NDAについて:最初から考えてみる

またかよと言われそうだが、メモをしてみる。

NDAについて、鳥瞰的なメモを作ったことがあったのを思い出したので、それに加筆をしたものを貼ってみる。個別の話は色々書いたことはあるけど、もっと手前?というか、最初の一歩から考えてみたメモ。

#一旦upした後、TL上でいただいたご指摘等(煩雑なので逐一記載はしませんが、ありがとうございました)を踏まえて加筆修正をした。今後も適宜する予定。

 

前提として、メーカーで、顧客(潜在的なものも含む)からNDAの案文を検討する際のことを考えている。そういう場合は、実のある(裏を返せば、不用意に外部にわたると自社にとって損失となるような)情報のやり取りがその後に想定されており、どこぞで揶揄されたような「儀式」的なNDAの締結とは異なると見ることが出来る。メーカーでサプライチェーンの最下流にいない場合は、自社製品の売り込みのときや、自社製品の材料を作る際の材料調達などのとき、例えば、仕様書等外部に出している情報を超える情報を開示して、採用して購入先での製造などに耐えるか、適しているかを検討するような機会にNDAというのが多い気がする。

また、秘密情報のやり取りは双方向であることを前提とすべきと考える。特に技術系の方々が、顧客の技術系の方々と、技術周りの話を始めた場合、NDAなしには開示できない自社の秘密情報だから、開示をしないというような考慮ができるとは考えにくく、ややもすると、NDAを気にせず、秘密情報を口にしてしまうことが考えられるからである。

 

0.いきなりNDAの案文に飛びつく前に検討すべきことがある。

(0)そもそも情報開示するのかというところの検討が必要。いうまでもなくNDAは文書(電磁的なものも含め)でしかなく、それ自体に何らかの法的な効力があるわけではない。相手が守る気がなければ意味がない。契約を守らない相手と契約をすると何を規定しても無意味だろう。時として、そういう相手と契約締結それ自体がリスク要因となる。そういう意味で、次の諸点は確認が必要だろう。

ア 反社チェック等相手方の素性の確認はしたか。

イ 秘密情報の管理が適切になされているかどうか疑いを抱かせるその他の事情はないか。

また、仮に相手が決められたことを守ろうとしても、ミスで開示した情報が外部に漏れる危険は0にはならない。その意味で、どうしても保護したいというのであれば外部との共有をすべきではない、という結論になることもあり得るはず。

それとは別の話として、情報を受領して、自社側の情報と混じってしまう、所謂コンタミネーションの問題が生じる場合もある。メーカーであれば似たような開発をしているときには注意が必要だろう。技術情報などを受領しても、その情報を理解し、つかいこなさる人間が社内に一人しかいないときには、その人間のところでコンタミネーションが生じる危険は避けづらい。人的にファイヤーウォールなどを立てて、分別管理をするか、それが出来ない場合は、コンタミネーション以前の情報の保有具合を証拠化するなどの対応が想定可能ではあるが、そういう対応ができないのであれば、そもそも情報の授受をすべきではないという結論になることもあるだろう。

(1)NDAではなく、共同開発契約や業務委託契約で対応すべき話ではないのか。この点は、事業部門がやろうとしていることの全体像を踏まえる必要がある。相手方に作業を求める場合には、業務委託契約としたうえでその中で守秘義務等を定める方が適切だろう。また、研究成果が生じることが最初から想定される場合には、共同開発契約としたうえで、成果の帰属などと合わせて、守秘義務等を定めるべき。

(2)NDAだけでよいのか。NDAを締結した後に別の契約を締結するという形での対応が適切な場合もある。とりあえずNDAを締結して情報開示をしてみて、その情報に基づく検討結果を見て、その先のステップ(共同開発など)に進むかどうかを決めるのが適切な場合も想定される。そういう場合は、NDAの中で次のステップを設定することについて、事業部門がやろうとしていることの全体像との関係で、何らかの規定を設けた方がいい場合もある。

 

1.締結相手以外との秘密情報の共有範囲は適切に規定されているか。開示を受けた情報を共有することが想定されている相手との間で共有が円滑にできるか。社内については開示する必要のある範囲では開示が出来ないと困るが、そもそも開示する必要というのが、ややもすると拡大解釈されかねないのが難しい。また、情報の開示を受けて何らかの検討などをするのが通常と考えられるところ、その際に自社外の第三者が関与する場合には、当該第三者との情報共有が円滑にできるよう、事前にわかっているのであれば、必要な手当てをすることが望ましいはずである。

