契約書の見方・つくり方〈第2版〉 (日経文庫) / 淵邊 善彦 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。AC企画のこちらのエントリでご紹介のあったもの*1

契約法務業務に接する人が最初に手にする本としては優れた本と感じた。

新書版で240頁弱という限られた紙幅(その反面で、通読するには手頃な分量ともいえる)、契約法務で重要度の高い話題を浅く*2、ではあるけれど一通りカバーしているというのが、こちらの本書についての全体的な印象。


債権法改正の時期に出たことから、改正法についての記載が別記されていること*3や、法律論以前?の契約法務の実務について最初に認識しておくべきこと(例えば、企業間契約は基本はパワーゲームで内容が決まる、とか、会社の支店や事業部門が契約の当事者になれるか、という問題への答えとか...)にも触れられているうえ、末尾にこの先の読書案内*4もついており、契約法務に携わる方が最初に手にする入門書としては良いのではないかと思う。

 

他方で、「まえがき」には、「本書は、主にビジネスパースン向けに、契約書に関する必要最小限の知識やセンスを身につけてもらうための入門書です。」とあるが、ビジネスパーソン向けというには、この本は、無理があると思う。一般的な契約書についての本の構成をなぞっていて、専門用語は説明なしに出てくるし、難しい概念もそこまでかみ砕いていない*5。法務とかに縁の薄い、一般的なビジネスパーソンは、この薄さ(そもそもこれでも「薄い」と思わないかもしれない。)であっても、通読できないのではないかと思う。

 

「まえがき」にあるような用途という意味では、同じ新書版の本であれば、個人的には、やや古いものの、福井先生の「ビジネスパーソンのための契約の教科書」の方が適切だろうと思う。親近感の湧きやすい話題から入って、法務に縁が薄い方でもわかる平易な文章で、「上から目線」ではなく語り掛ける、という点で、今なお優れていると感じる。

 

ともあれ、本書も、先に述べたような用途では優れているのは間違いない。こうした用途を前面に出しても売れる量はたかが知れているだろうから、「まえがき」のような物言いをしただけかもしれないので、この点に目くじらを立てすぎるのも大人げないかもしれない。前記の意味で、法務担当者の座右においておいても損のない一冊と感じた。

*1:以前本書の初版にも目を通していた。その時とは感じ方が異なるかもしれないが、そこは、進歩があったが故ということにしておきたい(汗)。

*2:大事なことにさらっと触れていて、読み落とす可能性もあるので、ベテランに訊きながら読むとより良いのかもしれない。

*3:古いものを読む際には改正前の議論も理解していないといけないので、今なおこの形は適切と考える

*4:挙げられているものすべてについて賛成するものではないが...。

*5:法務担当者の素養がある方であれば十分わかる程度にはかみ砕いた説明ではあるのだが。