Q&A改正公益通報者保護法 / 中原 健夫 (著), 結城 大輔 (著), 横瀬 大輝 (著), 福塚 侑也 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。180頁とコンパクトな中に要点がまとまっていて、有用な一冊と感じた。

 

著者の先生方は、関連する内部規程案を作成され、それが消費者庁のサイトで紹介されるなど、この分野での知見のある先生方。この先生方が、以前、消費者庁の担当官も交えての改正法のセミナーを開催され、その内容が有用だったことから、本書を書店で見て購入した次第。

 

本書の内容は、前記セミナーの内容よりも、もっと基本的なところに重点をおいて、最新の指針やその解説を踏まえて、Q&A形式の50問で、改正法の全体像とそれに基づく実務を概観している。

 

B6版で180頁とコンパクトな中に納まっていてその分量の制約ゆえに書かれていないこともある。まず、社内規程等の文例やサンプルはない(社内規程案については、消費者庁のサイトにあるものを見るのが良いのだろう)。また、これまでに生じた裁判例や報道されているレベルでの実例の紹介もない。具体例があった方が分かりやすいというか、身近に感じられるかもしれないが、そういうものは出ていない*1。あくまでも、条文や指針及びその解説を基礎とした手堅い解釈論に徹している、というのがこちらの印象である。

 

通報者等の個人の感情面も含めたセンシティブな話が絡む分野でもあり、通報者の保護の要請と通報調査・是正措置の兼ね合いが難しいことも多く、難しい話が色々あるというのがこちらのこの分野についての実感である。だからこそ、本書のような、通読可能な分量のコンパクトな本で全体像を視野に入れつつ*2、基本的なことをしっかりと押さえておくことが重要になるのではないかと感じる。個別の細かい話は、そういう基本的なところを抑えた後で考えるのが結果的に効率的だろうと感じる。改正法に基づく制度の運用が始まった今だからこそ、運用開始前にあったであろう色々な検討は一旦忘れて、今一度、法律上の制度の基本を確認しておく、ということには、相応の意味があるような気がするし、そういう用途の書籍としては本書は良著と感じた。もちろん、この分野の最初の一冊としても使える本だろう*3

*1:そういう意味ではある程度法律書を読み慣れていないと、本書は読みにくいのかもしれない。

*2:今回の改正関連で何冊か本は購入したが、こちらの場合、興味関心の高い分野ではないこともあって、通読できた本は多くない。

*3:もっとも、入門的な位置づけとして使う場合は、その先の案内がないという点は、使いづらいかもしれない。その場合は注記等に出てくる文献を当たるのが良いのだろう。