(1)あり得る自社外への情報共有の範囲の例としては次のようなものがあろう。

ア   関与するグループ企業

イ   関与する下請

ウ   関与する商社。

エ   職業的に守秘義務の課されている外部専門家(弁護士、公認会計士等)。メーカーの場合はこの類型の方々が出てくることは少ないが、一応想定は可能だろう。

(2)検討すべき点

ア   再開示の相手方が特定されているか。特定されていないと、こちらから開示した漏洩の疑惑が生じたときなどに仮処分などが申立てしづらくなる。他方で、グループ企業間で情報共有する場合に、いちいち規定するとなると、グループ内再編などがあった時には記載の更新等の事務が煩雑になる。開示する相手の契約当事者に文句を言える形にすることで、妥協せざるを得ないこともある。

イ   義務の規程ぶりが適切か。少なくとも締結するNDA上の義務と同等の義務を負う旨、再開示を受ける側に課しているか。

ウ   開示する契約当事者が再開示先の違反につき責任を負う形になっているか。

エ   事前に再開示の相手方のチェックが利くか。

 

2.目的の規定は十分なものとなっているか。

(1)秘密情報の外部への漏洩よりも、目的外使用の方が違反を検出しやすいように思われる。無関係な第三者が自社の秘密情報を入手していたとしても、当該第三者がその情報を誰から入手したかについて突き止める、つまり相手方が当該第三者に当該情報を渡したのかどうかを突き止めることが容易ではないと考えるからである。そこで目的規定は、できるだけ詳細にしたほうが良いが、詳細すぎると、範囲外になる事態が生じやすくなり、煩雑になることも想定される。様々な自社製品について、売り込みをかけているような状況下で、売り込みのためには、細かい仕様などの秘密情報を出すことが想定されているような場合には、かなり広範な目的設定をしていた方が、売り込みはかけやすくなる。ここは、バランスが必要と考える。

 

3.秘密情報の規定の仕方は十分か。

NDAの対象となる秘密情報の定義の仕方が甘いと、カバーされていると思った情報が実はカバーされていないというような「漏れ」が生じることになる。

(1)秘密情報として授受が想定されている情報がもれなくカバーされる形になっているか。

(2)本来秘密情報として授受することが想定されていない情報についてまで、カバーされて秘密保持義務の対象となっていないか。「・・・し得る情報」(実際に知得したかどうかとは別の問題になる。)という規定の仕方には注意が必要。

(3)書面(電磁的なものも含む)による開示については「Confidential」等の表記により秘密情報と分かるようにしているか。なっていない場合には、何らかの方法で秘密情報とそうでない情報と区分けできるか。この辺りは平素からの情報管理のありようにも関係する。

(4)書面によらない開示の場合(工場見学時に実際に接した情報(匂い、音も含む)、打ち合わせの際に口頭で話をした内容等)について、事後的にカバーする形になっているか。その方法が適切か(一定期間内に書面で示す場合、その期間内に対応可能かどうか。)。

(5)秘密情報の例外規定。

何でもかんでも秘密情報とすれば良いというものではない。管理が煩雑になるので、秘密情報と扱う価値のない情報はNDAの対象外となっている方が良い。

ア   NDA締結前から、または、NDA締結後に当社の契約違反行為なしに、公知公用となった情報、NDAと独立に開発などして知得した情報等。

イ   官庁などからの要請が来た情報を秘密情報の例外にしていないか。秘密情報の例外にしてしまうと、一回要請が来たらその後は誰に対しても開示可能となるので不適切(秘密保持義務の例外とすべき)。

 

4.秘密保持義務の設定の仕方は適切か。

(1)自社が負担できない義務を規定していないか。現状の管理状況との整合性が必要。社内の管理体制と整合していない規定の仕方をしていると、そのような規定の仕方それ自体がリスク要因となる。NDAは書面だけ見ていても役に立たないということは、この辺りに示されているものと考える。

(2)NDAを締結してやろうとしていることを阻害する、または、やろうとしていることに対して過度の負担となる義務の規定の仕方をしていないかの確認が必要。

ア   情報の複製の可否及び複製作成に際しての扱い。複数人で共有する場合に、逐一許可を取るようであれば煩雑。なお、複製をする場合には、契約終了時に複製物をどう処分するのかについても規定をしておくべきだろう。

(3)秘密保持義務の例外の規定は適切か

ア   官公庁からの要請により開示する場合、事前又は事後に開示をした当事者に連絡をすべき(保護命令を申し立てるなどの対抗措置を取ることが想定可能なため)。ただし、連絡自体を禁じられる場合もある(当局の立ち入りで資料が押収される場合等)ので、注意が必要。なお、官公庁とあると、証券取引所は私企業なので含まれないことに注意。M&Aの関係するNDAの場合等、適示開示などの必要性が想定される場合はこの点の手当てが必要となろう。

