営業秘密のトラブル相談Q&A─基礎知識から具体的解決策まで─ / 三山峻司 (編集), 室谷和彦 (編集), 井上周一 (著), 白木裕一 (著), 池田 聡 (著), 清原直己 (著), 矢倉雄太 (著), 西川侑之介 (著)

一通り目を通したので感想をメモ。営業秘密周りの実務の概要を示すコンパクトな本として手元にあって損のない一冊というところか。

 

知財系でお名前を拝見する三山先生以下、関西の先生方が営業秘密周りの実務について、Q&A形式でまとめた本、という感じの本。営業秘密に関する最新の実務(裁判実務というよりも企業側の対応実務)について、通読可能なレベルのお手頃な分量にまとめられた本は、これという本が中々ない気がしていた*1。本書が出るのを知って、本屋で中身を確認したところ、良さそうという判断になったので、買ってみた。

 

300頁弱という通読可能なコンパクトさで、営業秘密に関する様々な論点を広範に拾って解説してくれている。全体は、第1章で基礎的な知識を確認したうえで、第2章で漏洩が生じた際の対応(ある意味で有事対応)、第3章で営業秘密の管理(平時対応)、第4章でトラブルに巻き込まれないための対応(予防的措置)という構成。不競法以外に関するものも含め、ガイドラインなど政府から出ている種々の文章や裁判例も丁寧に拾ってくれているし、誓約書の類や秘密保持契約の文例もあるので、この分野の実務に携わる際の最初の一冊として、手元にあって損はないのではないかと思う。個人的には一読の上手元においておくのが良いと感じた。

 

個人的に印象の残ったのは、秘密保持契約についての解説。個々の条項の文言以前に、個別の条項がなぜ必要なのか、ないとどういう問題が生じそうかについての解説が丁寧にされていると感じた。

 

他方で、気になった点もあった。

  • 明言されているわけではないが、日本法の世界だけでの検討なので、国をまたぐ話については記載はない*2。この分量に収めようとするのであれば、それは悪い判断ではないだろうが、一言コメントがあってもよかったのかもしれない。
  • 広範に拾おうとしているようで、個々の解説について、記載が「薄い」と感じるところもないではない。全体の分量を抑えるうえではやむを得ないのだろうが、そういうところは、その先の文献への案内がもう少しあった方がよかったかもしれない、と感じた。
  • 企業への入社時の対応で、入社後に漏洩をしないなどの誓約書を取り交わすなどの記載のところに(Q21)、経験者採用に際しては従前の職場の秘密を持ち込まないよう制約させる話がないなと思ったら、別のところ(Q36)に記載があった。同じ場面の話ともいえるので、記載をまとめるなり、別のところに記載するなら、当該箇所の指摘もしてほしかった。

 

コンパクトさと広範さが良いと感じたので、できれば今後も適宜のタイミングで改訂を継続して言ってもらえればと思う。

*1:こちらの好みも相まってのことなので、異なる判断をされる方もおられるだろう。

*2:したがって、毎度おなじみのNDAにおける、漏洩などによって金銭で賄いきれない損害が生じる云々の記載やその意味の解説はない。