法学教室2021年1月号

例によって呟いたことを基にメモ。

  • 今回は、法学だって仕事に活かせるという特集から。ある種自明にも感じるテーマが特集になることに何とも微妙な気分になるが、それはこちらの馬齢ゆえのことと考える。
    最初の対談は、企業の人事担当役員と労働法学者との対談。法学部で培われるはずの論理的思考力などの有用性への指摘は理解できるが、法学部を出た僕に学部卒業時点でそれがあったかは疑問(こちらが政治系ということもあるが)。
    みずほFGの人事の方のコメント。非法学部卒の方ではあるが、自社のアピールと共に、金融業の中での法学部卒の優位性を示してくれていて、卒のない印象。
    プリマハムの人事の方のコメント。「言葉に強い」という点を法学部卒の優位性として挙げていることが興味深い。みずほの方が実務で接点のある法律知識に焦点を当てていたのとは対照的にも映るが、それは学部で学ぶ科目と業務との距離感の差異によるものか。
    西武HDの採用担当の方のコメントは、みずほとプリマハムとの中間的な印象。サービス向上の基準としての法学という視点は興味深い。ドコモの人事の方のコメントは、温故知新をもとにやり遂げる力(過去の判例とかを調べたうえで新しいことを実行する能力というところか)に着目しているのが面白い。
    隣接分野からのコメントのうち、司法・犯罪心理学分野の方からのコメントは、人権感覚への期待は理解しやすいと感じた。また、司法試験挫折組の対人支援職への転身についての記載は興味深い。
    隣接分野からのコメントのもう一つは労働経済学分野から*1。法律を体系的に学ぶことに着目しているのが印象的。それと、病理と生理を学ぶことの重要性の指摘も納得。 
  • 巻頭言。4大会計事務所でも見抜けなかった会計不正の話だが、内部統制とかと同じで経営トップの絡む不正は見抜きづらいということなのだろうか。取り上げている事件を知らないので、記事だけ読んでもよくわからなかった。
  • 法学のアントレ。授業における質問の意義についてのコメントが興味深いが、あくまでも教員視点でのコメントと感じる。一コマにかけられる時間が多くない学生の視点で見たら見え方はどうなるだろうか、と疑問に感じた。昨今の情勢からすれば学費をアルバイトで稼いでいる方とかも相応におられるだろうし。
  • 自治体現場で(以下略)は、特集と地続きともいえる内容で、地方公務員にとっての法学の解説が興味深い。行政法には強くなるが、民法とかはそうでもないというのは、まあそうなんだろうな、と。
  • 法学教室プレイバックは刑法分野。木村先生の前田先生推し(という表現が良いかどうかはさておき)には、やや驚く。弟子だからというのは理解しているとしても。
  • 黒い雨訴訟の記事は、黒い雨と被爆との関係が、途中まで読み取りづらかったという印象。
  • 地方議会と長の関係については、これまで意識してみたことがなかったし、議院内閣制との差異も認識していなかったので、なるほどと思いながら読んだ。
  • 講座。憲法は、幸福追求権の学説の整理を見ると、長谷部先生の説の異質さが目立つ気がした。「切り札」としての権利、という表現はなんとなくカッコいい気はするけど(謎)。
    行政法。国賠法1条1項の違法について、2つの説が別れている理由とかが何かあるのかなと気になった。比較して違法一元説の方が妥当という議論は納得するにしても。
    民法。企業内法務でも今の弁護士実務でも弁済による代位の話に接したことがないので、どうもわかりづらい。ある種の権利関係の調整の問題、つじつまの合わせ方の問題という理解の仕方しかできない。金融周りの法務をしたことがないから、どうしてもこのあたりは手薄なままになってしまう。
    会社法。司法試験的な事例だなと思うとともに、この事例ならそうなるよね、という印象。ただ、乙社が反社とまでは言えないにしても素性に疑義があるような会社だったりしたらどうなんだろうと思ったりしたのだった。
    民訴。外国の法規との関係で、証拠調べを尽くしてもその内容が不明のときの扱いについての解説がやや微妙な気がした。最後に条理を使って判断したのであれば、『裁判所は、「法令の内容が分からない」ということはできない』ということにはならないのではないか。おそらく、件の記載でいいたかったのは、法令の内容が不明であっても、当該法令に基づき下されるべき判断を裁判所がしないことは正当化されない、ということなのではなかろうか。
    刑法。銀行預金と財産犯についてだけど、場面により預金の扱い方が異なるように見えるが、やはりわかりにくいと感じる。それぞれの場面ごとの理由付けはわかるのだけど。
    刑訴の講座は休み(またか)。
  • 演習。憲法は、臨時会召集について。個人的には召集の要件を具備しているのにいつまでも召集しない内閣に対する制裁があるべきと思うのだが…と思いつつ読む。
    行政法新型インフル対策についての話と設定されているけど、当然現下の状況を考えつつ読む(感染法上の扱いが異なるので、同じ話にはならないが)。
    民法。例によって無権代理・他人物売買について丹念に解説がされている。
    商法。不公正発行のところで、株主が不利益を受けるおそれのところは、この事案の程度でも認められるおそれがあるか、と思ったが解説を見て一応納得。
    民訴。既判力と一部請求、相殺というあたりで、未だに、どうだったっけ?と迷うので良い復習になる。
    刑法。占有の限界的な事例についての話。某ポシェット事件とかを当然ながら思い出す。
    刑訴。自白獲得後に自白を得る際に使用した証拠が虚偽だと分かった場合の扱いは、納得。機械的に排除というわけにも行かないだろうし。
  • 判例セレクト。憲法は演習と同じく臨時会召集の懈怠についてのもの。合憲性判断に踏み込んでないのは、消極主義からすればやむなしというところがあるのかもしれないが、記事で批判されているように、残念な気がする。
    行政法。判断代置っぽい判示にみえるけど、それでいいのかというと疑義があるという指摘に納得。
    民法。相殺期待が合理的かどうか、対象となった各契約の相互関係が記事の記載からではよくわからないので、今一つよくわからない気がした。
    民法のもう一件は、プライバシー侵害で比較衡量のあてはめの部分の問題のようで、事例判断としてはそうなるんだろうなと思う程度。
    商法は、選任決議の瑕疵について、先行決議の瑕疵が後行決議に連鎖するという立場を取ればそうなるだろうなと思うし、後行の決議の争い方についてどこまでのことを求めるかという点については、指摘に納得。争う側に過度の負担となるのは適切ではないだろうし。
    刑法の一つ目は相手に対し脅迫めいた文言を用いての執拗且つ強度の働きかけをして相手を妄信させたことで間接正犯を認定したのは興味深く感じた。
    刑法の2つ目は207条の使い方について、この最判がどう考えているかの解説が印象的だった。
    刑訴は、事件概要のところで問題の所在が分かるように書いた方が良かったのではないかと感じた。解説を読まないと何が問題になったのか読み取りづらいのは宜しくない気がした。

*1:著者安藤先生は某先生のご兄弟ではなかったかと