(4)授受する内容によっては、リバースエンジニアリングの禁止が必要。

(5)知財権が発生した場合の扱い:場合により知財部門との協議が必要。

ア   当社側の寄与がある成果について相手方帰属となっていないか。NDAで授受する情報の使用実態に応じて検討が必要。

(6)輸出管理関係の法令との関係:場合により輸出管理との協議が必要(米国法に基づく再輸出に関する規定がある場合等)。

 

5.契約の有効期間設定は適切か。

(1)期間設定。義務を負う期間は最小限に。有期の場合満了時の更新し忘れに注意。また、開示する情報の重要度に応じた秘密保持義務となっているかは要検討。長すぎても管理が負担になるばかりなので、バランスが重要だし、秘密情報について、陳腐化してNDAで保護する価値がなくなっていないか、という視点での検討も重要と考える。

ア   情報開示期間を定め、開示から*年間秘密保持義務を課す、という形で期間設定をすることもあり得る。ただし、開示のたびに、開示時期を記録するなど、管理が必要になるので煩雑。

(2)自動更新。管理が楽だが、解除し忘れが生じやすいので注意が必要。事業部門のスクラップ&ビルドが頻繁だと、事業部門が解体され、人もいなくなってしまった結果、解除されないまま自動更新され続け、ゾンビ状態になっているNDAが出てくるので、そこが難点か。

(3)余後効(契約が終了した後に残る義務)

ア   残すべきものが残っているか。例えば次のもの

(ア)知財権が出た場合の扱い。

(イ)紛争解決条項

(ウ)時折問題になるのが残留情報。秘密情報に接した従業員の頭の中には情報が残ることがあるので、その情報を使って何か成果が生じたときの扱いなども、考えておくべき時がある。と言いつつ、僕自身はこの辺りが真剣に問題となった事例に接した記憶はないのだが。

イ   残ってはいけないもの(秘密保持義務等)が残っていないか。終了した意味がなくならないようにすることを考えることになろう。

 

6. 契約解除の規定は適切か。

(1)事後的に相手方が反社と判明した時などは、相手方を反社だと名指ししづらいこともあろう。その場合には理由なしに解除できる方が良い。なので、一定の予告期間とともに自由に解除可能としておくべき。

 

7. 終了時の措置の規定は適切か。

(1)開示した情報につき、作成した複製物も含め当方への返却または相手方での処分が義務付けていないか。返却されても後始末に困る場合は、処分対応が簡便だろう。相手方がきちんと処分したか心配であれば、一筆念書を取るのも一案かもしれない。

(2)場合によっては、一部だけ保管しておいて事後の問題に備えるという対応もあり得る(その場合は法務で保管となろうか。事業部門に残しておくと使用される危険が残り、トラブルの原因となる。)。

 

8.その他の規程

(1)情報開示義務を課していないか。仮に課されている場合は受容可能な範囲か。相手からすれば、開示してほしいと思いそうだけど、自社としては開示したくない情報がある場合には、この点は重要となろう。

(2)開示する情報について正確性や知財権非侵害保証をしていないか。いずれにしても保証しきれないことの方が多いだろう。できないことは約束すべきではない。

(3)開示により知財権を付与していないか(開示情報の使用を認める以上のものを与えていないか)。

(4)反社条項。一旦情報開示を開始した後に反社と判明しても、その旨明示して解除とかは難しい(開示済の情報がどうなるか保証の限りではなくなる)ので、こだわる意味はほとんどない(仮に判明してもその旨適示せず、爾後の情報授受は中止して、他の理由による契約関係の離脱をするしかない)。

(5)損害賠償

ア   漏洩などに対して規定することがあり得る。損害賠償を求めるべき事態が生じたとしても、損害額が立証しづらいことも想定され、そうした場合への手当てとして予定損害賠償額を定めることもあろう。

イ   コモンロー系の考え方に即して、金銭で補償しきれない損害が生じる旨の規定が入っていることもある。コモンロー系では債務不履行に対しては金銭賠償が原則なので、仮処分をするためには、その種の規定をしておくことが必要と考えられている。

(6)変更手段

ア   変更内容が不明確になるのを防ぐ意味で書面(電磁的なものも含め)に限定することは一つの案。

イ   書面について役員などの署名を要求することもあり得るが、NDAの性質になじむかは要検討。

(7)準拠法

ア   日本法以外の場合は、紛争が生じた場合に当該法の弁護士に相談が必要になることもある。

(8)紛争解決条項

ア   手段。訴訟だと訴訟資料が公開される危険がある。不競法に基づく手当てが使えることもあるが、常に使えるとは限らないことに注意が必要。仲裁であれば手続を非公開にできる。訴訟の場合、金額的な面などを考えると簡裁ではなく地裁管轄が無難ではないか。

イ   場所。その場所で訴訟などを行うことが、適切か。相手方の場所、授受した情報の所在地などから考えることになろう。