが、解説を見て一理あるなと納得。ファイナンスの議論に即せばそうなるというのも理解可能。賛成していいのかは自信がないが。分配可能額規制違反の自己株式の取得の効力については、相手方が違反に善意の時に効力自体まで否定する必要はない(別途462条責任は追及する前提で、それが出来れば足りるはず)という気がするので、挙げられている説では有効説でよいのではないかという気がしている。
    民訴。知的好奇心を刺激するかどうかは読者が決めること(恒例)。上訴と再審の回。「経験則違反の事実認定も、自由心証主義(247条)の内在的制約に反するので、上告受理理由となる」というのは、分かるようでわからないという印象。幸か不幸か最高裁まで行く事案に遭遇したことはないのだが。
    刑法。正当防衛に関する議論のうち、やむを得ずにした行為の要件について。後知恵的な議論を如何に排除するかというところが重要なのだろうと感じた。それにしても著者の反対説への批判の向け方は不用意に強いのではないかと感じた(著者の議論が弱く見えかねない気がした)。
  • 演習。
    憲法薬事法判決の読み方についての解説がわかりやすいが、いずれにしても、読み方が難しいと感じる。
    行政法。訴えの利益の一般論について、時の経過とともに訴えの利益の有無が変化する点の解説が個人的にはわかりやすかった。
    民法。契約不適合責任や危険負担と契約解除について、改正前後の比較も踏まえた解説。どうしても混乱しがちなので、こういう記事は個人的にはありがたい。
    商法。あの大河ドラマ演習が途切れて普通の(謎)演習になっている。何だか残念。分配可能額の計算方法をすっかり忘れていたので焦る(汗)。まあ、分配可能額を自分で計算することは、企業内法務でどこまであるかというとあまりないと思うから、実害はないかもしれない。
    民訴。補助参加。補助参加の効力についての設問に対する分析は、理解はできる気がするけど、ホントにこんなの裁判所で通るのかという疑問が残る。
    刑法。各種の罪における手段としての暴行・脅迫について解説。横断的に見てみると差異がわかりやすくて良いと感じた。
    刑訴。顔貌鑑定の関連性、純粋補助事実と関連性、類似事実と主観的要件の立証、というあたりを事例を使って説明。最後の点の解説は、そういえばそういう話しあったよねという程度なので、使わない知識は抜けると感じる。仕方ないのだが。
  • 判例セレクトの判例の動き。判例セレクトの判例の動きは、司法試験前に、重版とかをカバーする余裕がなかったときに、その簡易版としてチェックしていたことを思い出す。
    憲法。53条後段要求に対して臨時会召集決定がなされないことの合憲性を争う訴訟判決についての毛利先生の問題提起に共感。裁判所が国の統治機構違憲状態を是正できなくていいはずがない。
    行政法。あらためて読んでみると、建設アスベスト訴訟の判決での一人親方の件が興味深く感じた。
    民法も建設アスベストの件の立証責任の扱い方が印象に残る。
    商法は、少数株主が招集した株主総会の開催禁止の仮処分の事案が印象に残っている。結構色々揉めていた件のようなので。
    民訴も建設アスベストの事件の立証方法についての事件についての記載が、改めて読むと、興味を覚えた。結論の妥当性の観点からは認められるとは思うけど、反論をどうやってするのかという疑問が残った。
    刑法では、インターネットアダルトサイトの管理運営者に投稿者との共謀によるわいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪などを認めた事案で黙示の意思連絡を認めた事例が興味深かった。まあそうなるだろうなという事案ではあったが。
    刑訴は、刑法における上記の事件について、国境をまたぐ事件での手続的正義をどこまで確保すべきかという点で興味を覚えた。
  • 判例セレクトの今月分。
    憲法の「表現の不自由展かんさい」利用承認取り消しの効力停止決定。判断としてはそりゃそうだろうという印象。不当なクレームに屈して会場が使用不能になるようでは表現の自由の確保は覚束ないし、公的な施設がそのような結果に加担するのが許容されるとは思えないし。
    行政法憲法と同じ事件を採り上げている。管理者側の対応を裁判所が問題視したという指摘や、管理者側に公の施設としての使命を達成できるよう注意を尽くして判断すべき義務を認めた東京地裁判決H21.3.24(判時2046.90)を指摘している点は興味深い。
    商法の、事業活動の期待できない株式会社の解散事由は、事案からすれば解散が認められてもおかしくないけど、結論として解散を認めた論理についての分析が面白い。個人的にはそもそも問題の会社を作るときに当事者がもっと色々と考えないといけなかったのではないかという気がするが...。
    民訴。遺言有効確認の訴えが信義則に違反しないものとした事例。解説で指摘されているように前訴で原告が反訴で利益を受けていないことを判旨で指摘している部分は確かに興味深い。
    刑法。住宅の敷地と住居侵入罪の客体。判旨で示されている内容からすると、事件概要の欄で図示されているトタン塀が大きすぎるのではないかという気がした。
    刑訴。違法収集証拠の主張があった場合の収集手続の違法の判断については、違法収集証拠の主張があった場合には、収集手続における違法の存否を確定させる必要があるというのは、違法収集されたとされる証拠が本件のように重要なときは納得だけど、あらゆる証拠について適用されるのか疑問に思った。