実践!! 秘密保持契約書審査の実務 / 出澤総合法律事務所 (編集)

 

気の迷い*1もあり、某二次妻・無双御大がBLJ2020年3月号で書評をされてこともあり、購入してみた。同書評で

「いくつ疑問点を発見できるかによって、自身の法務パーソンとしての力量を測ることができるだろう」

という物騒な(?)ことが書いてあったので、読みながら感じたことを呟いて*2、その内容を基にメモをしてみる*3。総じていうと、初歩的なことから丁寧に説明しているし、クロスボーダー取引は視野の外などの限界を理解したうえで読む分には、良い本ではないかと感じた。分量のお手頃さも考えると、この種の契約書を見る上で最初に手に取るのにもちょうどいいと思う*4

 

第1章について

  • 既に二次妻・無双御大からコメントがあるように、そもそもNDAで対応すべき話なのかという吟味がないというところは留意が必要。ここはおそらく2つの意味が含まれていて、一つ目は、合意内容として単純なNDAのみの取り交わしで足りる内容なのか、NDAではなく、共同研究契約とか共同開発契約を取り交わすべきなのではないかということ。もう一つは、もっと手前の段階での話で、そもそも契約書を取り交わすべき相手なのかということ。所謂反社チェックのような相手方の素性の確認だけではなく、信頼して取引ができるか、その前提として情報を開示して、または、開示を受けて大丈夫な相手なのか、ということの吟味が入るような気がする。もっともこの辺りについて、企業の外の弁護士さんに解説を期待するのは酷なのかもしれないけど。
  • 当事者に自らの下で動く別人格の者が関与する場合の扱いについては、グループ会社が考えられる場合や、商社が取引の間に入る場合、開示を受けた情報の検討過程に関与する下請など企業グループ外の者も想定される。グループ会社などの場合は、内部での再編とかで法人格が変わったりするので、その辺にどう対応するのか、という問題がある。そのあたりについて相手方が把握するのは難しい。他方で把握していないと、いざことがおきたときに仮処分とかはかけづらいかもしれない。他方で関与する関係会社をリスト化してそれを適宜メンテナンスするというのは負担が大きい。親会社が責任を負うと言っても、金銭損害はそれでいいけど、漏洩行為そのものを何とかしたいときには、やはり仮処分とかがしやすい方がいいので、関係する関係会社は把握しておきたい、この辺りは悩みどころかも。
  • NDAと取引基本契約書の併存の在り方として、存続期間を後者にそろえると、後者が数十年とか生きるときに困るかもしれない。
  • 社内体制の整備は、開示側受領側双方にとって重要。自社の現行の体制で対応できるか、何らかの変更を求められる場合、変更に伴う負担に耐えられるか、ということが重要。書面だけの問題で考えてはいけない。きわめて機微性が高ければ秘密情報に接する個人単位で誓約書を取る等の対応も必要かもしれない。

第2章

  • 契約の目的については、目的外使用について文句を言いやすいように、目的を明確にするというのは重要だけど、それに加えて、目的として書いた範囲に含まれる(と強弁される)行為については、文句が言えなくなるから、その意味でも吟味(むしろ覚悟?)が必要。
  • 秘密情報の定義は、そもそもNDAの下でいかなる形態の字秘密情報が、いかなる状況下でやり取りされるかを、もれなく想定するというのが肝と感じた。工場見学のように有体物(電磁的なものも含む)を渡す場合以外が抜け漏れが生じやすいのかもしれない。書面で開示しないものを事後的に書面で特定する場合は、共同開発のような場合に定期的に進捗報告とかをしているなら、その際に議事録を取り交わしてその中で情報の開示について書く形がおそらく実務的に負担が少なかろうという気がする。取り交わしの頻度と特定の期限との対応が必要だろう。
  • 3条3項。管理方法の指定は管理体制と同様に双方にとって持続的に対応可能なものとなっているかが肝な気がする。公的機関からの開示要求の件は、例のよくある間違いについての言及が丁寧でよい。M&Aがらみの時に証券取引所から開示を求められるような事例に、私企業たる同所が「官公庁類似」といえるかは疑義が残りそうなので、必要に応じて明文でカバーしておく方が無難な気がする。あと、官公庁から開示を求められた事実を相手方に伝えるという規定の仕方をすると、dawn raidの時のように資料は持っていかれたうえその事実を外部に伝えるなと言われたときに詰む可能性があるような気がする。情報の取扱責任者を定めるところで個人名を書くのは、人事異動とか退職とかの都度変更が必要になるし、肩書(営業部長)とかで書いても、そのポスト自体が組織変更でなくなると変更が必要になるので、その辺の手間暇との見合いになる気がする。実際やると煩雑になる(経験あり)。
  • 3条4項。事故時の対応について、相手方の指示を求める旨明記すると、自社にとってご無体な指示を出されたときにややこしくなるので、対応につき協議という程度の方が無難な時もあると思われる。契約違反に対する損害賠償請求については、請求される金額が跳ね上がる危険を回避する意味では損害賠償金額に上限がある方がいいのだろうが…入れる数字の根拠が難しいかもしれない。
  • 4条。秘密情報を全部返すまたは廃棄すると、何の開示を受けたのかはっきりしないから、一部だけコピーを残す(事業部門においておけないから法務部門で管理)という発想もあり得るかもしれない(ライセンス契約とかでは見る話)*5。秘密情報の返還で、開示側が求めたときは、返す、みたいな既定ぶりは、開示側にとっては必要だろうけど、受領側にとっては、まだ使いたいときに要求が来てしまう危険があるので、個人的には何だか微妙。(とはいえ、文言を変えると、却って情報を開示する・しないのレベルでの判断になるので…)
  • 5条。義務の不存在は重要。開示義務については、相手方の挙動が不審な時に開示しないという選択肢を取る必要がでてくるはずで(相手方が反社と判明したときが一例か)、それを正当化する意味で重要な気がする。
  • 6条秘密期間。義務の存続期間を長くしすぎると管理が面倒、短すぎると効果が不十分になりかねないので、悩みどころか。情報単位で、開示後何年間という規定の仕方も想定可能で、開示可能期間が長い場合はその方が適切かもしれないけど、総じて管理の手間が大変な気がする。
  • 7条権利義務の譲渡禁止。規定はないよりはあった方がいいとは思うが、必須とまではいえないような気がする。包括承継との関係では、契約解除条項の中にchange of control条項を入れるべきという気がする。相手方の同業他社による買収の場合のように解除条項を発動して、情報の回収又は廃棄を求めるべき場合もあると思うので。この本の雛形では解除条項はないけど、個人的にはあったほうがいいと思う。例えば相手方が事後的に反社とわかった場合は、その旨明言するとそれ自体が紛争の種になりかねないので、判明後は爾後の開示を避けつつ、解除に向かうべきで、理由なしに事前通知の上解除可能とする方が無難ではないか。
  • 8条のところは、何だか微妙。もともとクロスボーダーな取引までは想定していないっぽいから仲裁のメリットとしては守秘性がメインだろうけど、特定分野の専門性を有する仲裁人を選定可能(秘密情報性とかNDA違反の損害とかの認定はしやすくなるはず)な点は指摘すべきではと思う。他方で、緊急性が高いときには、国内で考えれば仮処分とかを考えるんだろうけど、仲裁条項が妨訴抗弁になったりしないのかとか、気になってしまう。仲裁前提で暫定的な措置を仲裁人が命じられるのかというのは別途問題があるはずだし。

