株主間契約・合弁契約の実務 / 藤原 総一郎 (著, 編集), 大久保 圭 (著), 大久保 涼 (著), 笠原 康弘 (著), 粟谷 翔 (著), 加藤嘉孝 (著), 宇治佑星 (著),

遅まきながら、TL上でも話題になっていた本に目を通したので感想をメモ。この分野の実務書、としては手元にあって損のない一冊であることは間違いないのではないか。

 

先般感想を書いた「M&Aの契約実務(第2版)」の著者達が、事務所の若手(相対的)も加えた形で著されたのが本書で、叙述のトーンとかが似ているという印象を受けた。同書と合わせて読むと良い感じかもしれない。

 

構成としては、そもそも株主間契約・合弁契約とは何か、という話から始まり(第1編)、一般的なその種の契約書の内容についての条項ごとの解説が来て(第2編)、その後に、取引類型別の留意事項についての解説(第3編)が来る形になっている。第1編は、まず最初に抑えておくべき点が簡潔にまとめられていて有用と感じた。第2編では、ガバナンス周りの話、特に拒否権条項のあたりが、興味深かった。また、第3編では、金融投資家が当事者になる場合の解説のところで、PEとVCとでも振る舞いが異なり、それが契約条項としてどういう違いになるかというあたりの対比が興味深かった。

 

全体で220頁ちょっととコンパクトに収められていて、読みやすいので、通読して手元において参照するのに適していると思う。いくつか印象に残った点などをメモしておく。

  • 実務書ということもあって、理論的なところでは、同時期に出た「会社・株主間契約の理論と実務」に基づいているところが多く、その意味では同書と併読すべきなのだろう。こちらも時間を見て併読したいところ。
  • 日本法に基づく話が基本になっていることもあってか、渉外要素の入った部分の話はあまりなく*1、そのせいか、合弁の解消やデッドロックに乗り上げた際の話は、あっさり目で、この辺り、特に紛争解決手段を用いたもの、を期待していたこちらとしては、やや物足りなかった。この辺りは本には書けないということなのかもしれないが。
  • また、解消後の措置についても、事業会社の合弁会社の解消に関しては、在庫の扱いとか、当時会社からライセンスを受けていた知財権の扱い(M&A契約におけるstand alone問題に似た話になるような気がする)とか、色々考えないといけない話があるような気がするけど、そのあたりももう少し解説してほしかった気がした。

特に株主間契約については、このクラスの本で類書がない印象なので、通読の上で手元において、必要に応じて参照するのが良いのではないかと感じる。今後も適宜改訂してもらって長く読まれてほしいと感じた一冊だった。

*1:そこまで言い始めると、「用法上の鈍器化」してしまうのかもしれないが。