3章

  • 開示情報の正確性のところでは、開示情報が第三者知財権を侵害していないことの保証を求めてくるケースもありそうだけど、そこまでは流石に無理だろう。そもそも調査しきれないし。
  • 監査条項は、立ち入りを認めると別の情報漏洩の危険が生じかねないので、記載のような質問事項で対応が無難という気がする。
  • 知財権の処理は、受領者が行った発明等の権利化のための出願書類に開示した情報が記載されていないか事前に確認する手段の確保が必要な気がする。
  • 差し止めとかのところは、英米法下での適用可能性を考えるなら、英文契約で出てくる表現の和訳的なものにしておく方が無難なのだろう。その意味で文案はイマイチなのではなかろうか。責任限定はなじみにくいというのはそのとおりだけど、リスクを抑え込むという趣旨からは入れることを考えても良いのではなかろうか。難しいのは事実としても。
  • 残留情報についての記載は、開示側視点で書かれているように見えるが、受領側視点で考えることも必要。場合によっては、コンタミクレームを避ける意味で開示を受ける情報に接する人間と、受けない人間との間で壁を作る必要が出てくるので、契約締結時にそこまで考えられるかがカギになるかも。
  • 秘密情報の中に個人情報が含まれていたときの扱いについては、まあ、そうだろうなと。ただ、そもそも受け取らないようにできないかという発想はあるだろうけど。
  • 反社条項については、前にエントリでも書いたけど、発動して、解除が円滑にできるのか疑問が。相手に指さしてお前反社だから解除するといって、言われた側が情報とかをきちんと返還してくれると思える状況ってどういう状況?と思う。むしろ何も言わずに事前通知で解除できる方が無難では?
  • 解除条項には、理由なし事前通知のうえで契約解除ができた方が無難な気がする。あと存続条項については、当該条項そのものが入っていないとおかしいのではないかという気もするが。
  • その他の条項については、開示を受けた側がフィードバックをする場合の、フィードバック内容の知財権の帰属とかも時には検討が必要(フィードバックに至る検討に投下した費用の回収の問題を考慮する必要があるだろう)。輸出管理は、米系は米国の再輸出規制の適用の問題が出てくるので、そのあたりで揉める可能性はある(4社目ではNDAでこの辺りで揉めることが相当あった)。とはいえ米系側がこの点はネゴ代がないことが多いことにも注意が必要。協業禁止・引き抜き禁止は個人的には単体のNDAでは見たことがないけど、時には必要なんでしょう、きっと。ホントに要るのかは、入れても実効性が確保できるのか、という点も含めて検討が要りそうだけど。
  • データの話は第1章に書くべきだったのではないかと。

第4章

  • 採用時の誓約書については、書類に残すことだけではなく、特に中途採用の時は、前職の資料とかを持ち込むなと入社時に念押しすることが重要と感じる。所詮紙は紙でしかないので。調査協力義務の履行は訴訟は難しいから仲裁でというのは興味深い。
  • 退職時の誓約書で、自社の知らない自社名義のNDA締結がないことの誓約というのは興味深い。ただ、誓約書自体、退職の経緯如何では徴求が難しい気が。退職時に徴求が難しいときに備えて定期的に誓約書を取っておくというのはあり得るアプローチなんだろう。
  • 不競法の話のところは、どこかのタイミングで直近の改正に即した改訂があって然るべきなのかなと感じた。

*1:立ち寄った最寄りの本屋で売っていたからなのだが

*2:思考が駄々洩れだが(汗)

*3:大概のことは既にエントリ等にしているような気もするがそこはご容赦あれ。また、いつものように内容はこちらの経験にこれまでの基づくものなので異論があり得ることは言うまでもない。

*4:一方で、経産省の雛形へのチェックの入れ方が、結構細かく見ていて面白い。

*5:この点については、奥邨先生の呟きもご参照あれ。